パルデンの会

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距離感変わらぬインド外交

 

【国際情勢分析】新外相の妻は日本人 距離感変わらぬインド外交

インドの首都ニューデリーで講演するジャイシャンカル外相=6月6日(ロイター)

 インドで5月末、モディ政権の2期目がスタートした。新しい外相に就任したのは、ジャイシャンカル氏だ。元外務次官という官僚出身で、かつては日本大使館に勤務した経験もある。妻は日本人という知日家だ。

 ならば「親日家」とみられるかもしれないが、そこは官僚出身だけあって、外交姿勢に色がつくことは好まないようだ。

 6月4日、インドのヴァルマ駐日大使が東京都内の日本記者クラブで記者会見した際、ジャイシャンカル新外相の下で日印関係はさらに深化するのかを問われた。しかし、ヴァルマ氏は、「確かに(ジャイシャンカル氏の)妻は日本人で、本人は日本大使館で勤務していた。日本とは非常に緊密な関係にある」と答えただけだった。

 かつて駐米、駐中国大使も務めたジャイシャンカル氏が、外務省事務方トップの外務次官に就任したのは今から約4年前のことだ。当時、ニューデリーに駐在していた私は、就任パーティー「日本からの投資は伸び悩んでますね」と水を向けてみた。何らかの外交辞令が返ってくると思っていたら、「時間がかかるなら、他の国を当たるだけだ」と素っ気ない返事をされ、拍子抜けしたことを覚えている。

 インドで外務次官は、米国、中国、ロシアなどをはじめとする大国や、日本との外交を所管する。全方位外交が基本であることを若いころから叩きこまれているインドの外交官らしい答えともいえる。その後も、ジャイシャンカル氏から、日本を特別視するような発言は聞いたことがない。

 隣接する中国と領土問題を抱えるインドは、中国の「領土拡張主義」(モディ首相」に大きな警戒心を抱いている。特に中国の巨大経済圏構想「一帯一路」に対しては、主要国で最も厳しい態度を示している国といえる。

その理由は、一帯一路構想の中にインドとパキスタンが領有権を争うカシミール地方を貫く「中国パキスタン経済回廊」事業が含まれているからだ蜜月にある中パ両国が、勝手に回廊整備を進めることは、インドとしては決して受け入れられることではない。

 ヴァルマ氏は会見で、一帯一路について問われ、「インドの立場は非常に明確だ」と前置きし、「領土であれ何であれ国家主権を侵害してはならないというのがインドの堅持している立場だ。一帯一路の下、ある事業で実際にインドの一体性が侵害された。われわれは一帯一路に調印も参加もしていない」と説明した。

 ならば、日本や米国が推進し、一帯一路の対立軸となりうる「自由で開かれたインド太平洋構想」についてはどうか。

 これについてもヴァルマ大使は「インドの立場は明確だ」とした上で「包括的ですべての国を巻き込むものでなければならない。東南アジア諸国連合ASEAN)の中心性が担保され、当該地域のあらゆる国に繁栄をもたらすものでなくてはならない」などと注文を付け、「議論が続いてる」と、反対はせずとも慎重な姿勢を示した。

 会見の当日は、中国の天安門事件から30年という節目の日。米欧諸国からは、中国政府を批判する声明が相次いでいた。

 ヴァルマ氏は、中国政府がいまだ事件を反省せず、インドに亡命している多くのチベット人の同胞が中国で人権弾圧にあっていることを問われても、「特定の国についてコメントするのは難しい」などとあらかじめ用意していたとみられる短い答えを示し、中国に気遣いした。

 日本とインドの親密度は、5年前のモディ政権発足でかなり強まったことは確かだ。しかし、その微妙な距離感は、官僚から政治家になったジャイシャンカル氏の下でも大きく変わることはなさそうだ。(外信部次長、元ニューデリー支局長 岩田智雄)