3月24日現在、同検察官事務所が記録した事件は2472件にのぼる。ウェネディクトワ検事総長は23日、集めた事件をどのように扱っているか、概要をメディアに説明した。
「ウクライナの司法権が有効で、犯罪加害者が物理的にウクライナにいる場合、私たちが取る戦略はひとつだ。ウクライナで成功しないとわかれば、国際刑事裁判所(ICC)にリソースを振り向け、特定の人物、個人が処罰されるようにする」
それは、ロシアがウクライナに侵攻して1週間余りの頃に起こった。首都キーウ(キエフ)の西40キロにある小さな村ヤスノホロッカでは、隣人や友人たちか集まる有志グループが、コミュニティーの入り口を守る検問所で配置についていた。
3月5日の午後、村の司祭のロスティスラフ・ドゥダレンコさん(45)は、ヤスノホロッカの検問所にいた。ドゥダレンコ司祭の役割は、近づいてくる車をチェックすることだった。しかし、他の従軍司祭と同じように、ドゥダレンコさんも精神的なサポートを提供するためにそこにいた。その時、司祭は私服だった。
何が起こったのか、正確に立証することはできない。しかし、攻撃の生存者の一人、ユヒムさん(仮名)はBBCに、ドゥダレンコさんを含む十数人と検問所を守っていたところ、3台のロシア戦車が村を通過したと知らされたのだと話した。そこで一行は森の中に隠れ、必要なら戦車に立ち向かおうと決めたのだという。
検問所に近づくと、ロシア軍は「四方八方へ発砲」し始めたと、ユヒムさんBBCに語った。「私たちが草むらに隠れているとわかると、戦車で私たちをひき殺すために道路から外れ出した」。
戦車が道路まで戻ってきたとき、ドゥダレンコさんは姿を現そうと決めたのだと、ユヒムさんは話した。
「ロスティスラフが十字架を頭上に掲げ、隠れ場所から立ち上がり、何かを叫びながら戦車に向かって歩いて行くのを見た。ロシア軍を制止したかったのかもしれない。私はロスティスラフに声をかけようとした」
すると、司祭の方向へ発砲があった。ユヒムさんの位置からは、直接ドゥダレンコさんに向かって撃ったように見えたと言う。「それでおしまいだった。彼は2、3歩歩いただけで倒れた」。
ユヒムさんもこの攻撃で撃たれてけがを負った。その時点でウクライナ軍が到着してロシア軍を後退させなければ、その場のにいた全員が殺されていただろうと、ユヒムさんは思っている。
ドゥダレンコさんが所属していた有志グループは、軍とは無関係だった。同じグループのエドゥアルドさん(仮名)によると、軍事訓練を受けていたのは数人で、東部ドンバスでロシアと長年続く紛争で戦闘を経験した人たちだという。グループには、アマチュアの猟師もいた。参加者のほとんどは50歳以上だという。
エドゥアルドさんは当時、別の検問所を担当していた。エドゥアルドさんが到着した時にはロシア軍戦車は撤退した後で、道路には遺体が散らばっていた。その中にはドゥダレンコさんや、やはり丸腰だった輔祭、別の防衛志願者2人、そして見知らぬ人物が1人含まれていた。
ドゥダレンコさんの母ナディイアさんは、一人息子は自分の役割を果たそうとしていたと語った。
「息子はみんなを守れるようになりたいと思っていた」と、ナディイアさんはBBCに話した。
「説得してやめさせようとしたけれど、反論できなかった」
一行は猟銃に加え、少ないながらロシア軍のカラシニコフを所持していた。防弾チョッキはグループ全体に3着だけだった。しかし、ドゥダレンコさんは司祭として武器を持つことを拒否していたと、友人で同じく司祭のセルヒイ・ツォマさんがBBCに語った。
それだけに、ドゥダレンコさんがいざ戦車と対決しようと決めた時、撃たれればひとたまりもなかった。しかし、目撃者のユヒムさんによれば、こうした行動がドゥダレンコさんの本質だったという。
「ロスティスラフは親切で楽観的な人だった。だから、ロシア軍を止めようとしたんだと思う」
ツォマさんも、ドゥダレンコさんはヤスノホロッカではいつも人助けをする人物として有名で、日曜日のミサの前には、車で村中を回って年配の信者を集めていたと話した。
ドゥダレンコさんの奉仕活動自体も自己犠牲的なものだったと、常連の信徒の一人、テチャナ・ピリプチャックさんは言う。
ドゥダレンコさんが所属していたウクライナ正教会は、2019年にようやくロシア正教会からの独立が認められた。しかし、ロシアはこれを認めていない。
正式な分裂以前、ウクライナの正教会はモスクワに忠実な支部と、キーウに忠実な支部に分かれていた。ドゥダレンコさんはキーウ寄りの教会に所属していたが、2010年に親ロシア派のヴィクトル・ヤヌコビッチ元大統領がウクライナの政権を握ると、モスクワ総主教庁がキーウ総主教庁の教会を乗っ取り始め、ドゥダレンコさんの教会もその憂き目にあった。
ドゥダレンコさんは自分の信条を裏切らず、教会を出て屋外で、雨の中でも礼拝を行ったと友人たちは言う。その後、寄付を募ってトレーラーに仮設の教会を建てた。
ピリプチャックさんはフェイスブックのドゥダレンコさんの追悼ページに、「あなたがいなければ私たちの教会は路頭に迷っていた」と感謝をつづった。
また、ウクライナの第438条「戦闘規則の違反」に抵触する疑いがある事件も、政府機関が使用する集約ウェブサイトにアップロードされた。
「もちろん、捜査官の数は十分ではない。そのため、warcrimes.gov.uaという共通のウェブサイトを作った」と、ウェネディクトワ検事総長は説明する。
キーウ州検察庁は、3月5日のヤスノホロッカの事件については発砲をめぐる捜査が終了し次第、起訴状が出ると述べている。
同庁は声明で、「検察は、あらゆる戦争犯罪と、侵略国の兵士から将軍、軍部と政府の高官に至る加害者一人一人の状況を立証するために全力を尽くしている」と述べた。
また、一部のケースではロシア兵がすでにウクライナの起訴手続きの第一段階に直面していると述べ、「欠席判決の見通しについてだけ話しているのではない。それぞれの具体的なケースについて、戦争犯罪者はウクライナの法律に従って処罰されることになる」と説明した。
取材協力:スワトスラフ・ホメンコ
市民も子どもも殺せ」ロシア軍の音声か…ウクライナが“通話傍受”
配信
ウクライナ国防省は、ロシア側がゼレンスキー大統領の暗殺を狙う新たな傭兵(ようへい)の投入を明らかにしました。 ■国民の“窮状”訴えるも…自身にも危険が… 日本時間21日未明、イスラエルで行われたのは、ウクライナのゼレンスキー大統領によるリモート演説です。 ゼレンスキー大統領:「この侵攻で数千人が死亡し、数百人が自宅を失いました。そして、隣のポーランド、スロベニア、ルーマニア、ドイツ、チェコなど多くの国々がウクライナ人を受け入れています。ウクライナ国民は安全を求め、世界各地でバラバラになってしまった」 国民の窮状について訴えるゼレンスキー大統領。しかし、自らの身にも危険が…。 ウクライナ国防省は20日、ロシア側がゼレンスキー大統領ら、ウクライナ首脳陣の殺害を目的に新たな傭兵を投入したと明らかにしたのです。 ■ロシア軍が市民数千人を“強制連行”か… ウクライナ側の警戒が高まるなか、ロシアによる侵攻は厳しさを増しています。 国連人権高等弁務官事務所によると、今月19日までにウクライナで死亡が確認された市民は、少なくとも902人に上り、このうち子どもは72人だということです。 民間人への被害が深刻化するなか、CNNが報じたのは、避難所への爆撃です。 避難していた子どもや女性、老人などおよそ400人の被害については調査中で、詳しい状況は分かっていません。 そのマリウポリです。ロシア軍が包囲し市街地への攻撃が激化しています。 警察官:「あそこをよく見て下さい。あれは、破壊された街です。ロシア軍の飛行機が破壊した街の一部でしかありません。民間人を助けて下さい。子どもや高齢者が亡くなっています。街が破壊され、地上から消し去られようとしています」 しかし、ロシア軍は街の破壊だけでなく、信じられない行動に出ているようです。 マリウポリの市議会によると、1000人以上が避難していた体育館などからロシア軍が住民を連れ出したというのです。その多くが、女性や子どもで、携帯電話や書類を調べられ、強制的にロシアに送られたといいます。なかには、パスポートを取り上げられたという情報もあります。 今回の“強制連行”について目的は分かっていませんが、第二次世界大戦終結時には、57万人を超える日本人が旧ソビエト連邦のシベリアなどに抑留され過酷な労働を強いられた歴史もあります。 ゼレンスキー大統領:「マリウポリの包囲は、戦争犯罪の歴史に残るでしょう。平和な都市に占領者がしたことは、何世紀にもわたって記憶されるであろうテロです」 一方で、プーチン大統領に忠誠を誓うチェチェンの特殊部隊が公開したのは、マリウポリで民間人の避難を支援する動画です。市民の強制連行か、避難支援か、情報は錯そうしています。 ■極超音速ミサイル「キンジャール」再投入 そんななか、ロシア国防相が発表したのは最新兵器の使用です。20日、ロシア軍が極超音速ミサイル「キンジャール」を使って、ウクライナ南部にある軍の施設を攻撃したと明らかにしました。 ロシア国防省報道官:「極超音速ミサイルを搭載した『キンジャール』ミサイルシステムが、ウクライナのミコライウ地域の集落近くにあるウクライナ軍の大規模な貯蔵基地を破壊しました」 ロシア国防相は19日にも、この最新鋭のミサイルを使いウクライナ西部の爆薬庫を破壊したと発表しています。 ■「市民も子どもも殺せ」ロシア軍の音声か 人道危機への懸念も強まるなか、ウクライナ保安庁がロシア軍の通話を傍受したとする驚くべき音声を公開しました。 ロシア軍とみられる音声:「『全員殺せ』と言われた。『全員殺せ』市民も子どもも『誰でも殺せ』と。私たちは少数だ、そして包囲されている」 激しい攻防が続くハリコフで傍受したというロシア軍の音声。その内容は「市民も子どもも殺せ」という衝撃的なものでした。 ■専門的知識ある人へ…軍への召集令状も ロシア軍による“無差別攻撃”が色濃くなるなか、一般市民には軍への招集令状も届き始めているといいます。 ウクライナの現状について情報発信を続けるキエフ在住のボグダンさんのもとにも…。 キエフ在住 パルホメンコ・ボグダンさん:「届いていますよ。僕の友人のところにも届いていますし。ただ、段階があって、軍隊に元々所属していた人とか、実際に戦争への参加経験を持っている人とか。足りない技術者、それこそ軍って銃を持つだけじゃなくて、翻訳者とか通訳者とかIT技術者とか科学者とかいるんですよ」 トラック運転手でもあるボグダンさんも、軍に入ればドライバーとして参加することになるといいます。 ただ、あくまで専門的な知識がある人への招集で、全ての国民に届いているわけではないようです。 ■首脳会談要求…実現しなければ「第三次世界大戦も」 ロシアによるウクライナへの侵攻がはじまって21日で26日。ウクライナ諜報(ちょうほう)機関が、数日以内にロシアの同盟国・ベラルーシが参戦するとの懸念を示すなど、いまだ大きな進展のない停戦協議。 ウクライナのゼレンスキー大統領は、CNNのインタビューに対し、もしプーチン大統領との首脳会談が実現しなければ深刻な事態に陥ると訴えました。 ゼレンスキー大統領:「いかなる形でも、プーチン大統領と会談するチャンスを捉えたいと思います。その会談のチャンスを得られない場合、第3次世界大戦になることを意味します」 (「グッド!モーニング」2022年3月21日放送分より)
ロシア軍のウクライナ侵攻、いま何が起きている?攻撃された劇場に1300人が閉じ込められている可能性(解説)
緊迫化するウクライナ情勢、いま何が起こっているのか。
REUTERS
(※1月25日掲載開始。最新情勢を随時更新します。目次は下記地図の下に、最新情報は記事最下部にあります。日時表記は原則現地時間。日本とウクライナの時差は7時間です)
ロシアがウクライナとの国境周辺地域で軍備を増強しており、19万人規模ともされるロシア軍がウクライナに侵略するのではないかと懸念されている。
旧ソ連圏のウクライナは、東をロシア、西はポーランド・ハンガリーなどのEU圏、南は地中海へとつながる黒海・アゾフ海に面している。
まさにロシアとヨーロッパに“挟まれる位置”にあり、国内でも大統領選などで親ロシア派と親欧米派が対立してきた。
ウクライナはロシアとヨーロッパに挟まれる位置にある。
Pete_Flyer / Getty Images
こうした中で、ロシアのプーチン政権はウクライナのEU加盟やアメリカと西ヨーロッパの集団安全保障体制「NATO(北大西洋条約機構)」への加盟を警戒し、圧力をかけ続けてきた。
「ウクライナ情勢」が緊迫化するこれまでの大まかな政治的な経緯を、外務省の資料などをもとに簡単に振り返る。
【緊迫化するウクライナ情勢、これまでの経緯は?】
(1)2014年 親ロシアのヤヌコーヴィチ政権崩壊
きっかけは2013年11月のことだった。
ウクライナでは、親ロシア派のヤヌコーヴィチ大統領がEUとの連合協定をめぐる交渉を停止。これを受けて、EU加盟に賛成する野党やヤヌコーヴィチ政権の汚職を批判する市民が大規模な反政府デモを起こした。
2014年2月半ばには100名以上の死者を出すデモにいたり、ヤヌコーヴィチ氏はロシアに亡命。代わってヤツェニューク首相が暫定政権を発足させた。
(2)-1 2014年 ロシアがクリミア占領(クリミア危機) → ウクライナ東部に自称「ドネツク人民共和国」「ルガンスク人民共和国」
ところが、これにロシアが報復措置ともとれる動きを見せる。
2014年3月、黒海に面したウクライナ領クリミア半島内の自治領「クリミア自治共和国」にロシアが自国民保護の名目で侵攻した。クリミア自治共和国では住民の約6割がロシア系とされる。
こうした中で「共和国政府」とセヴァストーポリ特別市が一方的に独立を宣言。違法な「住民投票」を実施し、ロシアはクリミア半島を違法に「併合」した。以降、ロシアによる一方的な占領状態が続いている。
クリミア半島にはロシア黒海艦隊の基地があり、ボスポラス=ダーダネルス海峡を経て地中海へと抜けられるため、ロシアにとって軍事的な要衝である。
ロシアによる不法占領を受けて、ウクライナ東部でも情勢が急激に悪化。ドンバス地方ではロシアへの編入を求める武装勢力が「ドネツク人民共和国」「ルガンスク人民共和国」を自称し、一方的に独立を宣言。ウクライナはこれらを反政府武装勢力とみなし、占領された地域を取り戻すべく「反テロ作戦」を実施。戦闘状態に入った。
2014年3月、国連総会は「ウクライナの領土保全」について採決。「住民投票」の無効や他国によるウクライナの国境線の変更を認めないことを「賛成100、反対11、棄権58」の賛成多数で採択した。日本もウクライナ東部の情勢不安定化に関わっているとみられる人物などの資産凍結措置をとった。
(2)-2 2014〜15年「ミンスク」合意
ウクライナ東部での紛争激化を受けて、ロシア・ウクライナ・ドイツ・フランスの4カ国は、2014〜15年に和平プロセスを定めた「ミンスク合意」(2014年:ミンスク1、2015年:ミンスク2)を締結した。
2015年の「ミンスク2」の主な内容は、武器の即時使用停止・外国部隊の撤退・OSCE(欧州安全保障協力機構)による武器使用停止の監視・ドンバス地方の「特別な地位」に関するウクライナの法律採択・OSCEの基準に基づく前倒し地方選挙の実施などだ。
しかしロシアとウクライナは、ドンバス地方でロシアを後ろ盾とする武装勢力が実効支配する地域に高度な自治権を持たせる「特別な地位」を認めるという条件やドンバス地方で実施される地方選挙のタイミングなどをめぐって対立。
ミンスク合意に記された内容をどのような順番で履行するのか、動向次第では武装勢力の不法占領状態に法的根拠を与えることのなりかねないとウクライナは懸念している。
プーチン大統領は2019年4月、ウクライナ東部の武装勢力が支配するドンバス地方の住民にロシアのパスポート発行を認める大統領令に署名している。ただし、ウクライナでは現在二重国籍を認めていない。
ウクライナでは、現在国籍の二重所有は認められておらず、法によれば、誰よりまず公務員とあらゆる議会の議員による所有が許可されていない。(ウクライナ国営通信社「ウクルインフォルム」)
(3)2019年 ウクライナ、将来的なNATO加盟方針 → ゼレンスキー大統領、武装勢力と停戦合意
ウクライナは東部での情勢悪化を受けて、徴兵制の復活を含めて軍備増強を進めた。2019年2月には憲法を改正し、将来的なEU(欧州連合)・NATO(北大西洋条約機構)加盟を目指す方針を明記した。(※なおNATO側は、2008年のNATO首脳会議でウクライナの将来的な加盟を認めている)。
一方、2019年5月に就任したゼレンスキー大統領は、親EU路線をとりつつもロシアとも対話の用意があると表明。2020年7月、ようやくウクライナとロシアを後ろ盾とする武装勢力との間で停戦合意が実現した。ところが、2021年に入ってから停戦合意違反が増加。死傷者が相次いだ。
(4)2021年4月・10月 ロシア軍が国境に部隊配備「ウクライナのNATO加盟は認めない」
2021年10月18日の衛星写真。「クリミア自治共和国」のノヴォオゼルノエでロシア軍の配備が確認された。
Maxar Technologies/Handout via REUTERS ATTENTION EDITORS
2021年4月と10月以降、ウクライナとの国境付近でロシア軍の増強が確認された。
ロシア側はNATOがウクライナを軍事的に支援し、ウクライナもロシアとの国境地帯に軍を集結させていると主張。軍事行動を正当化しようと企図しているようだ。
2021年12月10日、ロシア外務省はウクライナとジョージアの将来的なNATO加盟を認めた2008年NATO首脳会議の決定取り消しを求める声明を発表。NATOがこれ以上拡大しない確約や国境付近での軍事演習の停止を要求した。
これに対し、アメリカ国務省は「ロシア政府は、ウクライナとの国境に10万人以上の軍隊を配備し、現在の危機を引き起こした。ウクライナ側には同様の軍事活動はなかった」とロシア側の主張を否定している。
プーチン政権は冷戦後の1990年代からNATO加盟国が東ヨーロッパに拡大したことに不信感を持っており、特にNATO軍のミサイルが東ヨーロッパに配備されることを警戒している。
目下、ロシア軍はウクライナを取り囲むように19万人規模の軍部隊を配備しているとされ、ウクライナ北部に面するベラルーシにもロシア軍が展開。2014年のクリミア占領時のように、ロシア軍が再び侵攻するのではないかという懸念が生じ、軍事的緊張が続いている。
【2022年1月:ロシアの軍事的圧力、米・欧は警戒】
ブリンケン米国務長官「全面戦争の時代に引き戻されてしまう」
アメリカとヨーロッパ各国は外交努力で事態打開を目指している。
アメリカのブリンケン国務長官は1月20日にドイツ・ベルリンを訪問。ベルリン・ブランデンブルク科学・人文アカデミーでの演説で「(ロシアの行動を見過ごせば)全面戦争の脅威が全ての人の頭上に漂っていた、もっと危険で不安定な時代に引き戻されることになる」と警鐘を鳴らした。
ブリンケン氏は1月21日、ロシアのラブロフ外相ともスイス・ジュネーヴで協議。だが大きな進展はなく、今後も協議を継続する方向で一致した。
NATOは増派、アメリカは武器供与&米軍8500人派遣準備
ウクライナ情勢の緊張悪化を受けてNATOは1月24日、東ヨーロッパへ艦船や戦闘機などの増派を決定した。
Allies are sending more ships & jets to enhance #NATO defensive deployments in eastern Europe. A strong sign of allied solidarity.
— Oana Lungescu (@NATOpress) January 24, 2022
Offers include:
🇩🇰 F-16 jets to Lithuania
🇫🇷 troops to Romania
🇳🇱 F-35 jets to Bulgaria
🇪🇸 frigate heading to the Black Seahttps://t.co/2GnJKupEA9pic.twitter.com/UvsRXpkvLT
アメリカも対抗措置として、すでにウクライナに武器を提供している。米国防総省は東ヨーロッパに8500人規模の米軍を派遣する用意だ。
The first shipment of assistance recently directed by President Biden to Ukraine arrived in Ukraine tonight. This shipment includes close to
— U.S. Embassy Kyiv (@USEmbassyKyiv) January 22, 2022
200,000 pounds of lethal aid, including ammunition for the front line defenders of Ukraine. [1/2] pic.twitter.com/YeYanK0Px6
バイデン大統領は1月24日、イギリスのジョンソン首相、フランスのマクロン大統領、ドイツのショルツ首相、NATOのストルテンベルグ事務総長、EUのフォンデアライエン欧州委員長らとオンラインで会談した。
ストルテンベルグ事務総長は会談について「ロシアがさらにウクライナへと侵攻すれば、深刻なコストを伴うということで一致した」とツイートしている。
Great meeting with @POTUS on European security with #NATO leaders @EmmanuelMacron, @OlafScholz, Mario Draghi, @AndrzejDuda, @BorisJohnson & our #EU partners @eucopresident & @vonderleyen. We agree that any further aggression by #Russia against #Ukraine will have severe costs. pic.twitter.com/r7wx0Xln4X
— Jens Stoltenberg (@jensstoltenberg) January 24, 2022
会談後、米ホワイトハウスは「ウクライナの主権と領土保全への支持」を表明した。
ドイツはウクライナへの武器供与を拒否、海軍トップは“失言”で辞任
ドイツ海軍のシェーンバッハ総監
REUTERS
ただ、EU・NATO内の足並みは乱れている様子もささやかれる。
アメリカがウクライナに武器を供与し、NATOの加盟各国が増派する中、ドイツはウクライナへの武器提供を拒否している。
さらにドイツ海軍のカイ=アヒム・シェーンバッハ総監(海軍中将)が1月21日、ウクライナ情勢をめぐりロシアが侵攻することはあり得ないとした上で「(クリミア半島は)もう戻ってこない」などと発言。ウクライナ側はこの発言に猛抗議し、シェーンバッハ総監は辞任した。
また、天然ガスの輸入をウクライナ経由でロシアからの輸入に依存していることもドイツにとっては懸案のようだ。
米ニュースサイト・週刊誌「ワシントン・エグザミナー」のトム・ローガン氏はウォール・ストリート・ジャーナルへの寄稿で、こう論じている。
ドイツ政府の対応からは、厳しい現実が分かる。それは、米国と第2次大戦後の民主的国際秩序が、中国・ロシアという2つの最も重大な安全保障上の脅威に直面する中で、ドイツはもはや信頼できる同盟国ではなくなったということだ。
ドイツにとっては、安価なガス、中国向け自動車輸出、そしてプーチン氏を怒らせないことが、民主主義に支えられた同盟諸国の結束よりも重要なように見える。
ウクライナの運命は、ドイツが担うべき責任の重さを伝えることになるだろう。
アメリカ国務省は1月24日、ウクライナの首都キーウ(ロシア語表記:キエフ)にあるアメリカ大使館員の家族や滞在中の民間人に国外退避を命じた。
また、必要不可欠な業務遂行に従事する職員以外にも退避を認めた。イギリスも24日、大使館員の家族と一部大使館員の退避を決めた。
日本政府もウクライナ全土の危険情報をレベル3の「渡航中止勧告」に引き上げている(※2/11付でレベル4「退避勧告」に引き上げ)。
【2月上旬〜中旬:米・欧の指導者、外交に望み】
ウクライナ情勢をめぐり、欧米各国の首脳が外交的解決に望みを託し、動きを活発化させている。一方のロシア側のラブロフ外相がプーチン大統領に欧米との交渉を続けるよう促したのとの報道も出ている。
REUTERS
2月に入り、アメリカは兵士3000人を東欧へ追加派兵するなどNATO諸国は引き続きロシアへの対抗措置をとっている。
一方、ロシア軍は隣国ベラルーシとの合同軍事演習を2月10日〜20日まで実施。ウクライナを取り囲むように13万人規模ともいわれるロシア軍が展開。黒海にも艦隊を派遣している。
こうした中でも、各国首脳はウクライナ問題の外交的解決に望みを託し、動きを活発化させている。
バイデン米大統領とプーチン露大統領が会談、議論は平行線
アメリカのバイデン大統領とロシアのプーチン大統領は2月12日に電話会談を実施。バイデン氏はロシアがウクライナに侵攻した場合「同盟国とともに断固対応し、迅速に厳しい代償を加える」と伝えた。
一方プーチン氏は、NATOが東欧への拡大停止などについて「意味のある回答がない」と主張。ともに従来の立場を主張し、平行線に終わった。ロシア大統領府によると「両首脳の口調はかなりバランスが取れており、ビジネスのようであった」という。
バイデン米大統領とジョンソン英首相「外交のための“重要な窓”は残されている」
バイデン大統領とイギリスのジョンソン首相は2月14日に電話で会談。米ホワイトハウスの発表によると、両首脳は「ウクライナの主権と領土の一体性に対する支持」を再確認した。
また、ロシアが軍事的緊張をさらにエスカレートさせる行動を選択した場合は「“深刻な結果”をための準備」を含め、同盟国と緊密な協調をとることを強調した。
イギリス首相官邸によると、両首脳は「外交のための“重要な窓”は残されている」と語ったという。
一方で、ヨーロッパ各国がロシアから輸入している天然ガスについて「(ロシアへの)依存度を下げる必要性を繰り返し強調した」とし、「この動きは、他のどの動きよりもロシアの戦略的利益の核心を突くものである」との認識を示した。
ジョンソン氏は14日、ウクライナ情勢について「我々は絶望の危機に瀕しているが、プーチン大統領が(ウクライナから)後退する時間はまだ残っている。我々はみんなで対話し、ロシア政府がロシアにとって悲惨な過ちとなることを避けるように促している」とツイート。外交的解決への希望を捨てていないことを示した。
We are on an edge of a precipice but there is still time for President Putin to step back. We're urging everybody to engage in dialogue and for the Russian government to avoid what would be a disastrous mistake for Russia.
— Boris Johnson (@BorisJohnson) February 14, 2022
上記のツイートからおよそ4時間20分後、ジョンソン氏はバイデン氏との会談内容についてもツイート。「ロシアが、ウクライナへの脅威から身を引くため