ロシアによるウクライナへ侵攻が始まってから一年が経った。ウクライナ戦争をめぐる中国と西側諸国の動きが顕著になっている。
米国のバイデン大統領は20日にキーウへの電撃訪問を果たし、大規模な対ウクライナ支援を表明した。バイデン氏は、「(米国とその同盟国)は、700両の戦車、数千両の装甲車、50を超える先進的なミサイルシステムおよび防空システムをウクライナに提供することを共同で承認した」と述べた。その他、5億ドルの支援も決定している。
一方、バイデン氏のキーウ訪問の翌日、中国外相の王毅氏はモスクワを訪問し、中国とロシアの「磐石」な関係を主張した。ロシア側も、「中露の封じ込めを目指す」西側諸国を念頭に置き、中露関係の重要性を強調した。
23日の国連総会では、ロシア軍の即時撤退とウクライナでの永続的な平和などを求める決議案の採決が行われ、欧米や日本など141か国が賛成して採択された。
総会の緊急特別会合では日本の林芳正外相も登壇した。「想像してほしい。安保理常任理事国があなたの祖国に侵略をはじめ、領土を奪取した後で敵対行為を停止し、平和を呼びかけてきたら」と問うた。林氏は「私はこれを不当な平和と呼びたい」と指摘。中露代表が主張する「平和支持」の矛盾を暗に批判した。
中国と西側の立場の違いが鮮明になるなか、米ニューヨークの飛天大学で教鞭を執り、中国問題に詳しい章天亮氏は、バイデン氏によるキーウ訪問は予想の範囲内だったと語る。
絶妙なタイミングでのキーウ訪問
現地時間19日未明、バイデン大統領と少数の関係者を乗せた大統領専用機は、ワシントン近郊の空軍基地を飛び立ち、ポーランドへと向かった。キーウまでの移動は秘密裏に行われ、ウクライナへの電撃訪問という形になった。
この度の訪問について章天亮氏は、「バイデン氏がポーランドを訪問する情報が入った時点で、キーウに訪問するだろうと考えていた」と語る。
章天亮氏は、バイデン氏がこのタイミングでキーウを訪問する理由はいくつかあると指摘する。
一点目に、中国の動きへの懸念を挙げた。近頃、中国共産党によるロシア支持の態度が強くなっており、武器支援さえ仄めかしていた。また、中国国家主席の習近平氏はモスクワへの公式訪問も計画していた。
章天亮氏は、「米国は必ずこのタイミングで、自由主義陣営のリーダーとして態度を示し、中露連携に対して威嚇と抑止を行わなければならなかった」と述べた。
二点目に、ヨーロッパの各国首脳やEU関係者が続々とキーウを訪れていたことに言及した。そうした状況で、「バイデン氏が訪れなければ、米国の態度が軟弱だとみられてしまう」と指摘する。
三点目に、まもなくウクライナ戦争の局面が大きく転換することとの関係性にも触れた。米国とその同盟国を中心とする軍事支援の準備が着々と進んでおり、それらがウクライナに到着し次第、戦局は大きく変わる。章天亮氏は、「NATOがウクライナ戦争を短期間で終わらせようとしている証だ」と述べ、これを踏まえた訪問だったと見ている。
八方塞がりの中国共産党
このような西側の支援の加速は、ウクライナ情勢への楽観的な見方と同時に、中国共産党(中共)の脅威への再認識に起因する、と章天亮氏は語る。
「中共政権こそが内部に潜む禍根だと認識し、米国もEUも戦略を変えている」
西側諸国が中共に対する警戒心を強める一方、中国は近頃、ロシアに対する武器支援を仄めかしていた。これに対し、米国やEUは、対露武器供与は「レッドラインだ」と強く警告した。
中国外相の王毅氏がボレル外交安全保障上級代表に対し、ロシアに武器支援をするつもりはないと述べたことが明らかになっている。
中国がこの期に及んでロシアを支持するのはなぜなのか。
ロシアへの武器支援は軍事衝突のリスクを大きく跳ね上げるが、一方で、ウクライナとロシア間で和平協定が結ばれる際に、中国が一定の影響力を行使できる可能性がある。
章天亮氏は、このロジックを国際政治で使われる策略の視点から説明する。
仮に現在停戦交渉を行うとしてもプーチン大統領には交渉材料がなく、ロシアにとっては屈辱的な講和になる。
「このような交渉になった場合、戦争を仕掛けたロシアが敗戦国として講和を求める形となり、プーチン氏は必ず戦争責任を問われることになる」
また、この戦争に終止符が打たれ、仮にロシアで親西側政権が擁立された場合、中共にとっては大きな打撃となる。
「もしプーチン氏が戦場である程度の優勢を保つことができれば、交渉の際には駆け引きの余地が生まれる。また、中共がロシアに武器を支援すれば、それはロシア側につく表明であり、少なくとも、プーチン氏は中共の支援のもとで前線を維持できたことになる」。こうして、交渉においてロシアは中共の言いなりになりやすくなるという。
しかしながら、このような方法は愚策だとした。
「中共は自らロシア側に引きずり込まれ、米国やEUの対中制裁に直面することになる。また、中露が協力しても、NATOの対ウクライナ支援の規模を拡大させるだけで、結局中露陣営が戦争に勝つことはできない」
章天亮氏は、ウクライナ戦争が局面を迎え、多国間の関与によって混迷を深めるならば、第三次世界大戦をも招きかねない、と懸念を示した。
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G7首脳、声明でロシアを非難 第三国の支援停止求める
主要7カ国(G7)首脳は24日、ロシアによるウクライナ侵攻から1年を迎えるのにあわせてオンライン会議を開いた。軍事侵攻を非難し、対ロシア制裁の強化とウクライナ支援の継続を記した首脳声明を出した。
ロシアへの武器提供を検討している可能性がある中国を念頭に、第三国のロシア支援の停止も訴えた。オンライン会議は岸田文雄首相が今年のG7議長国として初めて主催した。ウクライナのゼレンスキー大統領も参加した。
G7各国はロシア軍のウクライナ全土からの即時撤退を求めた。第2次世界大戦後、核兵器の使用がなかったことの重要性を強調した。
食料・エネルギーの供給不足などウクライナ侵攻を通じて生じた国際課題にG7が結束して対処する姿勢を明確にした。
日本は新たに55億ドル(7400億円程度)の財政支援を打ち出した。ロシアの個人・団体、金融機関の資産凍結や輸出禁止物資の拡大などの対ロシア制裁も示した。
首相はオンライン会議に先立ち記者会見し、ウクライナへの追加支援を表明した。農業の生産力回復へ同国産のトウモロコシなどの種子を調達し提供する。電力復旧へ10機程度の変圧設備や140台ほどの電力関連機材を供与する。
地雷の探知機や除去機、がれきを取り除く建機を送る。「日本の強みを生かしてウクライナに寄り添う」と述べた。
ゼレンスキー氏は24日に公表したビデオメッセージでロシア軍との1年の戦闘を振り返った。「我々は生き延び、負けることはなかった。今年は勝利するためにあらゆることをする」と語った。
中国外務省は24日、ウクライナ侵攻をめぐる独自の仲裁案を発表した。ロシアとウクライナの双方に停戦への対話を求め、中国が和平実現へ「建設的役割」を担うと主張した。