ロシアに絶対に勝たせてはならない、そのための作戦とは
JBpress より
2022.7.1(金)渡部 悦和
長距離ロケット弾での攻撃は首都キーウにも及んでいる(6月26日、写真:ロイター/アフロ)
ロシア・ウクライナ戦争が2月24日に開始されてから4か月が経過した。
首都キーウの占領を目指したロシア軍の第1段階作戦は失敗し、現在はウクライナ東部の2州(ドネツク州とルハンシク州)の完全占領を目指した第2段階作戦を遂行中だが、作戦目的を達成していない状況だ。
世界はこの戦争の影響に苦しんでいる。つまり、世界はウラジーミル・プーチンがいなくなることを望んでいる。
戦闘レベルでみると、ロシア軍が4月以来重視してきたセベロドネツク(Sievierodonetsk)の占領は6月26日になってようやく達成され、リシチャンスク(Lysychansk)を除いてルハンシク州のほぼ全域を占領することになった。
ロシア軍は現在、リシチャンスクを攻撃していて、その占領は遠くないかもしれない(図1参照)。
ロシア軍は今後、バクムト、クラマトルスク、スロビヤンスクなどドンバス西部の主要都市を支配するための作戦を継続すると思われる。しかし、簡単に攻撃が進捗することはないであろう。
図1 東部ドンバス地方の戦況の推移
出典:Ian Matveevのツイート(@ian_matveev)
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セベロドネツク占領は、大きな戦果だと宣伝するロシア側に対して、親ウクライナの立場の専門家は「セベロドネツク占領は小さな戦果であり、その小さな戦果を獲得するためにロシア軍は大きな犠牲を払った。戦略的にはウラジーミル・プーチン大統領の戦争は失敗している」と厳しめに評価している。
いずれにしろ、ロシア軍は現在、攻撃を継続していて、2月から3月にかけて何度も攻撃に失敗し、大きな損失を被ってきたロシア軍とは違った戦いを行っているのは事実だ。
ロシア軍は過去の失敗に対する反省に基づき、戦略・戦術・戦法を大きく変化させている。ロシア軍の強みを生かし、ウクライナ軍の弱みを衝いた作戦を採用している。
本稿においてこの点について紹介したい。
そして、ロシア軍のセベロドネツク占領を契機として、ロシア軍の第2次作戦を振り返るとともに、今後の展望をしてみたいと思う。
なお、ロシア・ウクライナ戦争については、拙著『ロシア・ウクライナ戦争と日本の防衛』(ワニブックスPLUS新書)を読んでいただくとより深く理解してもらえると思う。
第2段階作戦におけるロシアの変更点
第1段階作戦の失敗を教訓として、第2段階作戦では以下のような大きな変化を指摘することができる。
戦略目的の変更
ロシア軍の戦略目的は、「ウクライナ政権の転覆」「ウクライナの支配権の獲得」*1から「ゼレンスキーにプーチンの条件での和平を受け入れさせること」「ルハンスク州とドネツク州の完全占領」に変化している。
つまり、ロシア軍はウクライナ領土を奪おうとしている。
そのため、ウクライナ軍を敗北させるのではなく、重要な地域から彼らを追い出すことを追求している。
ロシア軍の戦術の変更
ロシア軍は領土を「少しずつ噛み砕く戦術」(「パイをバラバラにして食べる」戦術)を採用した。
この戦術は、広い空間で長期の戦争で敵軍を撃破するには不適である。
しかし、短期的には、この「少しずつ噛み砕く」アプローチは、多くの資源(人、兵器、資金など)を持っている側がより有利である。
具体的な戦術の変更点は以下の3点だ。
①作戦第1段階のような広範囲に戦力を分散させるような作戦を行うのではなく、戦闘力を局所的に集中する攻撃を重視する。
②機甲部隊を主体とする機動戦を重視するのではなく、徹底的に長距離砲(榴弾砲やロケット砲)の火力を重視することが成功のカギである。その際に、作戦地域を砲兵部隊の射程距離(15~20キロ)以内に限定する。
③大きな包囲網を作って敵部隊を包囲して撃破するのではなく、小さな包囲網を作ることにより敵を「追い出す」戦術が多用される。
図2は失敗した大きな包囲作戦の例である。
イジューム南方への攻勢は、ロシア軍が広い包囲網を作り、ウクライナ軍の大集団を包囲する最後の試みであった。
しかし、それは不調で、ロシアの将軍たちはすぐにこの案を放棄したらしい。
図2 イジュームからホルリプカへの大きな包囲の失敗
出典:Ian Matveevのツイート(@ian¬_matveev)
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*1=アントニー・ブリンケン米国務長官は6月26日放送のCNNで、「プーチン大統領の戦略的目標は、「ウクライナの主権と独立を奪って地図上から消し去り、ロシアに組み込むことだった」と指摘している。
ロシア軍の行動の変化
ロシア軍の行動は、抽象的には「徹底的に準備する」「ゆっくり、ていねいに行動する」「慎重にリスクを最小限に抑える」であり、以下の諸点を重視している。
① 要所要所でウクライナ軍に圧力をかける。
②現地における戦闘力の優越を確保する。
③側面から小さな迂回行動を行う。
④ウクライナ軍の防御態勢が半円形になるように導き、その後に大規模な突撃を行う。
⑤土地を占領したら、そこを要塞化する。
⑥負け過ぎないこと、情けない負け方をしないこと
セベロドネツクをめぐる戦闘
セベロドネツクの戦闘の経過
話を4月に戻そう。
ロシア軍が首都キーウの奪取を諦めて、ウクライナ東部2州の完全占領を目指した時期である。
ロシア軍司令部は、その最大の弱点である兵力不足を自覚していた。4月になると、兵力不足が明らかになり、動員をかける必要性が盛んに言われるようになった。
しかし、プーチンは動員により兵力を増強するのではなく、達成すべき目標を減らすことにした。
その時にプーチンが承認した攻撃計画が図3のようなものであったという。赤の矢印がロシア軍の攻撃方向であり、青の矢印がウクライナ軍の撤退方向である。
図3 4月にプーチンが承認したという攻撃計画案
出典:Ian Matveevのツイート(@ian_matveev)
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図4に示す通り、正面と両翼を囲まれた状態でセベロドネツクは攻撃されたのである。ウクライナ軍の凸角になっているゾロテ地区も同じ要領で攻撃された。
主な取り組みは、やはり正面からの攻防だ。
指揮官の立場からすると、正面からの攻撃と両翼からの攻撃の組み合わせはリスクを減らし、現地の状況をよりよくコントロールすることができる。
その結果、短期間の局地的な攻勢に続いて、要所への両翼包囲が繰り返されることになる。
そして、これはウクライナ軍が阻止するか、ロシア軍の部隊が力尽きるまで続くだろう。
図4 小さな包囲の実例
出典:Ian Matveevのツイート(@ian¬_matveev)
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図4は番号順に、6 ポパスナからの攻撃、7 リマンへの攻撃、8 セベロドネツク攻撃、9 スヴャトヒルスク攻撃、10 スヴィトロダールスク攻撃、11 ゾロテの周辺の攻撃を示している。
これらの作戦はすべて半径10~20キロの地域で行われ、多くの場合、複数の方向から集落を襲撃している。
ロシア軍の火砲数の優勢はウクライナ軍砲兵に対して10~20倍であり、この事実がロシア軍の攻撃がある程度の戦果を示している理由だ。
ロシア軍は圧倒的な数の火砲を1カ所に集中してウクライナ軍の戦力を徹底的に削減した後に、戦闘経験豊かな歩兵部隊(傭兵であるワグネル部隊、チェチェン人のカディロフ部隊など)を投入して攻撃する。
歩兵部隊の攻撃は3~5日続き、最終的にウクライナ軍を撤退させてしまった。
人工10万人のセベロドネツク市は数カ月の戦闘の後、建物の90%以上が砲爆撃され、すべてのインフラが完全に破壊されたという。
ウクライナ軍は6月26日、「新たな陣地や要塞化された地域に撤退し、そこから通常の戦闘行為を行うよう」命令を受けてリシチャンスクなどへ撤退した。
ロシア軍の次の攻勢は、リシチャンスクへの攻撃だ。
ロシア軍は、セベロドネツクの場合と同じスタイルで、同市を攻撃するであろう。
ウクライナ側の情報では、ロシアが対空ミサイルシステム「S-300」をセベロドネツクに移動させたという。
S-300は、短距離対空システム(Pantsirパーンツィリ)と併用され、航空阻止を行い、ウクライナ軍による長距離砲の使用をより困難で精度の低いものにするものであろう。
ロシアの防空網は全面的に強化され、ウクライナの無人機(「バイラクタル2」など)を効果的に攻撃し始めた。
ウクライナ軍は現在、1日あたりわずか20~30回しか出撃していない。ロシアの出撃回数は1日300回で圧倒している。
高機動ロケット砲システム「ハイマース(HIMARS)」のような長距離砲兵システムの有効性を著しく制限するため、無人機の領空侵犯を成功させることは重要な意味を持つ。
米国筋によると、最初のHIMARS(約束の4基すべて)がウクライナに納入された。
ロシア軍のセベロドネツク占領をいかに評価するか
ウクライナでの戦争が4か月になり、ウクライナ軍とロシア軍の戦いは一進一退のボクシングの試合に似ている。
双方が殴り合っているが、双方ともに決定的なパンチ力がなく、ジャブを打ち合う状態である。
しかし、リーチの長いロシア軍のジャブは、リーチの短いウクライナ軍のジャブに勝っている状況の中で、ロシア軍は3か月以上かかってやっとセベロドネツクを占領した。
このロシアの戦果をいかに評価するかで意見は3分される。
1番目の意見はウクライナ寄りでロシアに厳しいものだ。
例えば、有名な戦争研究所(ISW)は、次のように分析している。
「セベロドネツクの喪失はウクライナにとって地形の喪失を意味するが、「戦争の大きな転換点」でも「ロシアの決定的な勝利」でもない」
「ウクライナ軍は数週間にわたり、相当量のロシアの人員、武器、装備をこの地域に引き込むことに成功し、ロシア軍の全体的な能力を低下させたと思われる」
多くの西側の防衛当局者やアナリストも以下のように主張している。
「ロシア軍は今のところ攻勢は続いているが、何か月もかけて前進できたのは10~20キロのみだ」
「ロシア軍は、無理な戦いで膨大な人員(経験豊富な傭兵を含む)と兵器を損耗している」
「ロシアには持続的な攻撃を行うための十分な兵力がなく、ウクライナが西側の長距離重火器で強化されると、軍事バランスがウクライナに傾くであろう」
2番目の意見は中立的なものだ。
NATO(北大西洋条約機構)のイェンス・ストルテンベルグ事務総長を含む多くの人々が、この戦争は何年も長引くだろうと予測している。
つまり、数年単位の消耗戦になる可能性が高く、互いに殴り合うが、どちらも戦争を終わらせる決定力がない状況だとみている。
「勝利をどのように定義するかが重要だが、その定義もまた変化し続けるだろう。誰もが納得するような明確な定義はない」
「しかし、現場での作戦上の現実を見て勝利を判定するのであれば、それはあまりにも早すぎる」
「この戦争の本質は、明確で決定的な勝利はありえないということだ」
このように述べる専門家もいる。
3番目の意見はウクライナに厳しいものだ。
アジア・タイムズ(AsiaTimes)は以下のように、ウクライナ寄りの甘い認識に対し、「事実は事実として認めなさい」と反論している*2。
「セベロドネツクの戦いでロシア軍は確かに大きな損失を出したが、砲兵部隊の支援を受けてゆっくりと前進したロシア軍が、ウクライナ側に大きな人的損失を与えたことは、客観的に見ても疑いようがない」
「オーストリア陸軍士官学校の軍事アナリスト、ライスナー大佐は、『ロシアのゆっくりすり砕く(スローグラインド、slow-grind)戦略は、ウクライナの軍事資産を最大限に破壊するように正確に計画されている』『ロシアは事実上、ドンバスの凸角部分を作戦上包囲している。彼らは包囲網の入り口を自由に開いたり閉じたりできる。ウクライナ人が絶えず兵士や武器を送り込んでくるので、ロシアはそれを破壊することができるため、完全には閉鎖していない。ウクライナ人を包囲網の中に閉じ込めているのだ』と主張している」
「クラウゼヴィッツの読者ならもちろん知っているように、勝利は勝利、敗北は敗北であり、それは士気に影響する」
「ロシア軍とウクライナ軍は1対1で戦い、ロシア軍が優勢だったのだ。ロシアがウクライナ人に強要し、ウクライナ人が戦いを受け入れたような消耗戦では、人口が4倍、経済力が10倍の国が勝つだろう」
ロシア軍の強点と弱点
ロシア軍の強点
ロシア軍の強みは、ウクライナ東部における航空優勢の確保と圧倒的に優勢な砲兵火力の優勢だ。
その強みである制空権と砲撃における圧倒的な優位性を生かして戦うことで、ロシア軍は経験を積み、その欠点である人数の少なさ、プロ意識の低さ、士気の低さを補おうとしている。
ロシア軍の人員不足、戦車等の機甲戦力の不足
ロシア軍の人員不足は深刻である。
そもそも戦争開始前のロシア軍の実勢力そのものが少なかったが、戦争開始以降の4か月間における人的損耗は膨大でさらに人員の少なさに拍車をかけている。
例えば、ロシア軍の中核部隊である大隊戦術群(BTG)では深刻な人員不足が発生している。
大隊は通常700人から最大1000人だが、実際には人員損耗の結果200人程度(中隊規模)しかいないという。
人員不足の解消のためには国家総動員令が必要だと言われているが、プーチンはそれを拒否し続けている。国家総動員なくして人的不足の根本的解決策はないであろう。
さらに、ロシア軍の兵士の士気は低く、部隊内での不和、多数の脱走兵の発生、命令不服従、早期の除隊要求による離脱など多くの問題を抱えている。
英国防省は6月28日のロシア・ウクライナ戦争に関する定例報告で次のようにロシア軍の質の低下を認めている。
「ロシア軍は軍隊の中核部隊を投入しながら、セベロドネツクでは戦術的な成功だけしか収めていない。ロシア軍の空洞化が進んでいる」
「現在、長期的にはおそらく維持できないレベルの戦闘力の低下になっている」
ロシア軍の戦車等の機甲戦力が不足している。ロシア軍の攻撃速度は、装甲車の損失によって大きく低下している。
戦車などの装軌車や装輪車を投入すると、携帯対戦車ミサイルである「ジャベリン」の餌食になる。
戦車や装甲歩兵戦闘車(BMP)の莫大な損失により、ロシア軍は戦車をより慎重に使用するようになった。
また、補給処から非常に古い「T-62」も含めて旧式の兵器を使用せざるを得ない状況だ。それらはヘルソンとザポリージャの前線で主として防御用として使用されている。
装甲車がなければ、歩兵は長く前進することができない。そして、兵士は疲れ、犠牲者が増え、弾薬が足りなくなる。
そのため、ロシア軍はゆっくりと攻撃してくる。占領した土地の防衛を強化するための十分な時間と体力が必要なのだ。
脆弱な物流網に負担をかけずに、徐々に物資を増強すること。最終的に大砲を持ち込む時間を確保するためだ。
現段階では、ロシア軍の機動戦は期待できない。
それは彼らにとって不利であり、逆に個々の集落をゆっくりと圧迫し、襲撃することが成功につながっている。
確かに勝利は小さく限定的だが、それは最終的には大きな意味を持つようになる。
以上のように、ロシア軍には重大な弱点があるので、一方的なロシア軍の勝利は予想できないのだ。
*2=Uwe Parpart, “Ukraine-the situation June 24,2022”, Asia Times
ウクライナ軍の強点と弱点
ウクライナ軍の強点
祖国防衛に燃える高い士気は何物にも代えがたい強みになっている。
ウクライナ軍は、米軍等から指揮幕僚活動、戦術・戦法を学んでいて、ロシア軍に比して柔軟な指揮ができている。
そして米国をはじめとする西側諸国の軍事的、経済的支援を受けていることは大きな強みだ。これらの支援が続く限りウクライナ軍の敗北の可能性は低いと言わざるを得ない。
ウクライナ軍の弱点
ウクライナ軍は、セベロドネツクの戦闘で大きな人的および物的損害を出している。多くの経験豊かな将兵を失い、多くの兵器(米国等から供与された最新兵器を含む)を失った。
ロシア軍に比し、砲兵火力(特に長距離砲の数と弾薬)において圧倒的に不利である。そして、欧米諸国による兵器の提供も遅れている。
4月時点における兵器の提供は順調に行われて、楽観的なムードに包まれていた。しかし、5月に入って、ウクライナが要求する重火器がほとんど届かなくなったという。
高機動ロケット砲「HIMARS」や多連装ロケットシステム「MLRS」を含む新しい榴弾砲や自走砲が入荷し始めたのは、最近になってからだ。
そして、問題なのはその数の少なさである。
ウクライナ側はソ連製の152mm榴弾砲とソ連製の長距離ロケット砲「BM-30(スメーチ)」や「BM-27(ウラガーン)」の砲弾をほとんど使い切ってしまった。
そして、新しいソ連製の兵器や弾薬を手に入れることは事実上不可能だ。そのため、ウクライナの砲兵部隊はさらに弱体化した。
ウクライナ軍は、大きな損失を被っていて、1日100人とか200人が死亡しているという報道もある。
ロシア軍の長距離砲やロケットに対抗するために、ウクライナ側が要求している兵器システムはHIMARSや270mmMRLSであり、米国等が提供を表明している8個や10両、12両では足りず、100両以上が必要だと主張している。
以上のように、ウクライナ軍も重大な弱点を有していて、一方的にロシア軍に勝利して、ロシア軍を開戦前の状況にまで撤退させることは難しいと思う。
ウクライナが勝利するためにすべきこと
ウクライナもロシアは問題を抱えているが、ロシアに敗北することがあってはいけない。ウクライナが勝利するためにはどうすればよいのか。
西側諸国の長距離火砲を大量にウクライナに供与せよ
ウクライナ軍は、ロシア軍が優勢な長距離火砲とその弾薬を重視して破壊すべきだ。
そのために、米国のHIMARSのみならず、長射程の榴弾砲「Pzh 2000」と「カエサル(Cesar)」榴弾砲が必要だ。
しかし、欧米の長距離砲の供給は乏しく、量的に優勢なロシアの長距離砲との戦いに現時点で勝利するには数が不足している。
勢力均衡の達成には数カ月かかるという意見もある。
もう一つ方法がある。
ロシア軍がその優位性を100%発揮できないように、弱点を突くという方法だ。
具体的には、兵站に関連するが、弾薬庫を破壊することだ。
この点でウクライナの砲兵部隊は、すでにかなりの成功を収めている。最近、ザポロージアやドンバスでロシア軍の倉庫が4、5回大きな爆発を起こしたという報道がある。
ロシア軍のもう一つの弱点は歩兵である。
歩兵、特に経験豊富な兵士を損耗させることで、ロシア軍の作戦を失敗させることができる。
この点で、砲兵部隊の火力により、プーチンの歩兵部隊、特に経験豊かな民間軍事会社所属の傭兵ワグネルの部隊やチェチェン人のカディロフ部隊に大打撃を与えることを徹底的に追求すべきであろう。
ウクライナ軍はロシア軍の弱点である南部での攻勢を実施すべきだ
ロシア軍は現在、東部2州に戦闘力を集中している。
そのため、南部のヘルソン州とザポリージャ州が配備の弱点になっている。
南部において攻勢をかけ、ロシア軍を両州から追い出すことが重要だ。
今までウクライナ軍は既に少ない兵力でこのことを開始しているが、より大きな戦力で両州において攻勢をかけるべきだ。
その際に、両州に存在する反ロシア勢力のパルチザンと密接に連携すべきだろう。ウクライナ軍とパルチザンの両方に攻撃されるとロシア軍の防御は難しくなる。
南部におけるウクライナ軍の攻勢は、ドンバス地方に戦力を集中しているロシア軍の弱点を突くことになり、ロシア軍は増援部隊をヘルソンなどに派遣しなければならず、東部戦線の戦力が削がれ、東部戦線でもウクライナ軍の攻勢が可能になることが期待できる。
結言
この戦争の本質は、明確で決定的な勝利が予測できないことだ。
ウクライナおよびロシア、双方ともに人的・物的損耗は大きいし、それを穴埋めすることは簡単ではない。
プーチンにこれ以上ウクライナの領土を譲り渡すことは、1945年以来国際秩序を支えてきた国家主権の原則に致命的な打撃を与えることになる。
これ以上の勝利をプーチンに与えてはいけない。
そのためには劣勢の中でロシア軍に対して善戦しているウクライナ軍に対して近代的な重火器と弾薬を大量かつ迅速に提供すべきだ。
プーチンの戦争は明らかに戦略的に失敗している。
戦争によりNATOをはじめとする西側諸国の結束は強まった。3年前にフランスのエマニュエル・マクロン大統領は、「NATOは脳死状態だ」と嘆いたが、今やNATOは復活しようとしている。
さらに、中立国であったフィンランドとスウェーデンのNATO加盟が2023年までに実現できそうな状況である。
ロシアにとっては、大切な緩衝国であったフィンランドを失い、NATO加盟国フィンランドと直接国境を接する事態になってしまう。
ロシアは、NATOと争えば負けることを理解している。
現在最も大切なことは、NATO諸国をはじめとする民主主義諸国がさらに結束して、継続的にウクライナを支援し続けることだ。
この大規模、継続的、迅速なウクライナへの支援こそが世界の平和と安定に不可欠であることを強調したい。
最後に、ゼレンスキー大統領の叫びを紹介し、本稿を締めくくりたいと思う。
「今こそ、私たちを定義する民主的な価値を守るときだ。今こそ、勇敢なウクライナの闘いを支援するときだ」
「今こそ、われわれは友人やパートナーとともに、欧州全域の平和を維持するために立ち上がるときだ。今が我々の瞬間だ。それをつかめ」
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