ロシアのウクライナ侵攻開始から1年。兵力的に劣るウクライナ軍が予想以上に善戦し、ロシア軍が苦戦する構図となっている。その背景に、スマートフォンのアプリを使って露軍の巡航ミサイルや無人航空機(ドローン)の位置などを軍当局に通報するウクライナ市民の姿が垣間見える。市民が軍の「目」や「耳」の役割を担っている格好で、スマートフォンが戦争の態様を劇的に変化させている。【キーウ(キエフ)鈴木一生、ブリュッセル宮川裕章】
市民から4000件の情報提供
昨年10月、露軍が発射した巡航ミサイルがウクライナのある川の上を飛行していた。川は幅が広く深いが、枯れている。空襲警報が鳴って地域住民に警戒を促していたが、低空を飛行するミサイルをウクライナ軍のレーダーは感知できない。しかし、周辺住民がスマートフォンのアプリ「ePPO」を用いてミサイルの位置情報を軍当局に通報し、ミサイルの撃墜につなげたという。
「『ePPO』の初めての戦果だった。市民による軍への情報提供が防空に非常に効果的だと証明された」。アプリを開発した南部オデッサを拠点にするボランティアグループのリーダー、ゲナジーさんはそう胸を張る。
ゲナジーさんらが「ePPO」のアプリの一般提供を始めたのはミサイル撃墜の約1週間前。当時、イランがロシアに供与するドローンなどによるインフラ関連への攻撃の活発化が懸念されており、軍と協力しながら完成させた。アプリを起動させて自身が見たものをミサイル、航空機、ドローン、ヘリコプター、爆発のなかから選択、スマートフォンを標的に向けて絵をタッチすれば、通報者の位置とともに瞬時に情報が軍当局に送信される仕組み。写真をとったり、文字を打ったりする必要はない。