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「宮崎正弘の国際情勢解題」
令和五年(2023)4月11日(火曜日)弐
通巻第7703号
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マクロン大統領「欧州が米国に追従しなければならないと考えるのは最悪」
習近平はマクロンとの会談で「NATO同盟に鮮明な亀裂」を認識した
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フランスでは左翼政治家でもドゴールの真似をしたがる。
「フランスの栄光と独立」を訴えると選挙で受ける。まるでナショナリストの愛国政党「国民戦線」のルペンが言っていることと同じである。フランスの指導者はつねに大国に抗しているポーズ、主権を著しく声高に主張するからリベラル派でも国家主義者かと勘違いしてしまう。
4月第二週にフランス議員団の台湾訪問を横目にしながら、マクロン大統領は平然と訪中し、中国で大歓迎を受けた。
マクロンは中国で「ミニ・ドゴール」を演じた。
習近平も異例の歓待で夕食会も二回、そのうえ広州にまで付き合って茶会を愉しみ、庭園を歩く光景は、習がマクロンを諭すような画面を選んでテレビニュース番組で流し続けた。習近平は「米欧同盟に亀裂をいれた中国外交の成果だ」とボリュームいっぱいに宣伝したかったのだ。
4月9日、マクロン大統領は帰国の大統領専用機で『ルモンド』政治部との会見に応じ、「欧州は台湾に関して米国や中国の『追随者』であってはならない」。つまり「台湾問題でアメリカのような関与政策からは鮮明に距離を置くべきだ」と述べた。
台湾支持を訴えるアメリカに追随しないという方針を遠回しに表現したのであり、「私たちのものではない台湾の危機に巻き込まれるリスクがある」という表現をした。
ワシントンは以前からマクロンに不信感を抱いてきた。ウクライナ戦争の緒線では、モスクワとキエフの間をマクロンは廊下鳶のように動き回り、プーチンからも相手にされなかった。
マクロン大統領は「私たち欧州人はアメリカの方針と中国の過剰反応に追従しなければならないと考えるのは最悪」と言った。たぶんドゴールなら英米に向かってそう言っただろう。
「フランスの見解が米国と重なる部分を明確にする必要がありますが、それがウクライナ、中国との関係、または制裁に関するものであるかどうかにかかわらず、私たちはヨーロッパの戦略を持っており、西側vs中露という対立構造には加わりたくない」
以前から指摘してきたが、マクロンはウクライナに批判的でありクリミア半島奪還などあり得ないと示唆してきた。
▲フランスのウクライナ支援はNATO主要国のなかでは最低レベル
マクロンの訪中と同時に欧州委員会委員長のウルズラ・フォン・デア・ライエンも北京にいた。彼女は対中強硬路線を唱えている。マクロンとはまったく立場が異なり、それゆえ習近平は彼女に対しては冷遇的態度を取った。
マクロンは、「ヨーロッパ人が直面している問題は、台湾(危機)を加速することが有益か、どうかということだ」とした。つまり「ヨーロッパが台湾問題に干渉すべきではない」という習近平の見解に明確に同意したことになる。
このマクロン発言にウクライナ、ポーランドが真っ先に反撥し、ウクライナ議会外交委員会のオレクサンドル・メレジコ委員長は、「マクロン大統領がフランスの信頼を弱める」と猛烈な批判を加えた。
フランスのウクライナ支援はNATO主要国のなかでは最低レベル。金額的に比較すると米が228億ユーロ、英国41億ユーロ、独23・5,ポーランドですら18億ユーロに対して、フランスは4・8億ユーロでしかない。
武器供与もアリバイ証明的に155ミリ榴弾砲40基、レーダーシステムが一基と若干の中距離ミサイル供与にとどめている。対GDP比率で支援額を計算するとバルト三国やフィンランド、チェコよりもフランスが少ないことが分かる。
それでいて外交主導権をとろうと2月8日にはパリにゼレンスキー大統領を呼んで、シュルツ独首相も同席してもらい、「可能な限りの支援を続ける」と約束していた。
この席でマクロンはゼレンスキー大統領が戦争目的とする「クリミア半島の奪回」には触れようともしなかった。
◎☆□☆み□☆☆□や☆◎☆□ざ☆□☆◎き☆□☆◎