中国、改正「反スパイ法」施行 不透明な邦人拘束に懸念深まる
【北京共同】中国で7月1日、スパイ行為の取り締まりを徹底するため初めて改正した「反スパイ法」が施行された。習近平指導部は米中対立を背景に「国家安全を守る」ことを重視。外国人への締め付けが強まり、外国企業の活動や国際交流が影響を受けるのは必至だ。これまでにも同法などに基づく邦人の不透明な拘束が相次いでおり、中国の日本人社会には不安が広がっている。 「反スパイ法に違反した疑い」アステラス製薬の日本人男性を拘束 3月
中国政府は経済対策として、海外からの投資を歓迎すると強調している。一方で国家安全部門の権限が強まっているとみられ、外国企業などは同法の恣意的な運用への懸念を強めている。 改正によりスパイ行為の定義が拡大された。「国家機密」に加え「国家の安全と利益に関わる文書やデータ、資料、物品」の提供や窃取なども違法行為となった。刑事責任を追及するほか、「犯罪を構成しない」場合でも、当局が判断すれば行政罰での拘束が可能となった。 3月には北京でアステラス製薬の日本人男性幹部が改正前の同法違反容疑で拘束された。具体的な容疑内容は不明。
【北京=三塚聖平】中国で1日、スパイ行為の定義を拡大し、取り締まりを徹底する「改正反スパイ法」が施行される。対象行為が極めて曖昧なため、在住外国人は中国当局の恣意的な摘発・拘束がさらに進むことに不安を募らせ、各国も警戒を強める。習近平政権は共産党の統治体制維持のため「国家安全」を優先する姿勢を崩さず、日米などとの摩擦が民間交流を巻き込んで強まる可能性がある。
改正法は従来の「国家機密」に加え、「国家の安全や利益に関わる文献やデータ、資料、物品」の提供、窃取、買い集めなども取り締まり対象とした。ただ、「国家安全」の定義は具体的に示されていない。
北京の日系企業幹部はそのため、「何が摘発対象になるか分からず、過去のケースから想像するぐらいだ」と頭を抱える。
3月にはアステラス製薬の日本人駐在員が反スパイ法違反容疑で北京で拘束されたばかりだ。中国では2015年以降、日本人17人がスパイ行為に関与したなどとして拘束されている。駐在員の間では「法改正を機に摘発が強化されるのか…」と緊張感が漂う。
研究交流にも影響が出ている。19年に政府系シンクタンクの中国社会科学院の招待で訪中した北海道大教授が反スパイ法違反などの容疑で拘束されたこともあり、訪中をためらう研究者は少なくない。
警戒を強めるのは日本だけではない。在中国の韓国大使館は6月下旬、法改正を前に注意が必要な行動をホームページに掲載。軍事施設や国家機関付近での撮影やデモ現場への接近、地図や統計資料など中国の国家安全保障に関わる文書をインターネットで検索・保存することなどを挙げた。
米国のバーンズ駐中国大使は5月、経済人が摘発対象になる恐れがあると懸念を表明した。3月には米企業調査会社、ミンツ・グループの北京事務所が家宅捜索されるなど米企業への圧力は早くも強まっている。
海外企業が萎縮して投資を控えれば、中国経済にはマイナスだが、習政権は強硬姿勢を堅持する構えだ。陳一新国家安全相は6月上旬、共産党の幹部養成機関、中央党学校の機関紙、学習時報への寄稿で、改正反スパイ法を「重点」に国家安全に関する法体系を強化すると説明。「敵対勢力の浸透や破壊活動、政権転覆、分裂活動」を防ぐと強調した。
日米欧などとの対立が続く中、習政権は海外勢力が共産党政権の転覆や不安定化を狙っていると猜疑心(さいぎしん)を膨らませる。それが中国で活動する外国人や外資企業への監視・摘発の徹底につながっている。1日には外交政策の基本原則を定めた「対外関係法」も施行される。その中には、中国国内の外国人や外国組織に対して「中国の国家安全を損なってはならない」との規定を設けた。「国家安全」を盾にした管理や摘発の強化は今後も広がる一方とみられる。
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