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中国のチベット投資促進策 「40万ドル投資すれば子供に大学入学枠を特別プレゼント!」

【仰天】中国のチベット投資促進策、「40万ドル投資すれば子供に大学入学枠を特別プレゼント!」

2024.4.5(金)譚 璐美
 
(譚 璐美:作家)

 米国の中国語ネット「博訊」(2024年3月23日付)が転載したフランス国際放送テヴェサンクモンド(TV5MONDE)の報道によれば、中国政府は国内向けのチベット投資促進策として、「チベットに40万ドル(約6000万円)投資すれば、子弟の大学受験の『特別合格枠』をあげる」という新たな政策を発表した。

中国国内で最高の経済成長率を誇るチベット

 中国政府は2000年、チベット、新疆、内モンゴルなど、経済発展から取り残された内陸部の西部地区を経済発展させるため、「西部大開発」計画を決定した。スローガンは、「西電東送」、「南水北調」、「西気東輸」、「青蔵鉄道」の四大プロジェクト、つまり、電力開発、ダム建設、天然ガスパイプライン敷設、鉄道建設の4つの建設計画である。

チベット自治区の位置(共同通信社
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 これを主体として、外資企業へ向けて広く投資を呼びかけた。そして3年間は所得税率を15%に削減し、輸出企業には税率10%とするなど、数々の税制優遇策を打ち出した。3000万米ドル以内の投資なら迅速かつ単独で許可するとも規定した。

 さらに2020年の「第13次5カ年計画(2016〜2020年)」では、チベット自治区に総額3136億元(約6兆5700億円)を投じて、電力や鉄道、空港などの重点プロジェクトを建設した。

2023年7月、青海省西寧とチベット自治区首府ラサを結ぶ青蔵鉄道青海チベット鉄道)の西寧-ゴルムド区間で中・高速鉄道車両「復興号」の営業運行が始まった(写真:新華社/アフロ)

 その結果、2023年末のチベット自治区GDP成長率は9.8%に達し、中国31省の中でトップになり、中国政府は「絶対的貧困の歴史的解消が実現した」と誇らしげに宣言した。

滞りがちな投資

 だが、どうも現実はそれほど明るい様子ではない。チベット自治区国民総所得(GNI)は沿岸部の広東省の2%に過ぎず、依然として投資が進んでいないのが現状だ。

チベット自治区南西部、ラサ市ダムシュン県にある楊儀地熱発電所。中国で最も標高の高い地熱発電所である=2023年4月6日撮影(写真:新華社/アフロ)
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 また外資企業は及び腰である。中国への直接投資は2023年7〜9月に、118億ドル(約1兆7887億円)のマイナスとなり、データがある1998年以降で最低だ。

 しかも新たな投資より撤退や事業縮小の動きが上回っている。「反スパイ法」の拡大や香港の「国家安全基本法」の強化など、政治的リスクが高まる中国に不安を覚える外資企業は多く、中国の不動産不況による財政悪化と経済低迷で、国内投資家の意欲にも陰りがみえる。

投資と大学合格枠のバーター

 そうした中で、中国政府が新たに打ち出したのが、「両親がチベットへ40万米ドル投資すれば、子供一人に大学受験の『チベット特別合格枠』を与える」という「抱き合わせ」のチベット投資促進策だった。

 どういうことかと言えば、ご存知の通り、中国の大学受験競争は熾烈を極めている。日本の「大学入学共通テスト」に相当する試験は、「高考」(ガオカオ)と呼ばれる全国統一試験で、一発勝負である。受験生は「高考」の成績結果を見て、自分で志望大学や志望学部へ申請して入学する。

 もっとも、有名大学は格段に「狭き門」で、名門校である北京大学の場合、合格できる割合は、全受験生中1万人に1人、上海・復旦大学は1万人に3人程度だとされているから、天才級の頭脳の持ち主しか入れない。

 ただし、各省ごとに「合格枠」が設定されていて、地元の受験生は地元大学の「合格枠」で優遇される。中国の戸籍には「都市戸籍」と「農民戸籍」の二つがあり、同じ「都市戸籍」を持っていても、例えば、北京市在住者であれば、北京大学でも数百名の「合格枠」があり、他省の在住者より格段に有利になる。その結果、北京市の受験生の最低合格点と、他省の受験生の最低合格点には差が出てくるわけだ。

 米国などでも、地元学生に対する優遇制度はあり、地元の公立大学に入学すると、学費は他州から入学してくる学生の約半分ほどで済む。ただし、他州出身者でも一年間その州に住んで公立大学に通えば、二年目からは地元民とみなされて学費は半減される。

 これはこれで納得できる地元優遇策だが、中国の場合は、「二年目から地元民」などという甘い規定はない。まして地方から都会へ出稼ぎに来る「農民戸籍」の労働者は、生涯にわたって「都市戸籍」には変更できず、「農民戸籍」の子供は大学どころか、都会の小学校に入ることも許されない。

 さて、中国政府は各省ごとに「合格枠」を制定している以外に、少数民族に対しては、さらに有利な「特別合格枠」を設定している。

 2023年に大学受験をした人は過去最高の1291万人に達したが、その中で、全国1200大学に合格した受験生の合否ラインを見ると、700点満点中、北京市の受験生の平均合格点が448点なのに対して、チベットの受験生は300点と大幅に低く、全国でも最低合格点である。この少数民族に対する「特別合格枠」を、チベットに投資した人の子供にも与えようというのだから、受験生にとっても、受験生の子供を持つ親にとっても、かなり魅力的な提案であることは確かだろう。

ネックは「大学は出たけれど…」の現状

 しかしながら、経済が低迷する現在の中国では、大学を卒業しても将来の見通しはあまり明るくない。2023年6月現在、24歳の若者(大学生を含む)の失業率は21.3%と、過去最高に達している。

 富裕層の中には、中国で大学受験するより、海外の大学に入学するほうが格段にやさしいという理由から、海外留学を決める学生も後を絶たない。チベットに40万ドル投資できるような富裕層であれば、子供の海外留学費用もあまり問題ではないだろう。

 さて、このチベット投資促進策が、吉と出るか凶と出るか、まだわからない。確かなのは、こうした「苦肉の策」をひねり出さなければならないほど、中国のチベット開発は思うように進んでいないということだろう。

【譚 璐美】
(たん・ろみ)東京生まれ、慶應義塾大学卒業。現在はアメリカ在住。元慶應義塾大学訪問教授。著書に『ザッツ・ア・グッド・クエッション! 日米中、笑う経済最前線』日本経済新聞社)、『帝都東京を中国革命で歩く』白水社)、『革命いまだ成らず―日中百年の群像』『戦争前夜 魯迅、蒋介石の愛した日本』(ともに新潮社)、『中国共産党を作った13人』『中国「国恥地図」の謎を解く』 (ともに新潮新書)など多数。

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