パルデンの会

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韓国軍艦「天安」沈没の深層ーその2

韓国軍艦「天安」沈没の深層
2010年5月7日  田中 宇

韓国軍艦「天安」沈没の深層ーその1,から 読んでください
核武装した原潜が潜航していた?

 第3のブイの存在を報じたKBSは誤報扱いされ、その後は「天安艦は米潜水艦から誤爆された」といった見方自体が「危険な流言飛語」とみなされ、韓国社会で事実上の「禁止」とされた。

 しかし、天安艦が仲間内からの誤爆で沈没した疑惑は、沈没の直後から韓国のマスコミに存在していた。事件当日、韓国軍と米軍は、ペンニョン島より南の海域で、米韓合同軍事演習「フォールイーグル」を展開していた。米韓の事前の発表では、軍事演習は3月18日に終わったはずだったが、実際の演習は4月30日まで秘密裏に延長され、3月26日の事件当日も演習が行われていた。事件後も米韓当局は、当日に合同演習が行われていたことを全く発表しなかったが、事件翌日には情報がマスコミに漏洩し「天安艦は、軍事演習中の誤爆を受けて沈没したのではないか」という記事を各紙が報じた。(天安艦、韓米合同訓練中 誤爆事故'疑惑' )(記事の機械翻訳日本語版(グーグル))

 報道を受け、韓国当局は、事件当日に米韓合同演習が行われていたことを認めたものの、演習の海域はペンニョン島周辺ではなく、それより100キロほど南の忠清南道・泰安の沖合だったと発表した。韓国当局は、天安は演習に参加していなかったと発表したが、高速の艦艇なら泰安沖からペンニョン島まで2-3時間で行ける。昨年来、北朝鮮は、米韓が合同軍事演習の際に北朝鮮の海域近くまで来て威嚇していると米韓を非難しており、今回の軍事演習でも、米韓の軍艦がペンニョン島周辺まで北上した可能性はある。もし、天安が軍事演習中に沈没したのだとしても、北朝鮮からの非難を防ぎたい韓国当局は、そのような発表はしないだろうから「天安は演習に参加していない」と当局が発表しても、それは事実と違う可能性がある。

 問題のKBSのニュースの内容について、韓国の自主民報(左派系)が分析を試みている。この分析で興味深い点は、米潜水艦が沈没している第3ブイの地理的環境についてである。米潜水艦は、ペンニョン島の南側にある「ヨントゥリム岩」と呼ばれる断崖絶壁の海岸の数百メートル沖合に沈没している。ペンニョン島の周辺には、潜水艦が潜航中に座礁しやすい浅瀬が多いが、断崖絶壁の海岸の前の海は深い。ヨントゥリム岩の周辺は北と東が陸地でさえぎられ、島の北方にあたる北朝鮮の本土からペンニョン島の方向を監視しても、島の南側のヨントゥリム岩の周辺に米潜水艦の動きを知ることはできない。北朝鮮は、ペンニョン島周辺の海域を韓国の領海と認めているため、島の近くを潜航する限り、北朝鮮軍から攻撃されることはなく、米潜水艦の隠れ場所としても安全だ。

 そうした地理的状況をふまえ、自主民報が取材した軍事問題の小説家ソ・ヒョンオは、沈没した米潜水艦について、ヨントゥリム岩の前の海を拠点としてペンニョン島の周辺海域で潜航を続け、島の対岸にある北朝鮮の通信を傍受しつつ、有事の際に北朝鮮にミサイルを撃ち込める臨戦態勢をとっていたのではないかと分析している。(自主民報「北が米潜水艦を完全撃沈した?」)(機械翻訳日本語版(グーグル))

 ペンニョン島は、韓国で最も平壌に近い場所で、平壌まで170キロほど。米韓軍にとって、通信傍受や有事の反撃の拠点として最適だ。米軍がペンニョン島の周辺にミサイルを発射できる潜水艦を長期滞在させていれば、北朝鮮軍がソウルを攻撃してきた時に、数分で平壌にミサイルを撃ち込める。

 この種の作戦に使われる潜水艦は、間違いなく、1カ月以上潜航したままでいられる原子力潜水艦だ。原潜は、艦内の原子炉で発電した豊富な電力を使って、海水を電気分解して酸素を抽出して艦内に供給する。ディーゼルエンジンの潜水艦と異なり、海上に出る必要が全くない。米軍の原潜の中には、核ミサイルを搭載できるものも多い。核武装していると自称する北朝鮮に対抗するため、米軍が、核兵器を搭載した原潜を、平壌に最も近いペンニョン島の周辺に常時潜航させていた可能性がある。

米韓軍が、ペンニョン島の陸上に、北朝鮮をねらうミサイルを設置したら、北朝鮮から激しい非難を浴び、北朝鮮を同胞とみなす韓国民の世論も逆なでするので、撤去せざるを得なくなる。だが、ミサイルを積んだ米潜水艦を島の周辺に潜航させるなら、有事の際は地上のミサイル基地と同じ効果を生む上、北から察知されないし、韓国民にも何も知らせずにすむ。たとえ米原潜が核兵器を搭載していても、韓国側に知らせなければ問題にならない。そのように考えると、核弾頭の有無はともかくとして、ペンニョン島周辺に武装した米軍の原潜がいない可能性の方が低いぐらいだ。

 米軍の原潜の多くは、100人以上の乗組員を定員としている。昼夜交代制で潜水艦を管理するので総人数が多くなる。第3ブイの下に米原潜が沈んでいるなら、天安艦の死者数に並ぶ、かなりの死者が出たはずだ。放射能漏れの懸念もある。沈没した潜水艦から米軍が急いで取り出そうとしたのは、核弾頭だった可能性もある。韓国軍の特殊潜水隊は捜索を急かされ、ハン・ジュホ准尉が殉職した。

 天安艦の沈没は、すぐに大々的に報じられたが、米潜水艦の沈没は、米政府によって隠蔽され、韓国当局も隠蔽工作を手伝わされている。沈没の事実を隠さねばならないのは、北朝鮮側や韓国の国民に、米潜水艦が有事の際に北朝鮮を速攻で攻撃すべくペンニョン島周辺に潜航していたという事実を知らせたくないからだろう。知られたら、北は怒って何らかの報復を仕掛けてくるだろうし、韓国民の反米感情も煽られる。だがKBSなどが、誤報扱いされつつも米潜水艦の沈没を報じてしまったので、すでに北側は、今回の経緯をかなり把握していると考えられる。(哨戒艦沈没事故で軍事機密明るみに、軍が対策着手)

▼米潜水艦を北の潜水艦と誤認?

 ここまでの展開は、最も重要な「天安艦と米潜水艦は、なぜ沈没したか」という分析に至っていない。今からそれを書く。KBSテレビの報道を分析した前出の自主民報の記事は、北朝鮮の潜水艦が南下してきて、天安艦と米潜水艦の両方に対して攻撃し、両艦を沈没させたのだろうと書いている。しかし私からみると、北がやった可能性は非常に低い。

 米韓両政府は、天安艦の沈没直後に「北朝鮮の攻撃を受けて沈没した可能性は低い」と発表している。もし北朝鮮の潜水艦からの攻撃で沈没したなら、北朝鮮政府が数日たってから「米韓の軍艦を撃沈した」と高らかに「戦果」を発表するかもしれない。その前に米韓両政府が「北朝鮮の攻撃ではなさそうだ」と発表してしまうと、米韓の政府は国民から非難され、高官が引責辞任せざるを得なくなる。本当に北の攻撃ではない場合しか、米韓の両政府が早々と「北の攻撃ではない」と発表することはない。自主民報は、北朝鮮寄りの左派新聞なので、北朝鮮の軍事力の強さを結論にしたかっただけだろう。

 すでに書いたように、事件当日に行われていた米韓合同軍事演習が、ペンニョン島の周辺でも展開され、その一環として天安艦が現場にいた可能性が高い。軍事演習が行われていたとしたら、米韓軍の他の艦船が付近にたくさんおり、北朝鮮の潜水艦が攻撃してきても、すぐに米韓で猛烈に反撃し、撃沈していたはずだ。撃沈できずに逃げられたとしても、北側からの攻撃があったのなら、米韓は防衛しただけの正義の立場に立てるので、交戦が行われたことをすぐ発表するはずだ。

 北側は、米韓が合同演習を口実に北上し、北の核施設に向けて本物の攻撃を仕掛けてくることを恐れていた。軍事演習しているふりをして本当の戦争を仕掛けるのは、米軍の戦術としてあり得ることだ。そんなところに北側から攻撃を仕掛けるのは、米韓に戦争の大義を与えてしまう自殺行為である。

 すでに書いたように、天安艦と米潜水艦の沈没から11日後の4月7日、スティーブンス駐韓米国大使とシャープ在韓米軍司令官という、米国の高官が、ペンニョン島近くの第3ブイでの捜索活動の現場で行われたハン准尉の慰霊祭に出席している。もし3月26日、北朝鮮の潜水艦が天安艦と米潜水艦を撃沈させたのなら、それは米韓と北朝鮮は交戦したわけであり、米韓と北の間で何らかの和議がなされない限り、交戦から11日後に、まさに戦場の最前線であるペンニョン島周辺に、米国の軍司令官と大使が2人そろってのこのこやってくるのは危険すぎる行為だ(米韓と北が交戦して数日内に秘密に和議したとは考えられない)。だから、天安と米潜水艦の沈没は、北朝鮮に攻撃によるものではないだろう。

 5月初旬には中国が金正日を北京に招待したが、これも、3月26日に米韓と北は交戦していないと考えられる根拠だ。胡錦濤の中国は、米国の軍産複合体によって、朝鮮戦争後と同様の「米韓VS中朝」という冷戦の構図に再びはめ込まれることを最も警戒している。3月26日に米韓と北が交戦し、その1カ月後に中国が金正日を北京に呼ぶと、それは中国が北朝鮮の肩を持ったことになり「米韓VS中朝」の構図に近づく墓穴堀りとなる。米韓と北が交戦したなら、中国は金正日を冷遇するはずだ。

 北側からの攻撃で沈没したのではないなら、残るは誤爆説になる。私が疑っているのは「米軍は、潜水艦をペンニョン島の周辺に常時潜航させていることを、韓国軍に伝えていなかったのではないか」ということだ。第3ブイに沈んでいる米潜水艦が長期潜航していたのなら、当日の米韓合同演習にも参加していなかったことになる(合同演習とは別の任務になる)。

 天安艦は、ペンニョン島の南の沖合を航行するはずが、予定より岸に近づき、その結果、韓国軍に存在を知らされていない米潜水艦の存在を探知し、北朝鮮の潜水艦が潜入していると勘違いして発砲し、攻撃されたので米潜水艦も瞬時に撃ち返し、2隻とも沈没するという誤認の末の同士討ちが起きたのではないか。米潜水艦は、受信専用のパッシブソナーを使い、天安艦の接近を察知しただろう。だが、米軍が韓国軍に対しても秘密にして米潜水艦を潜航させていたのたら、米潜水艦の方から天安艦に無線連絡を入れるわけにはいかない。

 天安艦が攻撃されたのは左舷からだった。韓国当局は、当時の天安艦は北西に向かっていたと発表しており、その通りなら、左舷は外洋側である。岸の近くに潜航していた米潜水艦は、島の側から撃ったはずだから、外洋側とは逆であり、上記の仮説と矛盾する。ただ、韓国当局は、米戦艦との同士討ちの事実を隠すため、天安艦が進行方向を逆さまに発表した可能性がある(島側から撃たれたと発表すると、北朝鮮犯行説はあり得なくなり、同士討ちの疑念が強まる)。