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労使のパワーバランスが完全に逆転?


労使のパワーバランスが完全に逆転?
「金欲社員」が横行する日系企業の現場

【第8回】 2010年1月5日
著者・コラム紹介バックナンバー
江口征男 [智摩莱商務諮詞(上海)有限公司(GML上海)副総経理] ダイヤモンド

改革開放路線を開始して以来、安い人件費を武器に「世界の工場」としての地位を確立してきた中国。単に人件費が安いだけでなく、比較的簡単に従業員数を増減できるなど、企業側に有利な雇用条件で事業を行なえるメリットがあった。

そんな利点に惹かれて、日本をはじめとする先進国がこれまでこぞって中国に進出してきたことは、皆さんもご存知の通り。しかし最近、状況が変わってきている。

一昨年末から始まったグローバル不況の影響もあり、給与水準の上昇自体が止まっているのは中国も同様だが、その一方で企業の人件費が上昇しているのだ。

それは、2008年に起こった2つの「革命的な変化」により、中国で労使の力関係が逆転し、企業側の負担が増えているからだ。そのため、今後日系企業は想像以上の苦境に陥りかねない。今回は、その「革命的な変化」について詳しく説明しよう。

労働者側の権利に大きく偏った
「労働契約法」の驚くべき内容

1つ目の変化は、労働者側にかなり有利な法律・法規が整備されたこと。

ご存知の方もいるかもしれないが、中国では08年1月に「労働契約法」が施行され、以下のようなルールが制定された。

・企業は、従業員入社後1ヵ月以内に書面の労働契約を結ばなければならない。

・それに違反すると、企業は従業員に2倍の給与を支払わなければならない。

・従業員と連続3度目の労働契約を結ぶ場合、(従業員本人が望めば)無期限契約(終身雇用)としなければならない。

・社員の就業年数に応じて、有給休暇を与えなければならない。

・社内で導入する規定類は、会社側が独断で内容を決めることができず、従業員の意見を反映したものにしなければならない。

上記は、労働契約法条文の一部にすぎないが、全体的にかなり労働者側に肩入れしたものとなっている。さらに08年5月に施行された「労働紛争調停仲裁法」により、従業員が会社相手に労働仲裁を起こす場合の費用も無料化されたのだ。

今まではおカネがかかるため、「自分が勝てる」という相当な自信がなければ、従業員は会社に対して労働仲裁を起こさなかった。しかし今や「とりあえずダメもとで、労働仲裁してみよう」という雰囲気になっている。実際、上海市浦東新区のように。08年の労働仲裁件数が前年の4倍に増えているところもある。

そして、このような法律面の変化よりも大きいのが、「中国人労働者が、自分たちの権利に気づいた」という2つ目の変化だ。労働契約法は、労働者に正当な権利を主張する意識を芽生えさせただけでなく、彼らの「金欲の扉」も開けてしまったのだ。

労働契約法が施行される際に、連日新聞などのマスメディアにより、その内容が報じられたため、「労働者に有利な法律ができる」ということが中国全土に知れ渡ったのだ。

 「これまで法律のことなど全くわからず、勤務先の経営者の言いなりになっていた労働者が、自分たちの権利を理解し、正当に主張できるようになった」という意味では、素晴らしいことである。

しかし、個人主義が主流の中国人の場合、「自分たちに有利な法律ができたため、会社に文句を言えばいっぱいおカネをもらえる」という、自分に都合のよい、間違った理解をすることが多いのだ。

 「金儲けのチャンス」とばかりに積極的に企業を脅しにかかる労働者も少なくないため、企業はたまったものではない。

実際、私も企業と従業員との話し合いに立ち会ったことがある。工場で働くブルーワーカーたちが法律文書を片手に、「この法律に書いてある通り、私は会社からおカネをもらう権利がある」と、堂々と主張してくるのだ(多くのケースでは、従業員が法律を自分勝手に解釈しているだけなのだが)。
労使関係のトラブルをエサに
儲けを狙う「退職指南士」まで登場

また最近は、「退職指南士」なるサービスも出回り始めた。会社を辞めるときに、できるだけたくさんのおカネを会社からむしり取る方法を指南する代わりに、従業員1人当たり1000元程度の報酬をもらうサービスだ。

従業員にとっては、1万元程度余分に会社からおカネをぶん取れるのなら、1000元くらい安いものだろう。サービス提供者としても1000元という金額自体は大した稼ぎにはならない。だが、たとえば1000人くらいの従業員を抱える工場で、半分の従業員にアドバイスをすれば、それだけで50万元も荒稼ぎできる。

企業側に立って、数万元程度の報酬で従業員との交渉をサポートする顧問弁護士よりも、よっぽど儲かる商売だ。

実際、労働争議ストライキを起こした従業員と話し合いをしていると、肝心な話になったときに、「ちょっと待ってくれ」と言って部屋を出て、携帯電話で誰かと相談している者がいる。きっと「退職指南士」と話しをしているのだろう。
上司の指示ををわざと無視して
クビにされるのを待つ従業員?

もちろん、中国人労働者も「会社に残って働いた方が得だ」と思っているうちは、会社に従順なフリをして猫をかぶっている。しかし、いざ会社を辞めることを決心したとたんに、あの手この手を使って「1元でも多くのカネを会社からむしりとってやろう」と考えて行動するのだ。

たとえば、そういう従業員は、会社を辞める決心をすると、真っ先に弁護士に相談に行く。会社の制度の穴をつき、「どうやって会社からカネをむしり取るか」を教えてもらうためだ。実際、カネ目当ての確信犯的な従業員は、このような行動を取る。

営業担当の従業員の場合、上司が新規顧客開拓のために営業訪問をするように指示を出しても、知り合いの会社ばかりを訪問するようになる。「営業訪問したら報告書を出せ」と言われても、むろん出さない。

また、「少なくとも月に数件は新規顧客訪問のアポを取れ」と指示しても、営業電話をかけることすらしなくなる。最後に腹に据えかねた上司が激怒すると、それから上司のことを無視するようになる。

そこまで常軌を逸した行動にでるなら、「クビだ!」と言いたくなるのが人情だが、そう簡単にはクビにできないのが今の中国の現状だ。

このあたりは、中国ビジネス暦の長い日本人でも意外とわかっている人が少ないのだが、会社側もしっかり準備をしておかないと、常識的に考えていくら従業員に非がある場合でも、「即解雇」とはいかない。

それを知らずに、感情的になった日本人管理者が早まってクビにしてしまうと、後が大変だ。違法解雇となって経済補償金(会社側の都合で、従業員との労働契約を解除する場合に会社側が支払う法定補償金)を通常の2倍払わなければならなくなるからだ。これでは、目もあてられない。

さらに頭のいい従業員だったら、「2倍の経済補償金は要らないから、違法解雇を取り消して、職場復帰を要求する」かもしれない。そうなったら、いくら会社側がイヤだと言っても、従業員が望む通り職場復帰させるしかない。

特に、その従業員に対する労働契約の残り期間が長い場合は、彼らにとって、適当に仕事をサボりながら給与をもらっておいた方が得だからだ。

ここまで読んで、「そんな悪質な社員も解雇できないのか?」と驚く人も多いだろう。しかし、会社の就業規則で「上司の業務命令を意図的に守らなかった場合には、就業規則厳重違反として解雇できる」といったルールでも定められていない限り、中国では合法的に解雇できないのだ。

 「では、そういう従業員をクビにできるような就業規則を、会社が用意すればいいのでは」と思う人もいるかもしれない。ところが残念ながら、それもできない。

08年に施行された労働契約法では、従業員の合意を得ないと就業規則が有効とみなされないのだ。有効となっていない就業規則に則って従業員を解雇しても、違法解雇になってしまうだけだ。むろん、辞めるつもりで確信犯的に嫌がらせをしている従業員が、土壇場になって自分が不利になる就業規則に合意するわけもない。

 「クビにするのが難しいなら、せめて大幅に減給してやる!」と考える人もいるかもしれないが、これもうまくいかない。採用するときに、労働契約で合意された給与を簡単には下げることができないのだ。
一度従業員の「脅し」に負けると
挽回するのは想像以上に大変!

なかには、「会社対個人では交渉力が弱くなる」と考えた従業員が、他の従業員を誘導してストライキをしかけてくる場合もある。業務を通じて自分自身が行なった違法行為を、「会社の意図的な違法行為として当局に密告する」と脅してくる従業員もいる。

これらの行動の全ては「カネ目当て」なので、経営者側は怯まずに毅然とした姿勢で対応する必要がある。万一経営者側が従業員に譲歩する事例を一度でも作ってしまうと、次から次へとカネ目当ての悪質社員が出てくることになりかねないからだ。

日本人の常識から考えると、このような話はあり得ないと思うに違いない。しかしこれは、中国で毎日のように起こっているリアルな話なのだ。

高い成長を期待できる中国でビジネスをしたいのであれば、こういった現実から目を反らさずに、立ち向かっていく強い心が必要なのである。

中国各地で労働争議相次ぐ=政府「後押し」受け運動活発化か


6月8日16時44分配信 時事通信
【香港時事】8日付の香港各紙によると、広東省など中国各地で6日以降、賃上げ要求や人員削減反対の大規模な労働争議が相次いで起きた。政府が労働者の待遇改善を促す姿勢を示していることから、労働運動が活発化しているとみられる。
広東省深セン市の台湾系電子機器メーカー、美律電子で6日から7日にかけて、従業員数千人のストが発生。同省恵州市の韓国系電子機器メーカー、亜成電子でも7日、ストがあり、2000人以上が参加した。また、湖北省随州市の紡績工場では、大量解雇に抗議する労働者400~500人が工場前の道路を封鎖した。
深センのストでは、従業員が工場の外でデモ行進したため付近の道路が一時大混乱。会社側が月900元(約1万2000円)の賃金を1050元に引き上げることに同意して収拾した。随州の争議はまだ続いているという。
このほか、ホンダ向けの自動車部品を生産する広東省仏山市の工場や江蘇省昆山市の台湾系機械部品工場でも7日からストが行われている。