パルデンの会

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チベット問題とウイグル問題の異なる点



ラビア・カーディル総裁に聞く
ウイグルの「いま」(後篇より
WEDGE Infinityより
20120608日(金)有本 香
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身を乗り出さんばかりに訴えるラビア総裁
(撮影:WEDGE Infinity編集部)

チベット問題とウイグル問題の異なる点

 チベットウイグルの問題は、当事者の一方が中国共産党であることや、常態化している人権侵害の凄まじさという点等、共通項は多いが、一方で、当 然、異なる点も多い。両民族の長い歴史もさることながら、中国共産党の侵略から今日までの国外における両者の状況はとくに大きく異なっている。
 チベット側は、元々チベットの統治者であったダライ・ラマ法王と側近が外へ逃れ、インドに「亡命政府」を作った。チベット国内でのゲリラ戦を経験 する一方で、自前の「憲法」、議会、行政組織から、実効力はないものの司法機関までを備え、独自の教育機関をもって「国民教育」を進め、近代国家建設への 準備を進めてきた。亡命政府は、「中国からの独立は求めず、高度な自治のみ求める」という、細部までよく練られた中道政策を掲げてはいるものの、状況が変 われば即、自らが統治者たり得る基盤を作り上げて来た。
 一方のウイグル運動も、独自の歴史を重ね、多くの立役者を擁してきたが、その目指すところ、戦略、組織等、未だ不明確な部分も多い。これは、中心 となる組織、強力なリーダーが不在だったことが主たる理由ではある。世界ウイグル会議は、世界各地のウイグル運動体の上部機関として活発に活動している が、チベット亡命政府のように、全世界の同胞の人心を代表した存在たり得ているか、といえば、完全にイエスとは言い難い。つまり、ウイグル運動はまだ緒に 就いたばかり、ともいえるのである。
 であれば、「チベットダライ・ラマのように」と考えるウイグル側は、ダライ・ラマ法王が、半世紀もの長きにわたり、亡命政府トップという「実務 家」として、その機構、政策の構築に努めて来た点を重視すべきだ。世界にはまだWUCの傘下にないウイグル人運動体が数々ある。今後それらが連携するため にも、ラビアさんという稀代の実務家が、抽象的なシンボルとなるのではなく、むしろ、WUCを強化し、ウイグルの未来像を明確に描き出し得る機構へと成長 させるために働くということが得策だろう。

日本、アジアとの連携
トルコ、イスラム世界との連携

 「日本国内での活動はもとより、アジアでの活動を強化させたいと思います。台湾、東南アジア。そこにはイスラム・コミュニティ、イスラムの国もありますから。さらに民族的同胞であるトルコでの活動にも力を入れたい」
 というラビア総裁の言葉の具現化の一つとして、今般、アジア担当の副総裁に在日ウイグル人のイリハム・マハムティ氏が就任した。WUCは従来、欧 米を主たる活動の場としてきた。このことは、WUCがヨーロッパへの亡命者らにより設立されたという経緯や、国連等の人権関連機関がヨーロッパにあるこ と、一方、資金の面では、米国議会の予算から出資されている「全米民主主義基金」の援助を受けてきたことと無縁ではない。

WUC日本開催の意義

 日本とごく一部の国を除けば、欧米発の「人権」あるいは「民主」といった価値が社会に浸透しているとは言い難く、しかも中国の影響力の強いアジア 各国で、ウイグル運動を進めることは容易ではない。チベットですら、まだアジアでの盛り上がりは小さい。他方、イスラム諸国の支援も容易ではないだろう。 現に、多くのイスラムの国が、北京との関係上、ウイグル運動に寛容ではないし、民族的同胞であり、国内でのウイグルの活動に比較的寛容なトルコでさえ、ラ ビア総裁、ドルクン執行議長の入国を認めていない。
 「だからこそ、今回の日本開催が重要だったんです」とラビア総裁はいう。たしかに、日本が、北京の圧力を受け流し、WUCを開催させたことが世界 に報道されると、後日、トルコの議会は、「日本があれほど支援しているのに、われわれは同胞に対し冷たすぎるのではないか」との意見で紛糾した。日本開催 を、世界へのアピールの起爆剤にしたい、というラビア総裁の目論見はある程度、当たったといえるのだろう。しかし、「今後の道のりはけっして平たんでない ことも承知している」と表情を引き締めた。
 「ウイグルの惨状を人権問題として訴えること、国連や各国議会、政治家、人権団体へのロビー活動といった従来の活動に加え、ウイグル文化や歴史の研究、発信にも力を入れて行きたいと思います。政治以外の面からもウイグルを理解してもらいたい」

日本と日本人に向けて


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(撮影:WEDGE Infinity編集部)
 インタビューの最後、ラビア総裁は「あらためて日本国政府と日本人にお礼を言いたい」と述べた。たしかに、今般の会議開催にあたって日本政府は北京の圧力をものともしなかったし、与野党の国会議員らも中国側からの内政干渉的反応をはねのけた。
 野田総理は、北京での温家宝首相との会談の席で、「今後、日中人権対話の場を設けたい」という画期的な提案までしている。問題をさまざま抱える現 政権ではあるが、この点は高く評価されてしかるべきだ。民主党批判で熱くなっている人たちは、日本政府関係者や後日北京を訪れた鳩山元総理が、「チベッ ト、ウイグルの問題は中国の内政問題」と発言したことに批判の声を高くしているが、これは何も現政権が始めた方針ではなく、自民時代から続く日本政府の見 解であり、何より国際的に認められた「事実」でもある。
 むしろ北京五輪が開催された2008年に、チベットで多くの人が命を落とした弾圧があったとき、当時の自民党福田政権が、この「内政問題」発言を 繰り返し、「相手(中国)の嫌がることには触れない」という態度で押し通した。とかく日本国民は忘れやすい、ということなのだろうか?

真価が問われる日本の対応

 以前にも本コラムで 述べたが、野田総理はこの2008年当時、野党議員として国会で、「チベットウイグルの人権問題について、中国側に懸念を伝えていくべきではないか」と いう至極真っ当な質問をしている。今日の野田総理の諸対応は一貫した野田氏の「人権への意識」を反映させたものだろうが、いま、その真価がさらに問われて いる。
 冒頭で触れたとおり、中国当局によるウイグル人への弾圧、とくに宗教弾圧は年端のいかない子供にも容赦なく行なわれていると見ていい。筆者の電話 取材に対し、WUC副総裁のウメル・カナット氏(在ワシントン)は、「事件の起きたホータンは、今となっては主要都市のなかで唯一のウイグル人口比率の高 い街です。それゆえ、弾圧の重点にされている」と危機感をあらわにした。
 この状況に対し、野田政権、日本の政治家は何らかの発信をするのか? 中国大使から自身へ届けられた書状の無礼に憤るだけではなく、こうした現地ウイグル人の苦しみに対してこそ声を挙げてほしい。一日本国民として心からそう 祈るばかりだ。いま、海の向こうで祖国の子供たちが見舞われた惨事に胸を痛めているであろう「ウイグルの母」も、同じ期待をもって日本を見つめているに違 いない。
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