100年前、米国がその「裏庭」とも呼ばれる中米につくったパナマ運河は、太平洋とカリブ海、大西洋を結ぶ海運の大動脈の役割を果たしてきた。同じ中米ニカラグアで、この夏、パナマ運河を大きく上回る規模の運河建設が動き出す。担うのは、中国資本だ。
5兆円規模と見込まれる総工費は、ニカラグアの国内総生産の約5倍。反米姿勢で知られる同国のオルテガ大統領が、貧困脱出を掲げてこの構想をぶち上げ、昨年6月、公開入札なしで香港ニカラグア運河開発投資有限公司(HKND社)と工事請負契約を結んだ。
約半年前、運河の建設地として有力視されるラスラハス川の周辺で、中国人らしき数人のグループが地元住民に目撃された。軍用車やヘリコプターで移動し、川を撮影、測量した。銃を持つニカラグア兵10人以上が警護していた。
6月上旬、そこはうっそうとした熱帯の樹木に覆われていた。茶色く濁った川面の幅は数十メートル。雨期以外は干上がる場所もあり、放牧された馬が川底を歩く。「タンカーが通れるはずがない」。川沿いのレストランで働くファティマ・デュアルテさん(42)は、壮大な計画への疑問を口にした。
運河の総延長はパナマ運河の3倍以上。建設に必要な拡幅・浚渫(しゅんせつ)工事は大がかりで困難とも指摘される。
HKND社の総裁で通信機器大手の信威通信産業グループも率いる王靖氏(41)は19日、「調査はほぼ終わった。7月末には見通しを説明したい」と北京のグループ本社で語った。「運河は40万トン級の大型船が航行でき、世界の海運の1割がここを通る。国際貿易は必ず大きく活性化するだろう」と強調。巨額の建設資金は「全世界から集める」と自信を見せた。
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威光がかげる米国と膨張する中国。今回は中米やアフリカなどでの動きから、新たな秩序の行方を探る。
(春日芳晃、田村剛、小山謙太郎)