母ヤク、群れを残して高地で餌探し
野生生物保護協会(WCS)が率いた新たな研究によると、ヤクの母親は谷底にオスや子のないメスを残し、標高が平均約4900メートルにも及ぶ急な斜面で餌を探すという。
筆頭著者のジョエル・バーガー(Joel Berger)氏は、急傾斜地が子ヤクを捕食者から守り、高湿度の草地がタンパク質に富んだ餌をもたらしているとみている。
◆過酷な条件
研究チームは、ヤクの追跡が一層困難となる温暖な季節を避け、厳しい環境下で調査を行った。WCSの一員であり、モンタナ大学で野生生物保護の教授を務めるバーガー氏は、こう振り返る。「あれは晩冬で、相当寒かった。マイナス24度まで下がったこともあったよ」。
しかも、広範囲に分布するヤクを探すためには、バーガー氏が“極地のような砂漠”と呼ぶ広大な一帯を横断しなければならなかった。
オスは2頭以上で集まることを好まず、特に広く分布する。一方、メスは平均30頭の群れを成すことが多い。
◆過去はただの序章?
ヤクは、熱帯地方より北に生息する草食動物の中で最も大きく、近縁種のアメリカバイソンよりも大きい。アメリカのバイソンと同様、青海チベット高原に生息するヤクもかつて狩猟の対象となり、絶滅の危機に直面していた。
現在、ヤクは中国、アメリカ両政府によって絶滅危惧種に指定されている。中国政府がまだ厳格な介入を行っていなかった20年程前は、「150年前のアメリカでバイソンの頭蓋骨が散らばっていた光景のように、高地の草原にヤクの頭蓋骨が散乱していた」とバーガー氏は言う。
ヤクとバイソンは似ている点も多いが、違いもある。例えば、バイソンはメキシコのチワワ砂漠からカナダ北部の常緑樹林に至る広範囲に生息するが、ヤクの生息地はアジアの寒い地方に限られている。今回の研究によると、「ヤクのオスとメスに見られる空間と時間における生態上の分離が、(オスとメスが別々の群れで行動する)バイソンに匹敵するものかは定かではない」という。
バイソンと違い、ヤクは人の住んでいない地域に生息する。したがって、人間活動や生息地の分断による影響を考慮する必要に迫られることなく、生物の気候への適応や生物学的負荷を調べるには良い機会である。
また、高地でのヤクの生息地利用について明らかになれば、氷河の融解が最も急速に進む場所の一つ、チベット・ヒマラヤ地域での保護プログラムの強化にもつながる。
研究は、こう締めくくられている。氷河の融解、密猟、家畜ヤクとの交配といった脅威が、ヤクに変化を強いているのかどうか、それがどのような変化なのかを知るためには、「オスとメスの空間の使い方を解明する必要がある」。
Martha M. Hamilton for National Geographic News
「母ヤク、群れを残して高地で餌探し」(拡大写真付きの記事)