パルデンの会

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『習近平は必ず金正恩を殺す』




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宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成26年(2014)9月5日(金曜日)
通巻第4324号

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<<読書特集>>
 

近藤大介『習近平は必ず金正恩を殺す』(講談社

 奥山篤信『人は何のために死ぬべきか』(スペース・キューブ)
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 ◆書評 ◇しょひょう ▼ブックレビュー ◎BOOKREVIEW◆
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 これはシミュレーション小説なのか、明日の朝鮮半島の現実か
  確度高い裏情報を積み上げていけば、驚天動地のシナリオが浮かんだ


近藤大介『習近平は必ず金正恩を殺す』(講談社
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 これほどエキサイティングな本は滅多にないのではないか。中国語と朝鮮語を流ちょうに話せる近藤さんならではの観察記録と大胆な、或いは突飛とも言える近未来予測、それも中国と北朝鮮に焦点を当てた作品で、いきなり「中朝蜜月時代は、いまや完全に集結した」と看ている。
北朝鮮は「経済的には完全に中国の植民地」であるにも関わらず、大事な保護者に牙を向けて、習近平を怒らせてしまった金正恩。そして兄貴の金正男を匿う中国は次に何を仕掛けようとしているのか。
要するに「長年の血盟関係がウソのように『中朝冷戦』の時代をむかえた」(60p)。
北は中国を名指しこそしないが「アメリカに追随する不純分子」と攻撃したため、中国のネットには日本批判より金正恩攻撃のオンパレードとなった。金正恩は『金三ぱん』(金ファミリーの三代目のブタ、という意味)と渾名され悪口三昧がつづき(「金三ぱん」の「ぱん」は「月」篇に「半」。脂身の意味)、まるで開戦前夜の絶叫状態だという。
そして廬講橋事件77周年記念、甲午戦争120年記念と立て続けに反日行事を開催したのに、中国は朝鮮戦争60年記念行事を取りやめた。まさに中朝蜜月は終わり、中朝冷戦事態に突入した、ということになる。

北朝鮮は突如奇妙にも、血で汚れた手を揉みながら日本にすり寄ってきた。
日本は独自の対北への制裁を一部解除し、拉致の被害濃厚な日本人の調査を要請し、北は初めてその条件を呑んだ。
まったく異例である。金正恩政権が弱り切った証拠である。
日本海に次々とミサイル試射をおこなって日本を威嚇し、核兵器の実験を続けるくにが、なぜ日本に助けを求めるのか?(もっとも北の核兵器は日本向けでもあるが、中国にも向けられる。だから中国は不快感をあらわし、米国と歩調を合わせて北朝鮮制裁に加わった)。
実際に朝鮮半島では戦争前夜のようにキナくさくなったのだ。
「国家安全局」を設置した日本は、インテリジェンス方面の情報と解析が急がれるところだが、久々に空から振ってきたような『北』というカードを安倍政権は十分に使いこなせないだろう。
理由は簡単である。
日本には深い情報が入ってこないからである。中国も米国もちゃんとした情報を呉れないからである。韓国とて日本程度にしか情報を持ちあわせておらず、また最大の関心は中国の動き、日本は徹底的に罵倒するだけと自らが情報の鎖国状況にむかって朴権惠は暴走している。
さきの北朝鮮のミサイル実験は射程500キロ、つまり、これは日本を標的にしたものではなく(500キロでは日本に届かない)、明らかに中国と韓国を狙ったものだ。評者は中国瀋陽軍区への脅しとみる。
そして中国の動きがおかしくなった。
アセアン会議が連続してマニラ、ネピドーで開催され、シンガポールで「シャングリラ対話」があり、そして中国自身が、上海で「信頼醸成会議」を開催した。毎回、アジア各国から中国への期待の声はなく、いやむしろ敵対した日本の安倍首相が演壇にあがって「海洋ルールを守ろう」と呼びかけると参加国代表の拍手が鳴りやまなかった。中国はひしひしと国際社会での孤立無援ぶりを悟った。
その四面楚歌という予定外の状態を肌で認識したらしい。
とくにケリー国務長官はバイデン副大統領で並んで米国の親中派政治家の代表格と看られた。そのケリーが、ヘーゲル国防長官とともに中国を名指しで批判し続けた。
「現状を破壊するいかなる挑戦にも米国は反対する」と鮮明に述べた。米国の非難がよほど答えたらしく、中国はベトナムから海洋リグを引き上げた。
日本に対しても突然、トーンを和らげ、習近平の抗日集会(9月3日)の演説では、中国と日本は長期的に良い関係を維持するべきとした。
尖閣への海警の艦船の出没回数は激減した。
オバマは四月に来日したおり、「尖閣日米安保条約の守備範囲に含まれる」と明言し、フィリピンとは僅か数ヶ月という短時日裡の事前準備で新しい安保条約を締結した。いずれも中国の軍事的冒険を阻止する具体的な動きである。
中国はまったく思惑とは別の事態に世界が進んでいたことに驚愕した。
しかし、軍を固めようにも、人民解放軍は綱紀粛正、宴会禁止令で習近平への怨みの声が高く、そのうえ軍トップだった江沢民派の徐才厚郭伯雄が失脚したため、軍と上海派から疎まれ、反腐敗キャンペーンはかえって汚職が大好きな党官僚から不満噴出という情勢、ここで追い込められた習近平が起死回生のヒットを飛ばすとすれば、北朝鮮への介入、金正恩王朝にとどめを刺す戦争を仕掛けることだと近藤氏は予測するのだ。

実際に中国は原油、食料そして化学肥料の対北朝鮮援助を中断している。中国国有銀行は金正恩の隠し口座を凍結し、日干しにした。
金正恩は悲鳴を上げた。中国との太いパイプを持った張成沢の粛正が、これほどの反動を呼び、中国を怒らせるとは計算していなかった。
どうやら或るシナリオが着々と進んでいるようである。
すでにソウルを電撃訪問した習近平は韓国の了解を密かに取り付けた。米国は南シナ海尖閣では中国批判の急先鋒だが、こと北朝鮮制裁では、歩調をあわせている。
なれば、世界から誰も味方がいない、あの国! また中国国内で強い味方がいない習近平にとっては人気挽回、主導権確保への逆転勝利のシナリオでもありうる。
習近平は、こう言っているという。
「われわれは朝鮮半島の安全を望んでいるが、いまの政権の安定ではない」。
であるとすれば、何が始まるのか。
本書に縷々描かれているおぞましいほどの近未来をこれ以上紹介するのはよそう
。本書はじつに面白い、手に汗握る国際情勢解析の仕上がりとなった。