パルデンの会

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核実験場廃棄は毛針か 「金正恩vs中国」論争の怪

やっと 実体の 朝鮮問題が報じられ始めた。 テレビのコメンテーターのバカぶりは
どんどんひどくなる。

核実験場廃棄は毛針か 「金正恩vs中国」論争の怪 

編集委員 中澤克二  
2018/5/1 6:45
 Nikkei Inc.   <https://www.nikkei.com/>
 
 中沢克二(なかざわ・かつじ) 1987年日本経済新聞社入社。98年から3年間、北京駐在。首相官邸キャップ、政治部次長、東日本大震災特別取材班総括デスクなど歴任。2012年から中国総局長として北京へ。現在、編集委員論説委員。14年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

中国の権威ある大学の研究チームが北朝鮮の豊渓里(プンゲリ)地下核実験場は「既に崩壊し、使用不能状態」と指摘したのに対し、労働党委員長、金正恩が南北首脳会談で自ら反論する異常な状況が出現している。ガラス細工の中朝関係を象徴するエピソードでもある。
南北首脳会談では金正恩米朝首脳会談に先立つ5月中に核実験場を閉鎖し、米韓の専門家やメディアに廃棄の様子を公開すると言明。あえて「既存の施設より大きな2つの坑道が健在だ」と説明し、中国を発信源に世界中の話題になった「使用不能な実験場を廃棄するだけ」との見方を否定した。
核実験場廃棄を巡っては先週、このコラムで釣りに例えるなら米大統領、トランプを首脳会談におびき寄せるための「まき餌」である、と指摘した(「『金正恩VS習近平』、経済開放巡り巨龍と暗闘」参照)。その直後に中国で極めて興味深い発表があった。
■中国科技大が「実験場は使用不能」と衝撃の発表

中国トップレベルの理系大学、中国科学技術大学安徽省合肥市)が、実験場は2017年9月3日の第6回核実験の結果、「既に崩落している」との分析を公表。英語版や関連発言を含めると、実験場自体が使用不能になった事実を示していた。
17年9月3日、核実験の地震波を観測した8分半後、再び大きな地震波がとらえられた。2度目の核実験か――。当時、そう騒がれた現象は、最大規模の核実験で出現した空洞に向けてほぼ垂直に440メートル崩落したのが原因だったという。
研究チームは豊渓里付近で頻発した謎の小規模地震地震波を1972カ所の観測所のデータなどから詳細に分析。「崩落によって放射性物質が漏れた可能性について観測を続ける必要がある」と強い懸念を示している。
それなら金正恩による実験場廃棄の発表は、魚が食べることができる小エビなどの「まき餌」でさえなかった。完全に偽の餌である毛針、もしくはルアーなどを意味する。魚は食いついた途端に、騙されたと気付くが、時は既に遅い。
核実験場が使えない危機に瀕した金正恩はひとまず、これを逆利用してトランプへの譲歩を装う一芝居を打ったようだ。さらに「北朝鮮の核放棄」ではなく「朝鮮半島の非核化」という入り組んだ言葉の綾(あや)も繰り出した。ここは在韓米軍基地の存在をけん制したい中国への誘い水でもある。


トランプとの交渉は長引いてもよい。南北米、南北米中、もしくは日本とロシアを入れた6者協議に持ち込んでも時間を稼げる。そこで新たな核実験用の坑道を掘るなり、別の離れた場所に実験場を新設すれば済む。既に一定の核技術は確保したのだから、残るのは小型化を含めて核技術の信頼性を高め、大陸間弾道ミサイルICBM)に積めるようにするだけだ。
「トランプは秋の中間選挙を前に『目に見える成果』を強く求めた。それを知る金正恩が(韓国大統領の)文在寅の口を借りて早期の実験場閉鎖をトランプに伝えた。だが、そもそも実験場が使えなかったとすれば、まったく痛みのない見せかけの譲歩だったことになる」
これは北朝鮮の内情に通じる中朝関係者の解説である。
その後、中国では奇怪な動きがあった。核実験場の崩落を明言した中国科学技術大チームの分析結果が同大のホームページのトップから突然、削除されたのだ。 
 
金正恩氏の意向を忖度した中国当局が削除か
4月20日金正恩は「核実験場は使命を終えた」として廃棄を宣言し、翌日公表した。中国科技大がネット上で論文抜粋を公表したのは同23日。まるで金正恩宣言を即時、科学的に解釈したようなタイミングだ。ところが論文抜粋は同27日の南北首脳会談の頃から閲覧、検索不能になった

真実を伝えようと純粋に学術的観点から書かれた分析の削除――。由々しきことである。だが、中国では日常茶飯事だ。「中国科技大の発表も気にしてか、金正恩はわざわざ『坑道はまだ使える』と説明した。彼への配慮を優先した(中国)当局が問題視し、削らせたのだろう」。中国の外交・安全保障関係筋の見方だ。言わば金正恩への政治的な忖度(そんたく)である。
3月末には国家主席習近平が北京で金正恩とようやく初の握手。朝鮮半島問題で中国が蚊帳の外に置かれるのを防いだばかりだ。南北首脳会談の共同宣言にも、南北に米中を加えた話し合いの枠組みを押し込んだ。それだけに金正恩の渾身の「宣伝」を邪魔する真実の公表は好ましくなかった。
実はこの中国科技大は1980年代、中国で盛んだった学生運動を知る世代なら誰もがその名を記憶している。「中国のサハロフ」と呼ばれる反体制物理学者、方励之氏(亡命先の米アリゾナ州で2012年死去)を生みだした著名な大学なのだ。
学生運動の武力鎮圧で多く犠牲者を出した1989年の天安門事件。方励之はそこに至る中国の民主化運動に多大な影響を与えた。中国科技大の副学長だった86年、同大から全国各地に波及した民主化要求デモを扇動したとして翌年、解任されている。
この動きは87年1月、デモへの対処の甘さを指摘された胡耀邦共産党総書記の失脚につながった。方励之はその後も学生らの思想、精神面の支柱となる。当時の最高実力者、鄧小平に政治犯の釈放を求める公開書簡を発表する勇気ある行動もとった。
89年2月に訪中した当時の米大統領、ブッシュが、方励之を北京の米大使館の宴席に招待。出席しようとしたところ、中国当局に阻まれる国際的な大事件も起きた。同年4月に死去した胡耀邦を悼む学生らの行動が触発した天安門事件の後、方励之は北京の米大使館に避難した。
最後は米中関係の緊張のなかで出国し、米アリゾナ大学に在籍していた。とはいえ90年代以降、中国で生まれた世代は方励之の存在すら知らない。関連情報は全て遮断されている。今回、中国科技大の核実験場分析が有名になったといっても方励之を思い起こす人は少ない。
ただ、方励之が残した真摯な科学探究の姿勢は今も受け継がれている。同大の論文は米国の地球物理学連合の学術誌「地球物理研究レター」が既に受け取っている。闇に葬られた訳ではない。
■安倍首相も歓迎するが…
文在寅金正恩との会談で日本人拉致問題も提起したと明かしている。金正恩も「いつでも日本と対話する用意がある」と語ったという。「前向きな動きとして歓迎したい」。首相の安倍晋三は核実験場の閉鎖表明を含め歓迎の姿勢だ。ただ、先に述べたように問題は複雑である。

習近平金正恩が「核実験をしない」というなら大歓迎である。とはいえ最終的に核放棄が実現しなければ中国の利益も失われかねない。朝鮮半島核兵器を持つ国家が公然と誕生するなら、東アジア唯一の核保有国だった中国の国際的な立場は大きく損なわれる。
中国科技大が触れたように、今も崩落した核実験場から中国の吉林省側に放射性物質が漏れている恐れがある。中国は国境付近での監視モニタリング体制を敷いている。もしも核実験が再開されれば国境付近の中国国民が危険にさらされるばかりか、再び米朝戦争の危機が訪れる。
一芝居打った金正恩の名演には、血で固めた友誼を結んだ中国の権威ある大学でさえ疑問符を突き付けた。躍起になって反論した金正恩の説明は、文在寅を通じてトランプに伝えられる。さて、「交渉のプロ」を自任するトランプがどう扱うのか。(敬称略)