心病んだ人をほっこりさせる
「初女式ぬか漬け」の秘密
全国から自殺寸前の人がやってきてそこで「食」をもてなされると活力を得て帰っていく。まさに「ふるさと」のような地が青森・岩木山麓にある『森のイスキア』だ。
『森のイスキア』主宰・佐藤初女氏のところへは、女優・大竹しのぶさんや、総理大臣夫人・安倍昭恵さんなど数多くの有名人が「おむすび」を学びにくる。
1995年公開、龍村仁監督『地球交響曲<ガイアシンフォニー>第二番』でその活躍が世界中で注目された佐藤初女氏。現在も精力的に講演活動中だ。
その初女さんが93歳の集大成書籍『限りなく透明に凜として生きる―「日本のマザー・テレサ」が明かす幸せの光―』を発刊(本記事巻末に購入者限定特典告知あり)。
いよいよ本日、透明感あふれる「めぐろパーシモンホール大ホール」での出版記念講演会(1200名)が盛大に開催される(講演チケットは書籍発売後すぐに完売)。
今回は、ぬか漬けこそが「生物多様性」につながった夜のエピソードを一挙公開する。
心と心を結ぶ郷里の味
佐藤初女(さとう・はつめ)1921年青森県生まれ。1992年、岩木山麓に『森のイスキア』を開く。病気や苦しみなど、様々な悩みを抱える人々の心に耳を傾け、「日本のマザー・テレサ」とも呼ばれる。1995年に公開された龍村仁監督の映画『地球交響曲<ガイアシンフォニー>第二番』で活動が全世界で紹介され、国内外でも精力的に講演会を行う。アメリカ国際ソロプチミスト協会賞 国際ソロプチミスト女性ボランティア賞、第48回東奥賞受賞。2013年11月の「世界の平和を祈る祭典 in 日本平」でキリスト教代表で登壇。チベット仏教最高指導者のダライ・ラマ法王と初対面。その際、おむすびをふるまう。『おむすびの祈り』『朝一番のおいしいにおい』など著書多数。(撮影:岸圭子)
わたしが住んでいるのは青森県弘前市。東北ですから、どこの家でもお漬物をよくつくります。
青森で採れる山菜に“ミズ”というものがありますが、熱湯に通すと、名前のようにみずみずしい緑にさっと変わります。
塩、とうがらしを入れておくと、ほんとうにおいしい漬物が出来上がるのです。
お母さんたちは子どもたちに食べさせたいし、子どもたちも食べたいのですね。
そのようなことから心と心で結ばれていくわけです。
青森ならではの漬物というと、“赤カブ”も見落とせません。
薄切りにした赤カブを平らに重ねて、酢とざらめを交互に入れているうちに、白と赤のまだらがさっと真っ赤に染め上がりますが、その様子はまるで科学の実験のようです。
お漬物の味を損ねるのは「水分」です
おいしい漬物を漬けるには、とにかく水分を取り除くこと。
漬物の容器に野菜を入れ、そこに塩をまぶして重石をすると、どっぷりと水分が出てきます。そこから少しずつ食べていって中身が少なくなると、またまた水分が上がります。
そのままにしておくと余分な塩分が酸素をもらい、酸味が出てしまい味が落ちてきますので、食べて水があがったときは野菜すれすれになるぐらいまでに水分を残して、あとは捨てる。
そうすると、最後までおいしく食べられます。重石もそのつど小さくしていきます。
漬物用の石を探すのも情趣があります。平らがいいなとか丸いのがいいな、大きさも大きいもの、小さいもの、いろいろなものがあるといいので、子どもと一緒に探すと、また楽しいですね。
と答えました。
そうすると「ふーん」って。
「これを浸透作用って言うんだよ」と言うと、「学校で習った」と。
「知っているんだね」と言うと、
「習っただけで知らない」って(笑)。
わたしは、そんなふうに女学校のときに化学で習ったことを今も活かしてやっているの。
孫は習っただけで知らなかったけれど、おいしい、おいしくないだけでなく、根本的なところを話せば大変よく通じてきて、つくるときの気持ちによって味が変わることがわかるわけです。
調理は「科学」であり「物理」
こんなふうに失敗作も切り替えていくと、楽しみに変わります。
まさに調理は科学であり物理です。
でも、無駄なことをしないように、すべてを見積もりながら食材を求めていきたいものですね。
ぬか漬けが「生物多様性」につながった夜
一人ひとりからさまざまなことを教えられるので、いつも何かをいただくような気持ちでお会いしています。
話を聞くときも、そのときそのときに聞き流したら終わりですが、出会いの中でじっと聞いていると気づきが与えられます。
これまでもぬか漬けをつくっていたけれど、あまり手入れが得意でないから、長らく成功したことがなかったの。
それで、その友人にくどいと思われるぐらいに、うまく漬ける方法を聞いていたんです。
ぬか漬けはぬか床の中で、さまざまな野菜とさまざまな菌が出合い、互いに影響しながら共存し合っています。
多くの野菜が多くの菌と関わることで新しいものを生み出している。
これは、この世界で人と人が出会って互いに影響し合うのとまったく同じこと。
ぬか漬けこそ、わたしたちの日常生活そのもの。その夜、ついにぬか漬けが“生物多様性”とつながったのです。
何でも落ち着いてやることがいちばん
野菜が透明になったときは“いのちのうつしかえ”ですから、この瞬間を逃さずにしたいのは、ぬか漬けでも同じこと。
そうやって野菜を下ごしらえし、ぬか床に入れるときには「明日は○○さんがくるからおいしく漬かってね」と心の中で祈ります。
そうすると野菜自身が努力して、おいしくなろうとするように思うのです。
敗戦後70年、「早く早く」と効率が重視される時代が続いてきました。すべてが早くなり、生活そのものが変わっていっています。
けれども、何でも落ち着いてやることがいちばんです。パパッと調理すると性格もそのようになります。
また、性格も調理する心のようになれば変わりますから、それをぜひお漬物を漬けることで体験してほしいのです。
93歳の集大成書籍を
どんな気持ちでつくったか
ずっと、このことを話したかったの
ずっと、このことを書きたかったの
ずっと、このことを伝えたかったの
透明のこと。
いちばん大事なのは、待つことです。
母性に立ち返るとき、問題は自然に解決します。
「いのちのうつしかえ」のとき、人も透明になるのです。
透明だと、ほんとうに、生きやすい。
何かになろうとしなくても、
それは自分の中にすでにあるものです。
透明になって真実に生きていれば、
それがいつか必ず真実となってあらわれます。
だからわたしたちに今できることは、
ただ精一杯、真面目にていねいに生きていく、
これだけだと思うのです。
よろしければ、一度お読みいただけると幸いです。
(次回へつづく)
佐藤初女(さとう・はつめ)
1921年青森県生まれ。青森技芸学院(現・青森明の星高等学校)卒業。小学校教員を経て、1979年より弘前染色工房を主宰。老人ホームの後援会や弘前カトリック教会での奉仕活動を母体に、1983年、自宅を開放して『弘前イスキア』を開設。1992年には岩木山麓に『森のイスキア』を開く。助けを求めるすべての人を無条件に受け入れ、食事と生活をともにする。病気や苦しみなど、様々な悩みを抱える人々の心に耳を傾け、「日本のマザー・テレサ」とも呼ばれる。1995年に公開された龍村仁監督の映画『地球交響曲<ガイアシンフォニー>第二番』で活動が全世界で紹介され、シンガポール、ベルギーほか国内外でも精力的に講演会を行う。日本各地で「おむすび講習会」を開くとすぐ満員になる盛況ぶり。アメリカ国際ソロプチミスト協会賞 国際ソロプチミスト女性ボランティア賞、第48回東奥賞受賞。2013年11月の「世界の平和を祈る祭典 in 日本平」でキリスト教代表で登壇。チベット仏教最高指導者のダライ・ラマ法王と初対面。その際、おむすびをふるまう。『おむすびの祈り』『いのちの森の台所』(以上、集英社)、『朝一番のおいしいにおい』(女子パウロ会)、『愛蔵版 初女さんのお料理』(主婦の友社)、『「いのち」を養う食』(講談社)など著書多数。