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チベットの悲劇、許し難い中国の蛮行━櫻井よしこ


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より転載

チベットの悲劇、許し難い中国の蛮行━櫻井よしこ

チベットの悲劇、許し難い中国の蛮行━櫻井よしこ

「『週刊新潮』 2016年1月21日号 日本ルネッサンス 第688回」より

1月の連休中に、3年9か月振りに日本を訪問したチベット亡命政府の首 相、ロブサン・センゲ氏にお会いした。米国ハーバード大学で上級研究員 の地位にあった氏は、2011年8月にチベット人の自由選挙によって首相に 選ばれ、亡命政府のあるインド北部のダラムサラに戻った。ダライ・ラマ 法王14世から政治指導者の地位を受けついだ氏は、今年8月、5年間の第1 期を終え、第2期を目指す。
 
妻のケサン・ヤンドンさんも1人娘のメンダ・リナさんも昨年2月、ハー バード大学のあるボストンからダラムサラに移り住んだ。メンダさんはい ま8歳、完全な英語圏からチベット語圏へ、西欧近代社会から東洋の簡素 かつ自然の摂理に多くを委ねる社会へと移り住んだ。幼い淑女は両方の言 葉で日本の童話を語ってくれるなど、健気かつ利発だった。
 
センゲ氏は家族と共に「チベット人として生き、チベット人として死ぬの が願い」だと語る。これから長い間、チベット人としての闘いが続くが、 氏は最も困難な課題に、誰よりも率先して取り組む人間でありたいと、笑 みを浮かべながら語った。
 
1月11日、千葉工業大学シンクタンク「国家基本問題研究所」が共催し たシンポジウムで、センゲ氏は基調講演を行った。氏は講演で、学生たち に日本の平和な現状からは想像もつかないチベットの厳しい現実を伝え た。内容が自ずと中国のチベット政策批判になったのは、チベットの歴史 を見れば当然であろう。
 
中国は、台湾などと共にチベットを核心的利益と位置づけ、独立は決して 許さないと主張する。センゲ首相は中国の主張を以下の5つの論点に絞っ た。
?チベットは歴史を通じて中国領土の一部だった、

?中国がチベットを 平和的に解放した、

?チベット人は現在幸福で満足している、

?チベット人ダライ・ラマ法王を嫌っており、法王の帰国を歓迎し ない、

?ロブサ ン・センゲ首相のことは誰も知らないし、彼は悪魔である。

この中国の主 張は正しいのか。

法王殺害を意図
 
?についてセンゲ首相は、821年の唐との戦いでチベットが連戦連勝し、唐 と結んだ平和条約が石碑に刻まれている事実を指摘した。

チベットの偉大な王の一人、第40代のティ・ラルパチェン王が唐と結ん だ平和条約は石碑に刻まれ、長安の都の宮殿正門の前、チベット・ラサの ジョカン大聖殿正門の正面、ググメル山のチベットと中国の分水嶺の3か 所に建てられました。
 
碑には、チベットも唐も『現在の国境を尊重する』と書かれています。国 境の東方は偉大なる中国、西方は偉大なるチベットの領土であると明記さ れています。碑は、チベットが中国の一部ではなかったことを示す多くの 史料のひとつにすぎません」
 
?に関して、中国はチベット寺院の95%、6000以上の寺を焼き、破壊し、 大多数の僧侶や尼僧を殺害したとして、センゲ首相は中国の侵入が「平和 的解放」とは程遠かったことを説明した。事実、中国は僧だけでなく、ダ ライ・ラマ法王殺害を主目的とした凄まじい殺戮作戦を実施した。
 
1949年に中華人民共和国を建国するや否や、毛沢東らがチベットを侵攻し たのは周知のとおりだ。チベット人道路建設に駆り立て、道路が完成す ると無数の武装した漢民族の兵士をトラックで運び、チベット全土に駐屯 させた。59年2月、彼らは人民解放軍の駐留地で開催する観劇に法王を招 いた。「護衛なしで来るように」という条件つきの招待だった。
 
チベット人は皆、法王が中国に拉致され危害を加えられると心配し、法王 の住居だったノルブリンカ宮殿を取り巻いた。観劇の誘いに応じないよう 法王に訴え、中国人は中国に帰れと叫び、幾重もの人垣で法王を守ろうと したのが3月10日である。
 
続々と集結する中国軍との高まる緊張の中、法王は17日夜、宮殿を脱出し インド国境近くのロカに逃れた。そうとは知らない人民解放軍は19日午 後、ノルブリンカ宮殿に一斉砲撃を開始した。集中砲火はなんと、41時間 も続いたと伝えられる。宮殿内の僧、尼僧、一般のチベット人は殆ど全員 殺害された。宮殿も破壊された。中国は明らかに、法王殺害を意図してい たのである。
 
インド国境近くに逃れていた法王がインド政府に亡命を申請したのは同月 29日だった。これが実際に起きたことだ。チベット解放」は平和的に行 われたという中国の主張は大嘘なのである。
 
以下、?が事実なら、なぜいまもチベットの若者たちの焼身自殺はやまな いのか。?が事実なら、油をかぶってわが身に火を放ち苦悶の内に死ぬ 人々の遺書に、なぜ、法王への熱烈な信仰心と帰国を待ち望む声が書き残 されているのか。?が事実なら、チベット人600万人全員に尋ねるがよい。 中国共産党支配の下に居続けたいか、自由選挙でセンゲ首相を選びたいか と。チベット人は必ず中国共産党を忌避し、センゲ氏を選ぶだろう。

中国を恐れない
 
いま、国際社会は強大化する中国の脅威に直面しているが、センゲ首相は チベット人がどのように中国に対処しているか、中国がどのようにチベッ トを取り扱ってきたかを知ることが、中国問題に正しく向き合う知恵を授 けてくれると強調する。
 
チベット人は600万人、中国総人口の0・5%にすぎないが、センゲ首相は 「チベット人漢民族の中国を恐れてはいない」と繰り返す。

「私たちの全ては真実に基づいています。私たちは嘘とも捏造とも無縁で す。時代の風は私たちを後押ししてくれています」
 
重要なのは、真実に共感する国際社会の輪を広げ、中国にそれを認識させ ることである。かつてはその役割を担っていた米国が国際社会で引きこも り状態に陥りつつある。米国に替わって真実の輪を広げる役割を担えるの が、実は日本である。
 
アジア諸国の中でダライ・ラマ法王の訪問を受け入れているのはモンゴ ル、台湾以外では日本だけである。しかも法王来日の頻度は他国と比較に ならない程高い。他のアジア諸国は中国の報復を恐れて、受け入れたくて も決断できないのである。そうした中、法王の来日のみならず、センゲ首 相の来日も、その折々に歓迎してきた日本国の在り方に、日本人は誇りを 抱いてもよいだろう。
 
今回もセンゲ首相は帰国する前日、国会施設内で自民党議員らと会談す る。政治家も民間人も、チベットをはじめとする少数民族問題や人権問題 に関して、目の前に存在する悲劇や問題から目を背けないことが大事であ る。そのためにも、首相来日の度に、或いは法王来日の度に、与野党共に 真摯な対話を重ねるのがよい。日本にはよき価値観を世界に広げる責任と 力があるのである。