パルデンの会

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大混乱 米国が覇権を失ったらば!!!!


【第22回】 2016年4月5日 北野幸伯 [国際関係アナリスト]

トランプ大統領誕生なら米国は覇権国家から転落する

米大統領選で共和党トップを走るトランプが、爆弾発言で日本を困惑させている。さまざまな問題発言で世界を驚かせ続ける彼は、一体何を考えているのか? そして、彼が大統領になったら、世界と米国はどうなるのだろうか?

「米国は貧しい債務国」
従来と180度違うトランプ式外交プラン

http://diamond.jp/mwimgs/a/1/300/img_a1dbd5152b92d400aba645b2096cd6c9977147.jpgトランプが大統領になれば、米国の内向きは加速する。「自国第一主義」は、ソ連大統領・ゴルバチョフとも似ている路線だ Photo:Reuters/AFLO
「日本から米軍を撤退させる可能性がある」「日本の核兵器保有を容認する」――。トランプの仰天発言が日本を動揺させている。
 トランプが「在日米軍撤退」や「日本の核保有容認」について語ったのは、ニューヨーク・タイムズ(電子版)とのインタビューで、3月26日付に掲載された。
 ポイントは3つある。

1、日米安保条約は、米国が攻撃されても、日本は米国を守る義務がない「片務的な取り決め」である。
2、日本が米軍駐留費用を大幅に増やさなければ、米軍を撤退させる
3、日本が北朝鮮などの脅威から自国を守るために、「核保有」を認める

 1については確かにそのとおりだが、2と3については、「飛躍している」気がする。なぜこういう結論になるのだろうか?
 AFP3月27日から。(太線筆者、以下同じ)

<トランプ氏は、自身は孤立主義者ではないと語る一方、米国は貧しい債務国なのに北大西洋条約機構NATO)や国連(UN)といった国際機関への資金分担は不相応に多いとの認識を示した。
 日本や韓国、サウジアラビアといった同盟諸国との関係についても、同じように不公平だと述べた。
 トランプ氏は「われわれは、知恵が回り抜け目がない手ごわい人たちから、長年見下され、笑われ、搾取されてきた」と述べた。
「従って、米国を第一に考えてこれ以上搾取されない形にする。
友好関係はあらゆる方面と結ぶが、利用されるのはごめんだ」と強調した。>


 米国の現状について、トランプは「貧しい債務国」と考えている。確かに、米国は、世界最大の対外債務国家なので、「正しい認識」ともいえる。この認識を「大前提」に、彼の「外交、軍事プラン」は存在する。トランプが、「変える」と宣言しているのは、日米関係だけではないのだ。

ウォール・ストリート・ジャーナル3月29日付を見てみよう。

<トランプ氏はほかにも、共和党内でこれまで背信行為とみられていた行動を取っている。
 最近では、米国にとって最も重要な軍事同盟であり、およそ70年にわたり欧州の安全維持に貢献してきたと言われる北大西洋条約機構NATOへの米国の寄与に疑問を呈した。また、日本と韓国が米軍の駐留経費の負担を増やさない場合、両国での米軍駐留を継続すべきか、両国が米国の核の傘を頼りにし続けるべきかを問題視した。
 一方でペルシャ湾岸国については、過激派組織「イスラム国(IS)」への対応で軍事協力を強化すべきとの声がある中、トランプ氏はほぼ反対の姿勢を示し、サウジアラビアをはじめとするアラブ諸国は、ISの脅威への対応で米国に比べて支出が小さすぎると批判した。>

 日本、韓国、NATOサウジアラビアアラブ諸国――。要するに、トランプは世界中で米国の軍事支出、軍事的関与を減らそうとしている。その理由は、「米国は貧しい債務国」だから。

トランプとゴルバチョフには
意外な共通点があった

「わが国は世界中を支援しすぎだ。われわれには、そんな余裕はない。自国のことを第一に考えなければならない」。トランプがこう考えているのは明らかだ。
 ところで、過去にも同じことを考えた男がいた。ソ連最初で最後の大統領ゴルバチョフである。ソ連経済は1970年代、原油価格の高騰で、非常に好調だった。ところが、80年代になると原油価格は低迷し、ソ連経済はボロボロになっていく。
ゴルバチョフは、考えた。「ソ連は、東欧の共産国家群をはじめ、アフリカ、アジア、中南米、つまり全世界の共産国家を支援している。われわれには、今までのような支援をつづける余裕はない」。そして彼は、実際に世界の共産国家への支援を減らしはじめた。
 さらに、「自国第一主義」が高じ、「東欧の政治には不介入」という方針に転換する。その結果何が起こったか?

 1989年、ベルリンの壁が崩れ、ドミノ式に東欧民主革命が広がった。
 1990年、資本主義の西ドイツと共産主義東ドイツが統一した。
 1991年末、ソ連自体が崩壊し、15の独立国家が誕生した。

ゴルバチョフの決断は、冷戦を終わらせ、日本の脅威を消滅させた。それはありがたいことだが、旧ソ連人にとっては、「国を滅ぼした指導者」である。トランプの考えていることは、そんなゴルバチョフと同じなのだ。
 もう一度復習しておこう。トランプの認識は、「米国は貧しい債務国で、世界中の国々から搾取されている」ということ。それで、「日本、韓国、NATO加盟国、サウジアラビアアラブ諸国の負担を増やさせ、その分米国の支出を減らす。米国は、金のかかる軍事介入も減らす」。すでに見てきたように、これはソ連を滅ぼしたゴルバチョフと同じ方針で、米国の覇権を終わらせる道である。
 なぜか? 覇権とはなんだろう? 辞書を見ると、「覇者としての権力。力をもってする支配力」とある。「覇権国家」とは、簡単にいえば、「支配する国」という意味である。

 冷戦時代は、「資本主義陣営」の覇権国家・米国と、「共産主義陣営」の覇権国家ソ連がいた。しかし、ソ連が崩壊したので、米国は世界唯一の覇権国家になった。ところで、「覇権国家」の「支配力」は、どのような方法で維持されるのだろうか? 昔のように、片っ端から「植民地」にして、支配するわけにもいかない。

 では、どうやって?
 1つは、「経済的支援」を通してである。既述のようにソ連は冷戦時代、世界中の共産国家、さらに資本主義国家内の共産勢力を支援していた。米国は90年代、ソ連崩壊でボロボロなった新生ロシアを経済支援することで、政治までコントロールしていた。要するに「金による支配」だ。
 これは一般人にも理解しやすいだろう。Aさんの会社の社長は、性格が最悪かもしれない。しかし、Aさんは、社長のいうことを聞いている。なぜか?毎月「給料」をもらっているからだ。そう、Aさんは、社長に「金で支配されている」のだ。

 もう1つの支配力の源泉は、「軍事力」と「安全保障」である。たとえば、EU全体の経済規模は、米国を凌駕している。しかし、米国はNATOを通して、欧州を実質支配している。とはいえ、「悪い米国が強制的に欧州を支配している」とも言い切れない。NATOは、「対ロシア」の「軍事同盟」だからだ。特に、ソ連時代共産圏にいた、つまりロシア(ソ連)に支配されていた東欧諸国は、NATOの存在を歓迎している。

 日本は、世界3位の経済大国である。しかし、日米安保で、米国に支配されている。これも二面性があり、日米安保のおかげで、日本はソ連に侵略されず、今は中国の脅威から守られている。

トランプ大統領誕生なら
米国の覇権国家転落は決定的

 トランプは、「経済的支援を減らす」「軍事的関与も減らす」としている。これは、自分から支配力の源泉、つまり覇権を手放すのと同じである。「金も出さない、軍隊も出さない国」のいうことを聞く国があるだろうか? 聞くはずがない。「誰もいうことを聞かない国」を覇権国家と呼べるだろうか? 呼べるはずがない。
 つまり、トランプは、知ってか知らずか、「米国は覇権国家をやめる!」と宣言しているのだ。
 実際にトランプが大統領になり、「有言実行」したら、世界はどうなるのだろう? まず、各国は米国の束縛から解放され、自由に動くようになるだろう。欧州は、ロシアと敵対するよりも、和解する道を選ぶ可能性が高い。
 中東はどうだろう? トランプはプーチンに「中東の平和維持」を依頼するかもしれない。あるいは、スンニ派サウジアラビア・トルコなどと、シーア派のイランとシリア・アサド政権の大戦争が勃発するかもしれない。
 米国に見捨てられた韓国は、走って中国の属国になるだろう。さてこんな中、日本はどうするのだろうか?
 もう一度、トランプ発言の重要ポイントを見てみよう。

1、日米安保条約は、米国が攻撃されても、日本は米国を守る義務がない「片務的な取り決め」である。
2、日本が米軍駐留費用を大幅に増やさなければ、米軍を撤退させる
3、日本が北朝鮮などの脅威から自国を守るために、「核保有」を認める

 1については、安倍内閣が「集団的自衛権行使」を容認することで、「片務的」現状を、「双務的」状態にする努力をつづけている(3月29日、安保関連法が施行された)。トランプが大統領になれば、「憲法改正」も支持してくれるのではないだろうか? 「日本が自分で自国を守れる状態になること」は、「米軍の負担を減らす」ので、米国の「利益」だからだ。

 2については、「米軍を撤退させる」という言葉に喜んでいる日本国民もいるだろう。日本では近年、「米国が諸悪の根源。米軍が撤退すれば、すべてうまくいく論」が、流行っている。しかし、「今米軍がいなくなったら、日本はどうやって中国の脅威をかわすのか?」という大問題が残る。
 こう書くと、リベラル系の人は、「今の時代、中国が尖閣を奪いにくることなどありえません!」と、自信たっぷりに断言する。そんな人に私はいつも、中国が「日本には尖閣ばかりか、沖縄の領有権もない」と宣言している以下の記事を読んでもらう(記事はこちら)。
 これを読めばわかるように、中国は、明らかに「尖閣」「沖縄」を狙っている。今、米軍が撤退すれば、中国は比較的容易に、最低でも尖閣、最悪沖縄まで奪ってしまうだろう。

米軍基地、核兵器問題…
日本はどう振る舞うべきか

 では、どうすればいいのか? トランプは、「日本が米軍駐留費用を大幅に増やさなければ、米軍を撤退させる」といっている。つまり、「日本が米軍駐留費用を大幅に増やせば、米軍はとどまる」ということだ。日本政府は、今後10年程度をメドに、トランプの要求を飲めばいい(もちろん、法外な要求は交渉で断るべきだが)。
 そして、米国からの協力も得て、これから10年程度で「自分の国を自分で守れる体制づくり」を進めていく。準備ができた段階で、トランプの望みどおり米軍に撤退してもらえばいいだろう。結局、日本は、いつまでも米国に依存しつづけるわけにはいかない。「いつか通らなければならない道」ならば、トランプの脅迫をきっかけに、スタートを切るべきだ。
 3の「核兵器保有容認」はどう考えるべきだろうか。核兵器は、極めて有効な兵器である。北朝鮮のような最貧国でもつくれるほど安価で、抑止力は抜群だ。米国のような超大国ですら、核保有国・北朝鮮への攻撃を躊躇する。
 とはいえ、「だから核兵器をつくればすべてうまくいく」とはならない。日本は「核拡散防止条約」(NPT)に参加している。もし、日本が核兵器保有したければ、当然NPTから脱退することになる。すると、「既存の世界秩序を壊した」ということで、世界的に孤立することになるだろう。

 中国、ロシア、韓国が強硬に反対するのは確実だ。はっきりはわからないが、欧州も反対する可能性が高い。トランプ大統領が誕生すれば、米国は「認める」というが、そもそも「儲からないから米軍を撤退させる」というような男が、真剣に日本を世界から守ってくれるだろうか?というわけで、核兵器はあった方がいいが、同時に「世界的に孤立する」「世界を敵にまわすリスクがあることを決して忘れてはならない。

 ここまでいろいろ書いてきたが、トランプはまだ大統領ではなく、大統領になれるかもわからない。大統領になっても、優秀なブレーンたちが彼を説得し、考えを変えさせるかもしれない。それでも、「米軍が日本から撤退する日」を見据え、シュミレーションを開始することは必要だ。

 そして、トランプが大統領にならなくても、米国は長期的に衰退するトレンドにあり、やがて「米軍がアジアから撤退する日」がくる可能性は極めて高い。ウォール・ストリート・ジャーナル3月29日付で、同紙ワシントン支局長のジェラルド・F・サイブは、トランプだけでなく、他の共和党候補も、軒並み「世界への積極的関与を支持していない」事実を書いている。

 そして同氏は、記事を「世界における米国の役割に関しては、共和党がこれまで主導してきた積極的な関与を支持する候補者はクリントン氏のみとなっている」と締めくくった。つまり、米国が「内向き」になっているのは、トランプに限らず「大きなトレンド」なのだ。
 よって、好むと好まざるとにかかわらず、「日本が自立を迫られる」日は近づいている。