http://jbpress.ismedia.jp/mwimgs/7/7/600/img_777d45e631879ae2925c0a564427f04b109368.jpgデービッド・スネドン氏が消息を絶った中国雲南省の虎跳峡(出所:Wikipedia

 12年前の2004年8月、ある米国人青年が中国雲南省の名勝の渓谷、虎跳渓で消息を絶った。「青年が行方不明になったのは実は北朝鮮に拉致されたからであり、現在は平壌で英語の教師をしている」──。9月3日から4日にかけて、こんな報道が世界のニュースメディアによって流された。

 この青年とは、当コラム(2016年3月2日「北朝鮮による米国人拉致事件、ルビオ議員も助太刀にhttp://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46226)でも報じたユタ州出身の当時24歳の大学生、デービッド・スネドン氏のことである。
 今回の各国メディアの一斉報道で、米国政府が本格的に調査を開始することが確実となった。北朝鮮による自国民の拉致事件を抱えた日本にとっても好影響が期待できそうだ。

現地女性と結婚して2児の父に

 米国ではニューヨーク・デーリーニュース紙、USニュース・アンド・ワールド・リポート誌、CNNニュースなど多数のメディアが「北朝鮮によるスネドン氏の拉致」を報道した。300万部以上を発行する大衆雑誌のピープル誌から州の地方紙までが、失踪直前のスネドン氏の写真を載せて大々的に報じた。

 この新情報はカナダ、イギリス、アイルランド、オーストラリア、インド、台湾などの新聞やテレビでも報道され、文字通り世界の主要地域のほぼすべてのニュースメディアによって、大きな国際ニュースとして伝えられたのである。
 これらの報道は、韓国の拉致被害者の集まり「拉北者家族会」の崔成龍チェ・ソンヨン)代表の証言を伝えた共同通信などの発信を根拠としていた。
 崔氏は、「中国の雲南省で失踪したスネドン氏は、実は北朝鮮工作員により拉致され、平壌で現地の女性と結婚して2児の父となり、ユン・ボンスと名乗って英語教師をしている」という情報を北朝鮮内の消息筋から入手したという。
 崔氏の発言や、情報源である「北朝鮮内の消息筋」の信頼度などはまだ不明だが、それ以前から、スネドン氏が北朝鮮に拉致されたことを示す状況証拠は多数あった。崔氏の証言はその可能性をさらに高めることとなった。

渓谷に落ちたと報告していた中国当局

 米国務省報道官は今回の報道に対して、「(米政府は)この案件を詳しく調査し、中国政府に対しても調査を求めていく」と述べた。ただし、現時点では「北朝鮮工作員に拉致されたことを示す確固とした証拠は得ていない」という。
 米国議会ではスネドン氏の出身地のユタ州選出議員らが中心になって、米国の各政府機関に日本や中国と協力して本格的調査を求める決議案を今年2月に提出している(共同提案者は当初は8人だったが、9月時点で26人に増えた)。
中国当局はスネドン氏が行方不明となった理由として、当初、同氏が渓谷に落ちたようだと報告していた。だが、米国議会の決議案では、実は同氏が北朝鮮工作員に拉致され、平壌で軍事諜報員や外交官の英語教師をさせられている可能性が高いとしている。
 決議案はスネドン氏が北朝鮮に拉致されたらしい理由として、以下の4点を指摘する。

(1)同氏は渓谷を越えた地点の朝鮮料理店で目撃されており、「転落」は根拠がない。(2)当時、この地域は脱北者やその支援者が集まる場所とされ、北朝鮮工作員が拉致を含む活動をしていた。(3)日本の民間組織から「米国人大学生が雲南省北朝鮮に拉致された」という情報があった。(4)北朝鮮で軍の要員に英語を教えてきた米国人チャールズ・ジェンキンス氏が前月に出国したため、後任の英語教師が必要だった。

救う会」関係者がスネドン氏の家族に情報提供

 当初、米国務省はスネドン氏の拉致疑惑に対して「決定的な証拠がない」という理由で、本格的な調査の開始には消極的だった。
 これに対して、日本の「救う会」(北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会)関係者は、中国領内の情報源から「2004年8月に雲南省北朝鮮政府の工作員が米国人留学生を拉致して、平壌に連れ去った」という情報を得て、スネドン氏の家族に提供していた。

 また、元拉致問題担当大臣古屋圭司衆議院議員が、米側上下両院の有志議員に同じ情報を提供して、米国政府に本格調査を求める決議案の提出を促していた。古屋議員は「米国が北朝鮮による自国民拉致の解決を求めるようになれば、日本人の拉致事件の解決への助けにもなる」という考えのもと、昨年から今年にかけてワシントンを数回訪問して、多数の上下両院議員に同決議案を採択することも訴えてきた。

 今回の米国での報道によって、米国議員らから在米日本大使館への問い合わせが増え、決議案への賛同議員もさらに多くなることが予想される。