米軍北部訓練場(東、国頭両村)のヘリコプター離着陸帯(ヘリパッド)移設工事に対する反対運動は激しさを増し、政府も訓練場の過半の年内返還に向け、工事推進に断固たる姿勢を示している。沖縄県警は反対派リーダーの逮捕に踏み切り、反対派は「抗議活動への弾圧」と反発を強める。ただ、実は反対派は一枚岩ではなく、大同団結の象徴だったリーダーの戦線離脱で司令塔を失ったといえる。
■やりたい放題に怒る地元住民
国頭村安波区。米軍北部訓練場と県道70号に挟まれた場所に広大な農地が広がり、約50人の農家がパイナップルやサトウキビなどを栽培している。ここで、北部訓練場のヘリパッド移設反対派による不法侵入が深刻化し、農家からは怒りの声があがっている。
70号と農地を隔てるフェンスには「関係者以外の立ち入りを禁ず」と書かれた看板が設置されている。反対派はそれを無視し、フェンスを勝手に開けたり、脇をすり抜けたりして侵入。農地の奥にある谷を通り、ヘリパッド工事の進むG地区での妨害活動に向かう。
50歳代の男性は「反対派はやりたい放題だ」と話す。別の農家によると、農地が踏み荒らされた跡を見つけたこともあるという。
農地は徒歩で30分程度とG地区へ不法侵入するのに近い。反対派は10月上旬から農地を頻繁に出入りするようになり、20人前後で早朝にG地区へと向かい、夕方に戻ってくる。
不法侵入対策として農家はフェンスにカギを取り付け、脇を通れないようにフェンス幅も広げた。余計な出費で気苦労も絶えない。
パイナップルの出荷最盛期だった8、9両月は70号上での反対派の妨害活動で集荷や運搬に支障を来し、農家は損害を被っている。
■地元組と支援者で反対派は二分
「いい加減にしろ」
ある農家は隣接する東村の「新住民」で反対派の一人に抗議したが、「農地や訓練場に不法侵入をするのは近隣住民ではなく、われわれの言うことを聞いてくれない」と困惑していたという。
新住民の反対派が漏らしたように、反対派は二分している。
ヘリパッド移設工事への妨害活動に参加している国頭村民はいないとされ、反対派の実動部隊は、東村に移住している新住民らに加え、県内・外からの「支援者」だ。この支援者はプロ市民が多い。
新住民や共産党系などの反対派は訓練場内への不法侵入は控えている。それに対し、反対運動を統率する沖縄平和運動センター議長の山城博治容疑者(64)=傷害容疑などで逮捕=や支援者が不法侵入を繰り返しており、警察幹部は「両者には溝ができている」と分析する。
もともと山城容疑者は米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古移設を妨害するため、移設先となる米軍キャンプ・シュワブのゲート前での活動を主導していた。今年7月、防衛省が北部訓練場のヘリパッド移設工事を再開させて以降、東村に活動拠点を移し、妨害活動のリーダーとなった。
山城容疑者はヘリパッド移設工事現場への立ち入りを禁じるフェンスの上に張られた有刺鉄線を切ったとして器物損壊容疑で逮捕された。その後、防衛省職員に暴行を加え、打撲など約2週間のけがを負わせたとして傷害などの疑いで再逮捕された。
山城容疑者は「非暴力」を掲げてきたが、実態はかけ離れている。
■防衛省への進駐軍は官邸主導の証
防衛省はこれまで有刺鉄線を張る度に切断されていたが、「切断現場を確認できないため立件できない」(防衛省幹部)状態が続いていた。
今回、山城容疑者が切断する現場を確認できたことを受け、県警は逮捕し、傷害事件の捜査も進めて再逮捕に至った。
犯罪事実が固まれば立件するのは当然だが、県警内には山城容疑者の逮捕に懸念もあった。山城容疑者が現場で警察との折衝役となってきたからで、警察幹部は「折衝役が不在となり、妨害活動の歯止めが利かなくなる恐れがある」と指摘していた。
別の警察幹部も山城容疑者の逮捕について「吉と出るか凶と出るか…」と語る。
では、だれが山城氏逮捕のゴーサインを最終的に出したのか。
ヘリパッド移設工事を主導しているのは、今年に入り防衛省本省と沖縄防衛局に出向してきた国土交通省の技官らで、「進駐軍」と呼ばれている。和泉洋人首相補佐官が技官らを指揮しており、首相官邸に直結している。
それを踏まえれば、山城氏の逮捕も官邸が最終判断を下したとみられる。
ヘリパッド移設が条件となっている北部訓練場の過半の年内返還に官邸主導で邁(まい)進(しん)する政府に対し、司令塔を失った反対派の攻防は最終局面を迎え、なお予断を許さない。(那覇支局 半沢尚久)