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中国の不正漁業を止めるための必要条件


支那人から言わせれば、買う人間が悪いと言うのであろう!!

中国の不正漁業を止めるための必要条件

記者の眼

2017年10月4日(水)
寺岡 篤志
 日本に輸入される魚介類の約3割は不正操業によるもの――。環境団体のオーシャン・アウトカムズ(東京・港)と公共政策コンサルティング会社のGR Japan(東京・千代田)がこんな推計を発表した。特に中国の漁業者による不正行為が目立つという。不正操業は日本の海洋資源に大きなダメージを与えている可能性も大きい。
 中国の不正漁業を止めるにはどうすればいいのか。その第一歩は、中国への批判を声高に唱えることではなく、まず我が身を振り返り国内の不正漁業への対策を整備することだ。
当局から取り調べを受ける中国漁船。(写真:ZUMA Press/amanaimages)
 調査はオーシャン・アウトカムズがカナダのブリティッシュコロンビア大学などの研究チームに委託して実施した。各国の漁業関係者への聞き取りや公開情報を基に、2015年に日本に輸入された天然魚介類のうち、24~36%をIUU漁業によるものと推計した。IUUとはIllegal・Unreported・Unregulated(違法、無報告、無規制)を意味し、禁漁期や禁漁海域での操業、漁獲量を過少申告する行為、船籍をごまかして規制を逃れる行為などを指す。

最大のIUU魚介類は中国からのイカ

 IUU漁業による輸入魚介類の総額はおよそ16億~24億ドル(1800億~2700億円)に及ぶという。IUU魚介類のうち、最も量が大きかったのは中国からのイカコウイカ(推計26950~42350トン)。IUU漁業の割合が最も大きかったのも中国からのウナギ(同8162〜13603トン)で、45~75%を占めるとみられる。
 日経ビジネスは8月28日号に特集「ここまで朽ちた 独り負けニッポン漁業」を掲載。オンラインでも関連記事を連載した。読者からの意見の中で目立ったのが、こうした不正操業が日本の漁業資源に大きな影響を与えていることへの危惧だ。
 日本のEEZ排他的経済水域)周辺では中国などからの漁船が集まり、サバなど漁業資源へのダメージが指摘されている。水産庁も「(漁業が大幅に成長している)ノルウェーの隣には中国がいない」(長谷成人長官)などと日本漁業の衰退の主因の1つを周辺諸国の影響によるものだとしている。
 しかし、誌面でも連載でも中国などの不正操業を大きな主題としては敢えて取り上げなかった。それは、中国の振る舞いを批判することは日本の漁業を成長させることに直結しないからだ。外患より先に内憂に対処する必要がある。

禁輸措置はGATTに抵触?

 水産庁によると「中国政府の中でもIUUに関する懸念は高まっている」(国際課)。中国がEU欧州連合)とIUU対策に関するワーキンググループを結成するといった具体的なアクションもある。しかし、自国のEEZ内の資源保護に直結する沿岸漁業の対策が優先で、日本を含む他国へのEEZへの影響が大きい遠洋漁業でのIUU対策は、後回しにされるのではないだろうか。
 外交においてIUU漁業は自然保護の問題ではなく漁業の産業育成の課題であり、中国当局にIUU対策を促すには、同国産業の利害につながる動機付けを示す必要がある。これに関してはEUの取り組みが参考になる。
 連載記事でも説明した通り、IUUの対策が最も進んでいるのがEUだ。IUU 対策が不十分と認定した国には魚介類の禁輸措置も言い渡す。EUはこれまで6カ国に対し禁輸措置を実行している。
 日本も中国にこうした厳しい姿勢を取ることが対策として考えられる。魚食の需要が右肩下がりの日本だけでは中国の包囲網を築くには不十分かもしれないが、EUなどと連携して禁輸措置のカードをちらつかせれば効果はあるだろう。
 しかし、GR Japanの粂井真マネージャーは「今の日本がIUU魚介類の禁輸措置に踏み切れば、WTO世界貿易機関)の内外無差別原則に抵触しかねない」と指摘する。WTOGATT(関税及び貿易に関する一般協定)で、輸入品への規制に関し「国内原産の同種の産品に許与される待遇より不利でない待遇を許与される」と定めている。つまり、国内でIUU魚介類の流通防止を十分にしていないのに、徒な禁輸措置はできないということだ。

EUに劣る日本の漁獲管理

 EUの場合、「漁獲証明書制度」と呼ばれる域内の制度が対外的に禁輸措置に踏み切る裏付けになっている。漁獲時、水揚げ時、販売時にそれぞれ日にちや漁法、漁獲量などを当局に報告し、魚介類のトレーサビリティーを確立。IUUに当たらない魚介類であることを確認し、証明書を発行する。同様の制度は米国も既に取り組み始めている。
 一方、日本はEUのように厳密にIUUを排除する仕組みを持っていない。漁業協同組合などを通じた漁業者同士の自主規制による管理が日本の主流だ。「日本は漁船がIUU船と国際的に認定されたことはない」(水産庁資源管理部)が、資源現象が危惧される太平洋クロマグロの無許可漁獲が相次ぎ発覚するなど、問題が全くないわけではない。自主規制が機能しているかは地域により大きな差はあるが、国内でも不正が起きている以上、自らの襟を正さねば禁輸措置に軽々には踏み切れない。

リーダー不在が根本的問題

 日本でEUのような漁獲管理ができない理由について、水産庁の関係者は「ステークホルダーが多すぎるから」と弁明する。1970年代にEEZにより海洋資源を各国が囲い込むようになった後、日本は漁業経営体の集約を進めてこなかった。日本の漁業者の約9割は小規模経営の沿岸漁業者で、漁業権の管理は漁協に任されている。対して、中規模の沖合漁業は都道府県が、大規模の遠洋漁業水産庁が主に漁獲の許可を行なっている。それぞれの統括団体が違うため、横の連携は乏しく、資源の奪い合いのためにいがみ合うこともしばしばだ。漁業者が一丸となって漁獲管理に取り組む機運に乏しく、水産庁も漁業者全体に対して睨みが効かない。
 しかし、GR Japanの粂井氏は「まずはEUのシステムの一部だけでも取り入れることが重要だ」と指摘する。日本の小規模の漁業経営体の場合、漁獲量の記録をつけている漁業者は多くない。EUのように、漁獲時、水揚げ時、販売時のデータを管理するのは難しい。それでも水揚げ時には市場で漁獲量の記録は残る。水揚げ時に日にちや魚種ごとにロットナンバーをつけて流通させれば、一定程度のレーサビリティーは確保されるというわけだ。
 特集の取材を通じて記者が抱いた最も大きな疑問は、なぜ誰も抜本的な改革に取り組まないのか、という単純な問題だった。隣に中国がいようと、ステークホルダーが多かろうと、粂井氏が提唱するような改革へのはじめの一歩を踏み出さない理由にはならない。EEZによる200海里時代が始まって以降の日本漁業の衰退は「不作為」の一言に尽きる。漁協にも水産庁にも、漁業者に痛みのある改革を受け入れさせるだけの気骨のあるリーダーが生まれなかった。
 40年間漁業の衰退を止められなかった現実を真摯に受け止め、水産庁の幹部を全て外部から呼び込むぐらいの大鉈が必要だと記者には思える。今の水産行政に必要なリーダーの資質は、専門知識や現場経験よりも、改革に挑む「気概」ではないだろうか。

このコラムについて

記者の眼

日経ビジネスに在籍する30人以上の記者が、日々の取材で得た情報を基に、独自の視点で執筆するコラムです。原則平日毎日の公開になります。