香港地方選、民主派の立候補急増 11月24日投票 市民の関心高く
- 2019/10/17 21:14
- 日本経済新聞 電子版
【香港=木原雄士】大規模デモが続く香港で、11月24日投票の区議会(地方議会)議員選挙への関心が高まっている。17日に立候補の受け付けが締め切られ、前回2015年を上回る1000人以上が届け出た。抗議活動に参加する若者の出馬も相次ぐ。区議会選は香港の選挙で最も民意を反映しやすいとされ、民主派に追い風が吹いている。
区議会は地域の生活にかかわる政策を討議する場で権限は小さいものの、行政長官を決める選挙委員や立法会(議会)の議席の一部が割り当てられるなど一定の影響力を持つ。親中派も民主派も2020年の立法会選挙の前哨戦と位置づけて、選挙活動を展開する。
「おはようございます。よろしくお願いします」。16日朝、香港島の住宅街で区議選に立候補した韋少力氏がチラシを配っていた。通勤客に声をかけて名前を売る選挙運動は日本など他の民主主義国家と同じだ。韋氏は民主派団体の活動を経て立候補を決めた。
2014年の「雨傘運動」の学生リーダーだった黄之鋒(ジョシュア・ウォン)氏や張秀賢(トミー・チャン)氏ら名前が知られた活動家も相次ぎ立候補を届け出た。前回の選挙では全431選挙区の16%にあたる68選挙区が無投票だった。今回はほぼすべての選挙区に民主派の候補者が立ち、親中派との対決構図が鮮明になる見通しだ。
市民の関心も高い。区議選は18歳以上の永住者が選挙権を持つ。事前に有権者登録を済ませた人は約413万人と、前回に比べて12%増えた。6月に始まった大規模デモでボランティアグループが若者らに登録を呼びかけ、今回、新たに38万6千人が登録した。
背景には政治意識の高まりがある。香港政府トップの行政長官は業界代表の1200人が投票する間接選挙で、事実上、民主派は当選できない仕組みだ。デモ参加者は有権者が1人1票を投じる普通選挙の導入を求めるが、実現のハードルは高い。香港の選挙の中で最も民主的といわれる区議会選は民意を示す貴重な機会だ。
前回選挙は親中派が7割の議席を確保した。香港では投票率が上がると民主派に有利に働くとされる。林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官の支持率は過去最低の水準に沈んでおり、親中派の危機感は高まっている。
16年以降、立法会選で民主活動家の周庭(アグネス・チョウ)氏など民主派の立候補が認められないケースが相次いだ。今回も選挙管理委員会は黄氏など複数の民主派候補に政治的な立場を尋ねる質問状を送った。選管が立候補禁止を連発すれば、市民の反発が強まり投票所の焼き打ちなど過激なデモに発展する可能性がある。
すでに親中派の立法会議員の事務所がデモ隊に破壊されたり、区議会選に出馬表明した民主派の候補者が何者かに襲われたりする事件が相次いでいる。大規模デモを主催する民間人権陣線の代表で、区議選にも出馬表明した岑子杰(ジミー・シャム)氏も16日夜に4~5人の集団にハンマーで襲撃され大けがをした。
政府がこうした混乱を理由に選挙日程を延期するのではないかとの観測もくすぶる。林鄭氏は繰り返し否定しているが、政府の都合で選挙延期を決めれば、「民主主義を否定した」として市民や国際社会の批判が高まるのは必至だ。当面は区議選をめぐる動向がデモの勢いを左右する公算が大きい。