4日夜に開かれた北京冬季五輪の開会式で、中国は聖火の点火者に新疆ウイグル自治区出身のウイグル族の女子選手を起用した。国際社会では同自治区での人権侵害に批判が高まり、米英などは北京五輪の「外交ボイコット」に踏み切っている。中国はこうした動きに対抗し、少数民族が活躍できる社会を実現しているとアピールする狙いとみられる。
点火者2人のうちの1人として登場したノルディックスキー距離のジニゲル・イラムジャン(20)は、新疆北部アルタイ市の出身。五輪は初出場で、国際的にはそれほど名前は知られていない。
点火者を予想する事前の国内報道でも名前は挙がっていなかった。父親もノルディックスキー選手だったという。
国営通信の新華社はノルディックスキーの中国代表チームは漢族、ウイグル族、チベット族といった多民族で構成していると報じ、多様性を強調している。
新疆にはイスラム教徒のウイグル族が多く住んでおり、中国の多数派である漢族中心の統治に対する反感が強い。中国はここ数年、「テロ対策」を理由に多数のウイグル族を収容施設に入れ、思想教育を行ってきた。米英などは人権侵害だと問題視し、五輪に政府代表を派遣しない「外交ボイコット」を決めた。(共同)
北京五輪を機に…“外交”活発化 中ロ首脳会談“外交的ボイコット”各国に波及
[2022/02/04 23:30]
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https://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000243912.html
北京五輪開幕を目前に、ロシアのプーチン大統領が北京に入り、習近平主席と首脳会談を行いました。
ロシア、プーチン大統領:「五輪開会式にご招待頂き、感謝しています。開催がどれほど大変かよく理解しています」
習近平国家主席は「“立春”であるこの日の会談は、中ロ関係にさらなる活力を与えるでしょう」と応じたといいます。
会談後に出された共同声明では、ウクライナ情勢をめぐって、NATOの拡大に反対することで一致。台湾情勢については、ロシアは独立を支持しないと、中ロががっちり肩を組んだという内容です。
“五輪外交”が華々しく幕を明けたように見えますが、そうでもありません。今回、国家の代表を派遣した国の数は25カ国と、前回の北京オリンピックの3分の1ほど。ロシアのほかには、カザフスタンやウズベキスタンなど『一帯一路』の沿線上に位置する中央アジアの国々が目立ちます。
アメリカホワイトハウス、サキ報道官:「バイデン政権は北京冬季五輪・パラリンピックにいかなる外交官も政府当局者も送りません」
イギリス、ジョンソン首相:「閣僚らの冬季五輪出席はありません」
ウイグル族弾圧に端を発した国際的非難は、各国の“外交的ボイコット”にまで波及しました。政府高官を一切送らない国もあれば、スポーツ分野での客人だけは送るという国など、対応はそれぞれ違いますが、多くの国が中国と一定の距離を取ったのは事実です。
中国政府としては、ウイグル族弾圧などという事実はないというスタンスです。しかし、イギリスやアメリカ、スイスのIOC本部前では、北京五輪に反対する抗議の声が上がりました。
ウイグル問題を訴える人:「五輪を主催する名誉を中国に与えてはいけません。これはジェノサイド五輪なので、人々は反対すべきなんです」
香港問題を訴える人:「中国政府に最も伝えたいのは『世界が見ている』ということです。中国の各地で行われる大量殺りく、迫害を世界は目の当たりにしてきました」
チベット問題を訴える人:「IOCは2008年にも中国を選んだのに、なぜ繰り返すんですか。当時、中国は人権状況を改善すると約束していました。なのに五輪の後、チベットは封鎖され、戒厳令が敷かれ、今や消滅しつつあります。それなのにIOCは再び中国を開催地に選びました。これはオリンピックの理念にかなっているのでしょうか」
貼り付け元 <https://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000243912.html
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ウイグル族起用、政治的演出が伝えるものとは 北京五輪開会式ルポ
毎日新聞 2022/2/5 10:46(最終更新 2/5 11:41) 1307文字
北京冬季オリンピックは4日夜、北京市の国家体育場(通称「鳥の巣」)で開会式があり、幕を開けた。政治色の強い演出が際立った異質な式典をスタンドで取材した記者が、中国の思惑を探った。
最新鋭の映像技術を駆使して開催国・中国の文化とスポーツの魅力を描いた演出に、現地で取材しながら徐々に引き込まれた。一方で国内の少数民族の人権問題に厳しい視線が注がれる五輪の幕開けで、中国側が込めた政治的なメッセージも浮かび上がった。
中国が誇る国際的な映画監督、張芸謀(チャン・イーモウ)氏が練り上げたのは冬らしい青色と白色を基調にしたシンプルな演出だった。二十四節気の一つ「雨水」の映像から開会のカウントダウンが始まり、最後に開幕日である「立春」を迎えると会場中央に集まった人々が持った緑色に光る棒が草原のように揺れて春を告げる。季節感を大事にする中国らしい演出に周辺の欧米人記者からは拍手が聞こえた。精緻なプロジェクションマッピングを駆使した演目が次々に繰り出され、中国の技術力の高さを印象づけた。
大会の「特殊さ」を改めて思い知らされたのは、開会式のハイライトである聖火リレーの場面だ。午後10時(日本時間同11時)過ぎ、リレーは大詰めを迎え、最後に聖火を託された2人の男女の名前が会場のスクリーンに映し出された。このうちスキー距離の女子選手の名前を見て、思わず息をのんだ。新疆ウイグル自治区出身のウイグル族、ジニゲル・イラムジャン選手(20)だった。
彼女に聖火を託した五輪メダリストらと違い、決して有名な存在ではない。周囲の中国人記者に聞くとスマートフォンで名前を検索した後、「知らない」と肩をすくめた。多くのウイグル族が再教育施設に強制的に収容されているとして、欧米の国々は人権侵害を理由に外交的ボイコットを表明し、開会式に政府高官を派遣しなかった。そうした中、渦中の民族をあえて起用した中国に「ウイグル族への人権侵害など存在しない」と世界へ「民族の融和」をアピールする意図があるのは明らかだと感じた。
中国を統治する共産党は人口の9割を占める漢族と55の少数民族は一体の「中華民族」だとうたう。開会式では民族衣装などに身を包んだ人たちが国旗「五星紅旗」を一緒に掲げる場面もあった。
だが、そうした演出を目の当たりにするうちに、かつて上海に駐在し、取材で訪れた新疆で何度も見た光景がよみがえってきた。「すべての民族は家族だ」。そう書かれた街角の看板近くに設けられた検問所では、ウイグル族の人たちがスマートフォンを差し出していた。当局が「テロ」につながるとみるデータがないかチェックするためだ。その横を漢族とみられる人が通り過ぎていく。「なぜ自分たちだけが常に疑われるのか」。あるウイグル族の男性は、そう打ち明けた。
世界が注目する聖火リレーの最終走者にウイグル族の選手を起用した姿勢は、大国となった自信、そして米国などに対して人権問題で介入を許さない強烈な意思表示に映る。開会式ではジョン・レノンの「イマジン」が流れた。「想像してごらん、国境のない世界を」。ちぐはぐさを漂わせて「平和の祭典」は始まった。【北京・林哲平】