ロシア軍がウクライナの原発を攻撃 火災が発生して放射線値が上昇
キエフ市内で消火活動を行う消防士(AP)
ロシア軍は3日、ウクライナ国内の電力の25%を供給しているエネルゴダル市のザポロジエ原発を攻撃。戦車が侵入したほか、周辺では銃声音が聞こえており、ウクライナの政府関係者がAP通信に語ったところによると、火災が発生した同原発では放射線の数値が上昇したとしている。 現地で取材を続けるAP通信の記者によれば、首都キエフでは3日の夜間になっても爆発音が断続的に聞こえており事態は緊迫。なおウクライナ政府は軍関係の死傷者数については公表していないが、ロシア側は2月24日の侵攻以来、同国の兵士500人が死亡し、1600人が負傷したとしている。 ▼ザポロジエ原発 ウクライナ南部にある原発で、国際原子力機関(IAEA)によると、6基が稼働中。うち5基は旧ソ連時代の1984~89年に稼働し、残る1基はソ連崩壊後の95年に稼働した。出力はいずれも100万キロワットで、総電力の約半分を原子力に頼るウクライナの原発として最大の出力を誇る。
「プーチンが勝てるとは思えない」…これからロシアを直撃する「壮絶な報復」
「プーチンが勝てるとは思えない」
ロシアのプーチン大統領[Photo by gettyimages]
ウクライナの首都、キエフ制圧を目指すロシアの軍事作戦が難航するなか、米国の有力な軍事専門家が「ロシアは勝てない」という見方を明らかにした。一方、ジョー・バイデン米大統領は3月2日、一般教書演説で注目すべき発言をした。それはいったい、何だったのか。 【写真】「プーチンは勝てない」と予測した、アメリカの軍事専門家の正体 大統領発言を紹介する前に、ここまでの戦況を振り返ろう。ウクライナの隣国、ベラルーシから侵攻したロシア軍はキエフ制圧を目指して、南下した。ところが、各地でウクライナ軍と市民の抵抗に遭って、3月3日現在も制圧に成功していない。 ロシア軍とウクライナ軍の圧倒的な戦力差から、当初は「首都は数日で陥落する」とみられていた。ところが、ウクライナ軍は、米政府当局者が2月27日に「予想を上回るほど手強い(stiffer than expected)」と評価するほどの抵抗を示し、ロシア軍の進撃は難航した。 すると、米国の軍事専門家が3月2日、戦況見通しを率直にこう語った。 デビッド・ペトレイアス退役陸軍大将(南カリフォルニア大学教授)は、CNNで「これはロシアとウラジーミル・プーチン大統領が最終的に勝てる戦争、とは思えない」と語ったのだ。 CNNはなぜか、この発言を活字で配信していないが、YouTubeで確認できる。これとは別に、同氏は2月28日、CNNの著名アンカー、クリスティアン・アマンプール氏のインタビューに答え、そちらでも「(侵攻は)プーチンにひどい状態になるだろう(going terribly for Putin)」と語っている。 ペトレイアス氏は、ただの軍事専門家ではない。イラク戦争やアフガニスタン戦争で司令官を歴任し、その後は中央情報局(CIA)長官を務めた経歴をもつ。市街戦を含めた戦争を何年も実際に戦い、情報戦にも通じている、いわば「専門家中の専門家」である。 日本では、実戦経験がなくても軍事専門家を名乗る人がたくさんいるが、それとはレベルがまったく違う。米テレビで解説している多くの米軍関係者と比べても、ペトレイアス氏は別格である。アマンプール氏が番組冒頭で紹介したように、市街戦にかけては、世界に彼以上の専門家はいない。ちなみに、学歴でも陸軍士官学校を卒業し、プリンストン大学で修士号と博士号を得た「陸軍のスーパーエリート」だ。 そんなペトレイアス氏は、ロシア軍が勝てない理由について、番組でこう指摘した。 ---------- 〈彼ら(ロシア軍)は、おそらく首都を攻略できる。だが、それを維持することはできない。…ロシア軍は(必要な)兵の数を持っていない。…ウクライナの人々は、みな彼らを憎んでいる。成人の大部分は「人間の盾」であれ「どんな武器」であれ、手にして喜んで戦うつもりなのだ。…彼らにはチャーチルのような大統領もいる。人々の士気は挫けていないし、ウクライナ軍には「自分たちの国」という地の利もある〉 ---------- この発言をCNNのライブ配信で聞いたとき、私は正直、驚くと同時に「やはり、そうか」と思った。実際に首都陥落作戦が始まっていない段階で「プーチンは勝てない」とテレビで語るのは、よほどの確信がなければ言えない。ペトレイアス氏のように名声を確立した人物であれば、なおさらだ。 その彼が語ったとなると、これは「ニュース」である。だからこそ、CNNが活字配信しなくても、先に引用したザ・ヒルのような活字メディアが直ちに取り上げたのだろう。
無自覚な「プーチンの代弁者」の罪
脱線するが、私はこういう情報とその展開を国際情勢を眺める基本に据えている。国家対立の予想が難しいのは当然だが、それでも、第1級の専門家とジャーナリストの分析を丹念に追っていれば、先行きはおのずと見えてくる。先週のコラムで書いたように、実際、私の開戦見通しは正しかった。 鍵を握るのは「どこにどんな情報が眠っているか、を嗅ぎ分けるカン」と「丹念さ」である。とりわけ重要なのは「カン」のほうだ。これは国際情勢の分析でも、日本の政局見通しでも、同じである。私の観察では「カンがない人」は、いつも間違えている。そういう人の話をいくら聞いても時間のムダ、と思う。 ウクライナ戦争では「米国が北大西洋条約機構(NATO)を東に拡大しないと約束していたのに、破ったから、プーチンが戦争を仕掛けた」という話も出回った。事実はどうか、と言えば、そんな約束はなかった。 「約束説」は、1990年2月に当時のジェームズ・ベーカー米国務長官がミハイル・ゴルバチョフソ連共産党書記長に「NATOが東に1インチも拡大することはない」と語った、という話が根拠になっている。だが、ゴルバチョフ氏自身が2014年10月、ロシアの日刊紙「コメルサント」のインタビューに答えて「NATO拡大の話は当時、まったく議論されていなかった」と認めている。 私に言わせれば、約束説を語る人たちは「プーチンの代弁者」にほかならない。事実をよく調べず、丹念でもない。いまや「価値ある情報」の99%は、英語で世界に流れている。残念ながら、日本語情報はほとんど役に立たないどころか、むしろ有害だ。したがって、自分で日常的に英語情報をチェックしていない人の話が論外なのは、言うまでもない。
対ロ経済制裁による大きな打撃
2月28日、サンクトペテルブルグの両替所にて両替レートを見つめる男性[Photo by gettyimages]
本題に戻る。 プーチン氏は戦場で苦戦しているのに加えて、戦場以外でも厳しい状況に置かれつつある。とりわけ、私は、ロシアで事業を展開する多くのグローバル企業が相次いで、ロシアからの撤退を表明している点に注目する。 英石油大手のBPが先陣を切ると、同じくシェルや米石油大手のモービルも撤退を表明した。さらに、独商用車大手のダイムラートラックもロシア企業との提携を解消し、米IT大手アップルやスポーツ用品大手ナイキ、エンターテインメント大手ディズニーもロシアでの製品販売や映画公開を中止した。クレジットカードのマスターカードやVISAもロシアとの銀行取引を停止した。 日米欧政府は一部のロシア銀行を国際決済ネットワークの「国際銀行間通信協会(SWIFT)」から締め出した。ロシア中央銀行との取引も制限した。これによって、ロシアはドルやユーロなどの外貨を入手しにくくなった。 外資企業にとっては、ロシアでの事業利益をドルやユーロに替えて、本国に送金するのが困難になる。西側の制裁はプーチン政権が続く間はもちろん、少なくとも数年は続くだろう。企業イメージの悪化に加えて、利益も送金できないとなると、今後も西側企業のロシア脱出が相次ぐはずだ。 ロシア中銀は政策金利を2倍近い20%に引き上げた。これらの結果、ロシア国民は買い物でクレジットカードを使えず、ドルは入手できず、住宅ローン金利は大幅上昇という苦境に立たされた。海外旅行など、夢のまた夢だ。ドルで買い支えられないルーブルの暴落は止められず、今後、猛烈なインフレと景気悪化に襲われるのも避けられない。
「彼を捕まえろ!」
議会にて一般教書演説を行うバイデン米大統領[Photo by gettyimages]
戦争反対の声は今後、ロシア国内でも一段と高まっていくだろう。一言で言えば、いまや、戦場でも国内外でも「プーチンの戦争は大きく潮目が変わった」のである。さて、となると、プーチン氏はどうするのか。 もっとも懸念されるのは、暴発だ。プーチン氏は2月27日、戦略的核抑止部隊に対して「特別警戒」体制を敷くよう命令した。核攻撃で脅しているのだ。そんなタイミングで出てきたのが、バイデン大統領の一般教書演説だった。バイデン氏はこう述べた。 ---------- 〈プーチンのウクライナに対する攻撃は事前に計画され、挑発されたものでもなかった。…プーチンはいま、世界でかつてなく孤立している。…今夜、私は同盟国とともに、すべてのロシア航空機に対して米国の空を閉じる。それはロシアを一段と孤立化させ、彼らの経済を苦しめる。ルーブルは30%下落した。ロシアの株価は40%下落した。貿易は止まったままだ。ロシアの経済は揺らいでいる。プーチンただ1人に責任があるのだ(Putin alone is to blame)〉 〈ロシアの独裁者は外国に侵攻し、世界にコストをかけた。…この時代の歴史が記されるとき、ウクライナに対する「プーチンの戦争」はロシアを弱体化したに違いなく、世界の他の部分は強くなった(と記されるだろう)…プーチンは戦車でキエフを包囲するかもしれない。だが、彼はウクライナ人の心と魂まで手にすることはできない。彼は、彼らの自由に対する愛を消すことはできず、自由世界の決意を弱めることもできない〉 ---------- 大統領が「これはプーチンによって引き起こされた戦争であり、責任は彼自身にある」と認識していることは明らかだ。「オリガルヒ」と呼ばれる新興財閥の犯罪を摘発する姿勢も示したが、個人名を挙げたのはプーチンだけだった。 バイデン大統領がプーチン氏1人に戦争責任の追及を絞ったのは、なぜか。 私はオリガルヒは別にして、ロシアに対して「他の軍関係者の責任は免除してやる。その代わり、プーチンを打倒せよ」というメッセージを送ったのではないか、とみる。それは、演説の最後の一言にも示された。大統領はこう言った。 ---------- 〈彼を捕まえろ! (Go get him! )〉 ---------- ホワイトハウスが発表した公式の演説全文に、この一言はない。つまり、これは即席の発言だった。「him」ではなく「them」の複数ではないか、との見方もあるが、米ブルームバーグや米ABCは「him」の単数で報じている。私は何度も録画を聞き直したが、やはり「him」に聞こえる。 演説本体がプーチン氏1人に焦点を絞っていた点から見ても、ここは「him」すなわち「プーチンを捕まえろ」と叫んだと見るのが自然だろう。つまり、ロシアにクーデターを促したのだ。 もしも、プーチン氏が核のボタンに手をかけようとしたら、止められるのは側近たちか、核攻撃プロセスに関わる国防省と軍のトップたちしかいない。はたして、彼らに止められるのか。ここは、見方が分かれている。 たとえば、英BBCは2月28日、複数の識者に意見を聞いて「側近たちは支配者の側に立っている」「だれもプーチンの前に立ちはだかる用意はない。我々は危険な状態だ」という悲観的な声を報じた。 一方、昨年の早い段階から開戦の可能性を的確に報じていた米ワシントン・エグザミナーのトム・ローガン記者は2月28日、プーチン氏の側近たちは「核を発射する前に、プーチンを撃つだろう」と、BBCとは逆の見通しを伝えている。 私は、追い詰められたプーチン氏が「手負いの虎」のように「一か八かの賭けに出る可能性はある」とみる。そこから先は「神のみぞ知る」だ。だからこそ、バイデン大統領は思わず、草案になかった「彼を捕まえろ!」という台詞を最後に絶叫したのではないか。緊張は一段と高まっている。
長谷川 幸洋(ジャーナリスト)
日経平均一時800円安 ウクライナ原発攻撃報道で下落に拍車
東京証券取引所=和田大典撮影
4日午前の東京株式市場の日経平均株価は、ウクライナ南東部のザポロジエ原発がロシア軍に攻撃されているとの報道が伝わり、売り注文が拡大した。前日終値比の下げ幅は一時800円を超えた。午前10時時点は同比660円46銭安の2万5916円81銭。 【ロシア、ウクライナへ軍事侵攻 現地の様子】 3日のニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は、ロシアとウクライナの代表団の交渉が停戦合意に至らなかったことで先行き不透明感が広がり、下落して取引を終えた。4日の東京市場でもこの流れを引き継ぎ、さらに原発攻撃の一報で下落に拍車がかかった。【釣田祐喜】
米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は2日、ロシアによるウクライナ侵攻を巡り、中国がロシアに対し、侵攻開始を北京オリンピックが終わるまで待つよう要請していたと報じた。複数の米政府高官や欧州の情報筋からの情報として伝えた。
報道によると、西側諸国がまとめたインテリジェンス(機微情報)の報告の中で、ロシアのウクライナ侵攻計画を中国政府が事前に、ある程度知っていた可能性が指摘されている。
中国側はこの報道を「根拠のない推測で中国を中傷する目的のものだ」と否定している。
北京五輪は2月4~20日に開かれた。開幕前、ロシアのプーチン大統領は北京で中国の習近平国家主席と会談し結束をアピール。ロシアが24日にウクライナへの侵攻を始めて以降、中国政府はロシア政府に配慮する態度を取っており、今月2日にあった国連の緊急特別会合ではロシアへの非難決議案の投票を棄権した。
専門家の間では、中国政府がウクライナ在住の自国民を退避させ始めたのが、侵攻開始後だったことから、正確な侵攻のタイミングまでは把握していなかったとの見立てもある。【五十嵐朋子】