ウクライナ大統領、国会で演説 国連の改革呼び掛け
3月23日 AFP】ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー(Volodymyr Zelensky)大統領は23日、日本の国会でオンライン形式で演説した。ロシアのウクライナ侵攻をめぐり国連(UN)が機能しなかったと指摘し、改革の必要性を訴えるとともに、ロシアに対する圧力を強化するよう要請した。 国連安全保障理事会(UN Security Council)の常任理事国であるロシアは、ウクライナ侵攻後、自国に対する安保理の非難決議や制裁を事実上阻止しており、国連は身動きがとれない状態にある。 ゼレンスキー氏は、「国連も安保理も機能しなかった。改革が必要だ」との考えを示し、全世界の安全保障のため「侵略を止められるような予防的ツール」を開発しなければならないと訴えた。 日本の支援についてゼレンスキー氏は、「アジアで最初にロシアに対する圧力をかけたのが日本」だったと称賛し、「制裁の継続」を要請した。また、「ウクライナに対する侵略の津波を止めるために」ロシアとの貿易禁止措置を講じるよう求めた。 ゼレンスキー氏はさらに、ロシアがウクライナ国内の稼働中の原発やチェルノブイリ(Chernobyl)原発を攻撃したことを挙げ、2011年の福島第1原子力発電所事故の影響が残る日本の国会で、ウクライナが直面した危機について警鐘を鳴らした。 同氏は、「破壊された原子炉の上に(核廃棄物貯蔵)施設があり、そこをロシアが戦場に変えた」と述べ、ロシア軍によるチェルノブイリ原発占拠によって起こり得る環境への影響を評価するには何年もかかるだろうと警告した。 また、東京で1995年にオウム真理教(Aum Supreme Truth)による地下鉄サリン事件が起きたことを踏まえ、「サリンなどの化学兵器を使った攻撃も、ロシアが今準備していると報告を受けている」と語った。 ゼレンスキー氏はさらに多くの支援を得るために、世界中の議会で演説を行っている。同日中にフランス議会で、また翌24日には、北大西洋条約機構(NATO)の首脳会議でも演説を行う予定。
「既存の国際機関が機能しないので、新しいツールを作らなければ」…ウクライナ大統領国会演説要旨
本日は、ウクライナ大統領として史上初めて、直接皆様に話ができることを光栄に思う。両国間は8193キロ・メートルの距離があるが、自由を感じる気持ち、生きる意欲には差がない。(ロシアが侵攻を始めた)2月24日に実感した。日本がすぐ援助の手を差し伸べてくれた。心から感謝している。
チェルノブイリ原子力発電所で1986年に大きな事故があった。周囲30キロ・メートルはいまだに危険だが、原発は(ロシアの)支配下に置かれた。核物質の処理場をロシアが戦場に変えた。閉鎖された区域をウクライナへの攻撃準備のために使っている。ウクライナでの戦争が終わってから、環境被害の調査に何年もかかるだろう。ウクライナには現役の原発が4か所ある。全て非常に危険な状況だ。既にヨーロッパ最大のザポリージャ原発が攻撃を受けた。
公共施設が被害を受け、環境に対するリスクになっている。先日、スムイの化学工場でアンモニア漏れが発生した。サリンなどの化学兵器を使った攻撃もロシアが今、準備しているという報告を受けている。核兵器を使用された場合の世界の反応はどうなるか。今、世界中の話題になっている。
ウクライナは28日間にわたり、大規模な攻撃に対し国を守っている。1000発超のミサイルで数十の街が破壊されている。家族や隣人が殺され、彼らをきちんと葬ることさえできない。数千人が殺され、そのうち121人は子どもだ。多くのウクライナ人が住み慣れた家を出て避難している。国際機関も国連安全保障理事会も機能しなかった。改革が必要だ。
侵略者に対し非常に強い注意をしなければならない。平和を壊してはいけないという強いメッセージが必要だ。責任のある国家が一緒に平和を守るために努力しなければならない。
ウクライナでは地域の復興も考えなければならない。避難した人たちが、ふるさとに戻れるようにしなければならない。日本の皆さんもきっと、そういう気持ちが分かると思う。
また、既存の国際機関が機能しないので、(侵略を止める)新しいツールを作らなければいけない。日本のリーダーシップが、ツール開発のために大きな役割を果たせると思う。
ゼレンスキー大統領 国会でオンライン演説 日本を「アジアのリーダー」とし日本語で「アリガトウ」 過去には触れず
ウクライナのゼレンスキー大統領が23日、日本の国会でウクライナ語によるオンライン演説を行った。外国人首脳として、国会でオンライン演説を行うのは史上初めて。 【写真】ウクライナに40億円の救援金を調達した超絶セレブ夫妻 ゼレンスキー大統領は約12分間、演説を実施。日本の支援に感謝を述べ、最後には日本語で「アリガトウ」と語る場面もあった。 冒頭では、ウクライナと日本の約8000キロに及ぶ距離に触れた上で「日本とウクライナの間には自由を感じる気持ちの差はないです、生きる意欲の差もないです」と発言。「日本がすぐ援助の手をさしのべて下さいました。心から感謝いたします」「アジアで初めてロシアに圧力を掛けてくれました」と感謝の意を示した。 また、チェルノブイリ原発に触れ、ロシア軍の侵攻によって地中に埋められていたがれき等から放射性物質が空気中に放出されたと主張。さらに「ウクライナには現役の原子力発電所は4カ所、15の原子炉がありまして、全て危険な状況にあります」と苦境を訴えた。 日本については「アジアのリーダーになりました」と評価したゼレンスキー氏。一方でロシアに対しては「(面積が)最大の国が戦争を起こしましたが、能力は大きくない。道徳の面は最小の国です」と厳しく批判し、国連についても「安全保障理事会も機能しませんでした」と疑問を呈した。 ゼレンスキー大統領は16日にアメリカ連邦議会でオンライン演説を実施。その際に第2次世界大戦における日本軍の「真珠湾攻撃」に触れたことで物議を醸していた。この日の演説では、過去に触れる発言は行わなかった。 (よろず~ニュース編集部)
ゼレンスキー氏の演説予定に「スタンディングオベーション(約1分)」 フジ中継のテロップに総ツッコミ「違和感しかない」
ゼレンスキー大統領の国会演説(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は2022年3月23日18時から、日本の国会でオンライン演説を行った。 演説を中継したフジテレビのニュース番組では、演説の前後に「スタンディングオベーション」が組み込まれたスケジュールを紹介。これに対し、ネット上では「(スタンディングオベーションは)自然に発生するもんでしょ普通」「違和感しかない」などの指摘が相次いだ。 ■実際は「スケジュール」通り行われず ゼレンスキー大統領の演説はNHK総合のほか、日本テレビやTBS、テレビ朝日民放各局でも中継された。 演説が始まる直前、フジテレビのニュース番組「Live News イット!」では「演説生中継スケジュール」をテロップで紹介。衆院議長あいさつ(1~2分)→スタンディングオベーション(約1分)→ゼレンスキー大統領演説(10~15分)→スタンディングオベーション(約1分)→参院議長あいさつ(1~2分)の流れで中継が行われるとした。 しかし、ツイッター上ではスケジュールに組み込まれた「スタンディングオベーション」に「これいるか?」「自然に発生するもんでしょ普通」「違和感しかない」とツッコミが続出。ツイッターでは「スタンディングオベーション」がトレンド入りした。 実際の演説では、自民党・細田博之衆院議長の挨拶の後、議員たちはスタンディングオベーションではなく座りながら拍手でゼレンスキー大統領を迎えていた。ただ、ゼレンスキー大統領の演説が終わると、議員たちは起立の上で拍手をしていた。
ゼレンスキー大統領の国会演説に異を唱えた2人の日本人 外交評論家は「能天気というほかない」
ロシア軍がウクライナ侵攻を始めてから、まもなく1カ月が経つ。ウクライナ軍の善戦が伝えられる中、3月23日午後6時からゼレンスキー大統領の国会演説が実施されることになった。イギリス、カナダ、ドイツ、アメリカなどの議会でも実施された大統領の演説だが、日本の国会での演説には思わぬ反対意見が出た。 【写真12枚】前線で戦うウクライナ軍の女性兵士たち。笑顔で抱き合うグループ写真も
戦況にも影響
ゼレンスキー大統領が日本の国会での演説を打診していると報道されたのは、今月16日のことだった。過去に例のないオンライン演説とあって、スクリーンの設備など技術的な問題があったものの、早期の実施に向けて調整が進められた。 この演説が持つ意味について、杏林大学名誉教授で外交評論家の田久保忠衛氏は、 「ロシアとウクライナの停戦交渉はまとまらず、先行きが見えない戦いが続く中、ゼレンスキー大統領が世界の世論を味方に付けるための非常に重要な演説の場として、日本の国会を選びました。この演説は、戦況にも大きく影響するでしょう」 本会議場にはスクリーンの設備が無いため、演説は国会内の会議室で生中継で行われることとなった。
「国民は許さない」?
そうした中、17日、ゼレンスキー大統領の演説にTwitterで猛反対したのは、ジャーナリストの鳥越俊太郎氏である。 〈ウクライナ大統領が日本の国会でオンライン演説をするそうだ。紛争の一方の当事者の言い分を、国権の最高機関たる国会を使っていいのか? 国民の声も聞かずに! 中国・台湾紛争でも台湾総統の演説を国会で流すのか?〉 〈私はゼレンスキーに国会演説のチャンスを与えるのには反対する! どんなに美しい言葉を使っても所詮紛争の一方当事者だ。台湾有事では台湾総統に国会でスピーチさせるのか?〉 〈おいおい、ゼレンスキーはそんなことを言ったのかい? 紛争の当事者だ。何を言うか、分からんねぇ? 国民は許さない。たとえ野党まで賛成してもだ!! 〉 怒りが収まらないようで、20日には演説内容についてのアドバイスまで……。 〈アメリカ議会でremember Pearl Harborなら日本の国会ではremember Hiroshima & Nagasakiでしょう! それ以外にはない! そこを外したら奴は単なるアホだ!〉
泉代表の反対意見
立憲民主党の泉健太代表も16日にTwitterを更新した。 〈ゼレンスキー大統領による日本の国会での演説。他国指導者の国会演説は影響が大きいだけに、オンライン技術論で論ずるのは危険。私は日本の国民と国益を守りたい。だから国会演説の前に『首脳会談・共同声明』が絶対条件だ。演説内容もあくまで両国合意の範囲にすべき。それが当然だ。〉 演説内容について事前に合意を形成すべきだとする泉氏の主張については、 「誰かと打ち合わせてのんびりやるようなことではありません。普通の国が平時に国会で演説したいと言ってるのとは、わけが違います」(田久保教授) 党内からも批判の声が上がったことを受け、泉氏は、演説自体に反対したわけではないと釈明。しかし、事前の調整が必要という主張を崩さなかった。
死に物狂いで世界に訴えたい
これらの反対意見について田久保教授は、 「鳥越氏も泉代表も能天気と言わざるを得ません。ゼレンスキー大統領にとっては、国の興廃がかる状況で、死に物狂いになって世界に訴えたいことがあるわけです」 さらに、 「既にアメリカや欧州は一致団結し、ロシアへの経済制裁を強めていますが、岸田首相はG7のなりゆきを注視するなどと悠長なことを言っており、世界の潮流から取り残されている。どんなキーワードを使うかといった小手先のことではなく、この重要な局面でゼレンスキー大統領が自分の言葉で世界に向けてメッセージを発信すること自体の意味の方が大きい。ウクライナの危機感が、ようやく日本にも伝わるのではないでしょうか」(同) デイリー新潮編集部