【ソウル=時吉達也】韓国・ソウルを代表する繁華街の一つ、梨泰院(イテウォン)を包んだハロウィンの熱狂が、悲鳴に一変した。前方で参加者が倒れた後も群集が前進を続け、150人以上が圧死した29日深夜の雑踏事故。新型コロナウイルスの流行に伴う外出規制が3年ぶりに解除され10万人以上が押し寄せた現場で、行政当局が通行規制などを十分に想定していなかった実態も浮かび上がっている。
狭い路地でドミノ状態に
惨事が発生したのは、繁華街と地下鉄駅入り口を結ぶ、ホテル脇の路地。幅3・2メートルと狭く、傾斜10%の下り坂が40メートル続く。同日午後10時ごろ、駅前を歩いていた女子学生のチョン・ガウンさん(18)は、通行人で埋めつくされた路地の先頭で、4、5人が転倒するのを目撃した。「ゾンビなどにふんした人々が路地で身動きできず、うめき声をあげていた」。チョンさんは恐怖を感じ梨泰院を離れたが、直後から被害は急拡大していった。
聯合ニュースなどによると、前方で人が倒れた後も人波は前に進み続け、「5~6層に積み重なっていった」(目撃者)。救急隊員が到着し、心肺停止状態の女性らの救助活動にあたる間、事態を把握していない坂の上側では、先に進もうとする動きが続いた。
「ドミノのように倒された。下で(人々が)倒れたことを知らないのか、(後ろから)ずっと押していた」。現場を逃れた参加者はSNS(交流サイト)への書き込みで「みんながおえつを漏らしていて、私もついに死ぬのかと思った」と振り返った。
警察関係者は「路面に酒などがまかれ、滑りやすい状態になっていた」と話す。現場には救急車両140台以上が駆け付けたが、群衆の混乱が広がる中で病院への搬送作業は難航。イベント参加者が救急隊員に並び、意識を失った友人らの心臓マッサージを行う姿もあった。
前日にも転倒事故の情報
梨泰院は在韓米軍基地に近かったため、外国人が多く訪れる繁華街として発展した。世界的な人気ドラマ「梨泰院クラス」でも主人公がハロウィンシーズンに今回の事故現場付近を歩く場面が登場し、特にこの時期には国内外から観光客が集まる。コロナ対策で午後10時に店舗営業が終了となった昨年も参加者の密集が問題視されたが、規制が解除された今回は、はるかに多くの参加者が各地から訪れた。
イベント初日の28日にも、人波に押されて参加者が転倒する事故の目撃情報がネット上に掲載されたが、行政当局による通行規制の強化などは議論されなかったという。約200人態勢で現場周辺に配置された警察官は、主に麻薬の使用や性犯罪の監視・捜査を担当。地元自治体が事前に公表した安全対策でも、コロナ関連が中心で交通規制に関する記載はなかった。
事故想定が軽視された背景について、韓国の専門家は「行政の災害対策が高齢者中心に策定されており、若者文化に対する関心が不十分だった」などと指摘している。
【韓国梨泰院圧死事故】「押せ! 力比べのように前後から圧力」…有名ユーチューバーの証言
梨泰院駅1番出口方向から見た事故前の人波
購読者60万人の有名ユーチューバーが「梨泰院(イ・テウォン)ハロウィン圧死惨事」現場の目撃談を伝えた。
ユーチューバーのソン・ヨジョンは30日午前、自身のインスタグラムで前日夜にソウル龍山区(ヨンサング)梨泰院で目撃した状況を伝えた。
当時ソン・ヨジョンは「あまりにも混み合っているので行かない方よい。圧死して騒ぎが生じた。さらなる事故なければいい。私は1時間前から家に帰ろうとしているが帰れない状況」とし、事故現場の写真を共有した。この写真はSNSを通じて広まった。 続いて事態が深刻化すると「実際、まだショックで眠れない。現場にいただけに衝撃が大きい。私も呼吸が苦しくなって前が白くなった時その短い瞬間が走馬灯のように過ぎていくが、このまま押されれば転倒して下敷きになって死ぬか、息が詰まって死ぬかという考えになった」と当時の状況を明らかにした。
ソン・ヨジョンは「右側通行で(前後の人たちが)循環している時であり、深刻になる前だったが、一歩進むのが容易でなかった」とし「自分が行くのではなく押されて流される感じだった」と説明した。 続いて「当時、後ろから『押せ!』という声があったが、ある瞬間から循環しなくなり、突然(前後の人たちが)お互い力を加えて押した」とし「力比べのような非常に強い力が加わり、前後からの圧力で目の前が白くなっていった」と明らかにした。 さらに「一緒にいた友人が私より力が強い人だったので私をつかんでいてくれていた」とし「友人がいなければ私は気絶して倒れていたかもしれない」と伝えた。 ソン・ヨジョンは「(後に)大勢の人たちの間から抜け出したところ、凄まじい光景があった。私が目撃した時にはすでに多くの人が地面に倒れていた状態だったが、当初はどういうことか分からなかった。メイン通りを通り過ぎるまで大騒ぎになっていて状況把握ができなかった」と説明した。 また「もともとは報道された事故地点の方の下り坂を向かっていたが…いろいろなことが頭を巡って眠れない。運よく抜け出せた自分が見たものは、医療スタッフが少なく患者は多いため、一般の人が助けている状態だった。(倒れている人たちは)すでに青白くなっていた」とし「災難映画のように人々が絶叫するのが感じられるほどの状況だった」と伝えた。 ソン・ヨジョンは「事故当日の午前1時から行って撮影をしたが、多くの人を見て、ファンの方々にも会った」とし「みんなの幸せそうだった姿が忘れられず眠れない」とコメントした。
韓国人准教授 雑踏死亡事故に「BTSの5万人ライブの時ですら…どうして今年は200人」警備体制に疑問
東京・赤坂のTBS社屋
一橋大のクォン・ヨンソク法学研究科准教授が31日、TBS系「ゴゴスマ~GO GO!smile~」(月~金曜後1・55)にリモート出演。韓国の首都ソウルの繁華街・梨泰院の路地で29日夜、ハロウィーンを前に集まった多数の若者ら150人以上が死亡した事故について言及した。 死傷者の大半は10~20代で日本政府関係者によると、日本人女性2人の死亡も確認された。現場は幅約3メートル前後の狭い坂道で、下に向かって次々と転倒。消防は多くが圧死したとみている。 クォン准教授は「どうも現地の報道では安全対策が不在だったということですし、ソウル市長は欧州に外遊中だった。消防(のトップ)も1週間前に政府から更迭されてる状況で空席だった」と指摘。「責任者、トップが不在のまま、きちんとした対策が講じられない中で、こういう惨事が起きましたので、遺族の方、ご本人含めてちゃんとした説明、再発防止対策をしないといけないですね」と述べた。 そして「人数は以前の(ハロウィーンイベントの)方がもっと多いという話ですよね。以前は警備をちゃんとやっていたのに、どうして、今年は久しぶりに人々がノーマスクでもっと興奮状態になっているだろうと。また、海外からもたくさんいらっしゃると分かっていたにもかかわらず、以前よりもさらに安全対策を徹底すべきだったのが、以前ほどできなかった。全くといっていいほどできなかった」と批判した。 「(今回は警備の人数が)200人て規模ですから。この前のBTSの5万人ぐらいのライブの時ですら警察が1300人いて、安全要因が2700人いたということですし、昨年のコロナの状況でもハロウィーンでも4600人の警察と公務員が現地にいたんですね」と過去の大規模イベントの警備例を挙げ、「それが、どうして今年は200人だけでできるのか」と手薄な警備体制に疑問を投げかけた。