パルデンの会

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約300年続いた政教一致体制が 中国への併合で破壊される チベットはなぜ中国からの激しい弾圧に晒され続けるのか

チベットはなぜ中国からの激しい弾圧に晒され続けるのか

ラサ デプン寺の仏像ラサ デプン寺の仏像 Photo:PIXTA

文庫新刊書『世界の宗教地図 わかる!読み方』からの一部抜粋で、宗教と世界情勢の密接な関係を、わかりやすく紹介していく。今回は、チベットが中国から厳しい弾圧を受けている背景、さらには共産主義国家による宗教弾圧の理由について解説する。世界の紛争地図 わかる!読み方本コラムの元本『世界の宗教地図 わかる!読み方』

約300年続いた政教一致体制が
中国への併合で破壊される

 チベット仏教は、密教の要素が強い仏教である。7世紀頃からインド系、ネパール系、中国系の仏教が伝来し、チベット民間信仰と混交して成立したといわれる。

 現在、中国の一部となっているチベットではさまざまな時代を経て、ダライ・ラマによる政教一致体制が約300年続いた。しかし、その宗教国家は、第二次世界大戦後に建てられた中華人民共和国によって破壊されてしまう。人民解放軍の侵攻によりチベットは中国に併合され、多くの寺院が破壊され、多数の人々が殺害されたのだ。

 チベット人たちは高度な自治を求める運動を続け、大規模な騒乱にも発展したが、それにより中国政府による弾圧がさらに強まり、長い年月をかけて築かれてきた独自の社会、文化は徹底的に破壊された。

 

ダライ・ラマ14世
後継者選びに中国が関与か


 このとき、チベットの最高指導者ダライ・ラマ14世はインドに亡命し、同国北部のダラムサラで亡命政府を樹立した。そしてチベット問題の平和的解決を世界に訴える活動を続け、ノーベル平和賞を受賞したことでも知られている。

 チベット仏教の大きな特徴として、「転生活仏」がある。活仏である高僧は、すべての人が救われるまで輪廻転生を続けると信じられているのだ。

 ダライ・ラマの死後に転生者は探し出され、認定を受けることになるが、中国政府はダライ・ラマの後継選びにも関与したと疑われている。

 事のはじまりは序列2位でダライ・ラマの転生者を決定する権限のあるパンチェン・ラマ10世の急死だった。このときダライ・ラマ14世は、ある少年を11世と認定したが、中国政府は別の少年を公認したと発表した。しかも、ダライ・ラマ14世側が認定した少年はその後、両親とともに消息不明となり、30年近く音沙汰ないままになっているのだ。

 その間も中国政府によるチベット弾圧は進み、チベット人の信仰の自由は奪われ、抵抗の意志を示すために、焼身自殺する僧侶が続出した時期もある。近年もダライ・ラマ14世の写真をもっているだけでも逮捕され、収容所での虐殺が続いているといわれている。

 子どもたちはチベット語での教育は受けられず、学校教育はすべて中国語。破壊をまぬかれた宗教施設はいまや観光スポットと化している。

 20人近くが死亡した2008年の騒乱以降、チベットの中心都市ラサでは大規模な抗議運動は起こっていない。しかし、チベット人は中国政府の宗教的弾圧に不満をもち続けている。

中国政府に弾圧されるチベット
 

共産主義国ではなぜ
「宗教」が弾圧されるのか?

 仏教の本場は中国――。そんな印象をもっている人は多いのではないだろうか。

 日本に仏教が伝播したのは538年、中国から朝鮮半島を経て日本に伝えられた。さらに、遣隋使や遣唐使に同行した留学僧が中国で仏教を学び、日本にもち帰った歴史もある。

 しかしもとより仏教発祥の地は中国ではない。現在のインドで生まれた釈迦族の王子ゴータマ・シッダールタが出家し、悟りを開いてブッダとなり、教えを広めたものだ。中国でも信徒を増やし、そこから朝鮮半島や日本へ伝わっていった。

 さまざまな統計があるが、現代の中国国内に仏教徒は少ない。その割合は約10%とも20%ともいわれている。中国は仏教の本場ではないのだ。

 現在の中国では仏教徒のみならず、特定の宗教を信仰する割合は限られている。その理由は共産主義にほかならない。

「宗教は毒」
と切り捨てた毛沢東

 マルクス共産主義思想は宗教に否定的な立場をとったことで知られる。マルクスの論文『ヘーゲル法哲学批判・序説』では、「宗教上の不幸は、ひとつには現実の不幸の表現であり、ひとつには現実の不幸に対する抗議である。宗教は悩める者のため息であり、心なき世界の心情であるとともに、精神なき状態の精神である。それは民衆のアヘンである」と述べている。つまり宗教は、民衆にあきらめと慰めを説き、現実の不幸を改革するために立ち上がることを妨げるというのである。

中華人民共和国を建てた毛沢東は、マルクスの影響から「宗教は毒である」と言ったとされる。そこから中国では宗教は統制すべき対象となり、1966~77年の文化大革命ではさらに徹底した宗教弾圧が断行されたのである。仏教徒をはじめ、中国発祥の儒教道教の信奉者も激しく迫害され、多くの命が失われた。寺院などの宗教施設もことごとく破壊された。

 こうして中国の庶民がもっていた信仰心は、国家権力によって踏みつけられた。代わりに信ずるべきものは共産主義であり、中国政府だと信じ込まされたのである。

 共産主義国家の反宗教政策は、ソ連でも進められた。当時、最高指導者の座についていたスターリンは、ロシア正教会のハリストス大聖堂を爆破し、跡地を温水プールにした。

 スターリンの死後、実権を握ったフルシチョフはさらに激しい宗教弾圧を行い、ロシア正教会を閉鎖に追い込むため、聖職者を軒並み検挙していった。ソ連時代に殺害された聖職者は、約20万人にも上るといわれている。共産主義体制では、信教の自由は保障されないのである。

 

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