台湾有事リスクの高まりを踏まえ、日米の民間シンクタンクが2022年から23年にかけて相次ぎ中国が台湾に武力攻撃を仕掛ける想定で机上演習をした。いずれも中国は制圧に失敗するものの、自衛隊や米軍に甚大な被害が出るとの結果が出た。米有利だった戦力差が縮まっている状況も浮き彫りになった。
笹川平和財団が23年1月18〜21日に実施した「台湾海峡危機に関する机上演習」には元自衛官や日米の学者・研究者ら30人ほどが参加した。日本、米国、台湾、中国の4陣営に分かれてシミュレーションした。
演習は26年に中国軍が台湾上陸を試みることを起点とした。
中国軍は「台湾戦区司令部」を設置して航空戦力と潜水艦、水上艦艇のすべての能力を投入できる体制を敷いた。米軍も原子力空母や最新鋭の戦闘機を台湾周辺に投入し中国と対峙した。
日本は時の首相が「国家非常事態」を宣言し、米軍が日本国内の基地から戦闘行為に出ることに同意。在日米軍基地だけでなく、一部の自衛隊基地のほか沖縄県や九州などの民間空港の軍事利用も認める展開となった。
現実に台湾有事となった場合、日本が直接、武力攻撃を受けていなくても米国への集団的自衛権を発動して軍事作戦に加わる可能性がある。
演習では中国が米軍の利用する自衛隊基地に攻撃を計画したことが分かったため、日本が自国に危険が及ぶと判断する「存立危機事態」に認定した。海上自衛隊の護衛艦や航空自衛隊のF35戦闘機を使って中国軍へのミサイル攻撃などに加わった。
シミュレーション上は中国が劣勢となり、戦闘は2週間あまりで収束する見立てとなった。中国にとって軍への軍事物資の供給が途絶し、最終的に台湾上空の制空権を日米などに握られたことが決定打になった。
中国側の被害として空母2隻を含む156隻の艦船、戦闘機168機、大型輸送機48機などを失うと試算した。人的被害は4万人にのぼると見積もった。
中国による台湾の軍事制圧は避けられたが、自衛隊、米軍、台湾軍ともに甚大な被害が出ることが分かった。
自衛隊は護衛艦など艦船15隻、F2やF35など戦闘機144機を喪失。日本の基地も中国からの攻撃対象となるため隊員2500人が死傷、民間人の死傷者も数百から千人以上に及ぶと推定した。
米戦略国際問題研究所(CSIS)も今年1月、26年の台湾有事を想定した22年実施の机上演習の概要を発表した。
CSISは24通りのシナリオを試した。ほとんどの場合で中国の台湾侵攻は失敗したものの日米も深刻な被害を受ける。日本は100機以上の自衛隊機と26隻の艦船を失う結果となった。
日米いずれの演習も現時点で各国が保有する軍事装備の能力や量を前提としており、実際に26年に台湾有事となったときは、今回のシミュレーション通りに事態が展開するとは限らない。
中国は急速に軍事力を拡大しており、25年ごろに西太平洋で米中の軍事バランスで中国が優位になるとの分析がある。特に中国が急いでいるのは核戦力の増強だ。
22年版防衛白書によると、核弾頭の保有数は米国が3800発、中国が350発と差はある。
その運搬手段となる弾道ミサイルの数となると、中国は本土から日本などを狙える中距離弾道ミサイルや準中距離弾道ミサイルを278基保有する。米国は中距離核戦力(INF)全廃条約があったため持っていない。
笹川平和財団の渡部恒雄上席研究員は「いまのうちに大規模な損害が起こると想定したあらゆる準備をしなければいけない」と話す。
中国は情報戦や宇宙、サイバーの能力強化を進めている。渡部氏は「演習では中国は米国との戦争を極力避けようとした。物理的な軍事衝突なしに台湾を統一しようとするおそれもある」とも指摘した。