パルデンの会

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88歳となったチベット仏教の最高指導者であるダライ・ラマ14世。後継者選びのときが近づいているが、その選定にあたり、今後チベット亡命政府と中国政府との間で対立が激化する可能性がある

中国政府がダライ・ラマの「後継者選び」に口出しした場合に起こりうる「深刻な危機」

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クーリエ・ジャポン

 

チベット仏教の最高指導者であるダライ・ラマ14世。1959年に中国共産党によるチベット弾圧から逃れ、インドに亡命した彼も88歳となった。その後継者選びのときが近づいているが、その選定にあたり、今後チベット亡命政府と中国政府との間で対立が激化する可能性がある。また、それによって国際的な摩擦も悪化しかねない。 【画像で見る】即位したばかりの若きダライ・ラマ14世 今後どんな問題が起きうるのか、英紙「フィナンシャル・タイムズ」が徹底解説する。

「輪廻転生」するダライ・ラマ

2023年7月のある雨の降る木曜日の朝、インド北部ダラムサラのナムギャル僧院には何千人もの人々が集まった。チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世の88歳の誕生日を祝うためだ。 大勢の観衆を前に、ダライ・ラマは「私は今後何十年も人道に尽くすつもりです」と述べた。まだ歯を一本も失っておらず、何でも食べられると冗談めかし、「皆さんも私の長寿を祈ってください」と訴えた。 しかし、その裏では、チベット亡命政府と中国指導部の双方が、すでにダライ・ラマ逝去に向けた準備を進めている。その死は、国際政治における極めて大きな対立の火種となる可能性がある。 各代のダライ・ラマが亡くなると、その生まれ変わりを「発見」し、後継者に任命するという方法が取られてきた。14世の死後、その選定をどちらがやるのか、今後争いが起きる可能性がある。また、この対立は、インドや米国も巻き込むかもしれない。 亡命チベット社会の政治指導者たちは、後継者選定プロセスは宗教的な枠組みを持ち、すべてダライ・ラマの統制下にあると言う。特定の非常に熟達したラマ(師僧)は輪廻転生し、「化身」に生まれ変わると信じられている。 「生まれ変わるのはダライ・ラマ法王だからです」と、インドに本部を置くチベット亡命政府のシキョン(政治最高指導者)であるペンパ・ツェリン首相は述べる。「ですので、転生者を探すのはご本人からそう任された人々や機関です。どこで生まれ変わるのか、法王が明確なサインを残すかもしれません」 同時に、亡命チベット政府はダライ・ラマ逝去に伴う「ロジスティクス」やその他の手配の準備を始めているそうだ。もし彼がダラムサラで亡くなった場合、国際社会とどうコミュニケーションをとるか、また、同地を訪れる大勢の外国人をどのように受け入れるか、などだ。 「世界中の他の政府と同様に、行政としていつそのような事態が起こっても対応できるよう、プロトコルを作成する必要があります」とツェリンは話す。

チベット支配」を進める中国政府

一方、中国は、かつて清朝最後の皇帝がそうであったように、この人事の最終決定権は中国にあると主張している。亡命チベット人や海外の専門家によると、中国も独自に選考プロセスの準備を進めているという。 それは、1995年、チベット仏教第二の高僧パンチェン・ラマを中国が任命したときと似たものになるかもしれない。亡命者たちによると、中国の任命したラマはチベット人のほとんどが認めていない。 この後継者問題は、中国とインドの間の新たな対立の火種になりうる。ダライ・ラマが1959年に亡命したインドは、中国と国境をめぐって長い間対立してきた。 また、米中関係もさらに緊張するだろう。2020年に超党派の支持を得て可決された「チベット政策支援法」は、ダライ・ラマ14世を含むチベットの指導者選出に干渉する中国当局者に制裁を科すものだ。2022年12月、米国政府は2人の中国の役人に対し、チベットにおける「深刻な人権侵害」の疑いで制裁を科した。 中国共産党にとって、スムーズに後継者を選定することは極めて重要である。約700万人のチベット人を政治的に支配するだけでなく、最も不安定な国境の安定を確保するためだ。 チベット自治区少数民族居住地区として、中国の法律下で名目上は教育や言語などの分野における独立が保証されている。中国政府は同地域に多大な発展と観光業をもたらしたと主張してきた。しかし、実際には非常に厳しい支配があったと批判されている。1980年代には戒厳令が敷かれ、厳しい検閲、宗教指導の統制、反体制派の逮捕が続いた。 中国共産党は、1950年以降、それまで独立国だったチベットを経済的後進国と封建的農奴制から「解放」したと語ってきた。もしチベットの後継者選定プロセスが面倒な問題になったり、ダライ・ラマ15世が共産党の支持者でなかったりすれば、そのような歴史観の維持は難しいだろう。 「ダライ・ラマが2人選ばれた場合、チベットの人々がどう反応するかにかかっています。共産党は最終的にチベット人を説得できるのでしょうか。彼らはこれまであまりチベットの人々に相談してきませんでした」と上海ニューヨーク大学のタンセン・セーン歴史学教授は指摘する。

「化身」を探す伝統

ダライ・ラマ14世は、13世の死から4年後の1937年、現在の中国青海省にあるタクツァーの農村で発見された。 輪生したラマがどこにいるかは、高僧が見る幻影など、儀式によって大まかに特定される。亡くなったラマの信奉者たちは特定の子供たちを訪ね、その子が彼らに引き寄せられているか、あるいは故人の持ち物に詳しいかを確認する。 「通常、ラマが亡くなると、その信者たちが捜索隊を結成し、さまざまな場所に行ってその年頃の子供を探します。そして、その家族に何か特別なこと、変わったことがなかったかどうかなどを尋ねるのです」。そう説明するのは、ダラムサラにあるチベット図書資料館の館長を務める僧侶のラクドルだ。 ダライ・ラマ13世が他界した後、当時はまだ独立していたチベット・ラサの宗教指導者たちは3つの捜索隊を派遣した。そのうちの1隊は、当時のチベット摂政であったレティン・リンポチェが聖なる湖ラモイ・ラツォ湖で見た幻影に従い、チベット高原の北東部のアムドの奥深くまで行った。 ラモ・トンドゥプという子供について聞いた一行は、彼の家族の家を訪ねた。すると、当時2歳の子が、隊長の高僧が首から下げていた数珠を引っ張った。そして、仏教名で彼を正しく認識したことに、一行は感銘を受けた。 ダライ・ラマの伝記作家であるアレクサンダー・ノーマンの記述によると、ラモ・トンドゥプを再訪した際、彼は「喜びの表情を浮かべていた」という。そして彼は、数珠、杖、長い布、太鼓など、亡き13世の所有物を正確に識別した。

ダライ・ラマ制度」の再考

チベットからの亡命者たちは、14世の死後も同様の伝統的慣習に従うと示唆してきた。 14世自身は、自分の転生について中国が何も言うべきではないと明言している。2011年に発表されたダライ・ラマによる声明では、「私が90歳ぐらいになった時に、高僧やチベット人らと協議し、制度を続けるかどうか再考したい」と述べられていた。 このとき、生前にその称号と役割を引き継ぐ存在が現れる可能性もあると示唆した。また、前世と後世という考えを明確に否定する中国共産党が「輪廻転生のシステム、特にダライ・ラマパンチェン・ラマの輪廻転生に干渉する」ことは「特に不適切」だとも述べた。 彼は、「自由でない」チベットには転生しないと述べている。ダライ・ラマはインド北部のラダックなどの仏教コミュニティでほとんどの時間を過ごしており、そこから化身が生まれるのではないかとの憶測を呼んでいる。(続く) 続編では、ダライ・ラマの後継者選びが国際関係にどう影響を与えるのかについて解説。同時にこのプロセスは中国とチベットの和解につながる可能性もあるとする見方も紹介する。

John Reed and Joe Leahy