言葉だけを信じるな! 中身をよく見ろ!
政府が福島第1原発の冷温停止状態を16日、宣言した。「事故そのものは収束に至った」と野田佳彦首相。だが地元は「関係ない」と冷ややかだ。住民らが何よりも求めているのは「安全な帰宅」。今後、検討が始まる避難区域の見直しにも、「本当に帰れる状態になるのか」と、期待と不安が錯綜(さくそう)する。
▼「帰りたい」
「帰りたい。帰りたいよお」。福島県浪江町から二本松市の仮設住宅に避難している無職、菊地ナミ子さん(74)は話すうちに涙が止まらなくなった。
避難区域の見直し作業では、放射性物質の自然減衰や除染の効果を慎重に見極めることになるが、長期間にわたり人が住めない地域も出るとみられる。仮に帰宅が現実味を帯びてきたとしても、地震で損壊した道路や学校、水道などのインフラ整備も大きな課題となる。
菊地さんは、「原発がどうなったって関係ない。帰りたいけど、どうせ帰れない」と、帰郷への思いに揺れる胸の内を語った。
年間被曝(ひばく)量が現状でも20ミリシーベルト未満の地域が大半と、落ち着きつつある楢葉町出身の無職、佐竹和夫さん(73)は「除染が終わるのはいつのことになるのか。3年くらいしたら帰れるのかな」と話す。だが、政府の発表をにわかには信じられない。「宣言は嘘で、放射能はまだ漏れてるんじゃないか?」。避難先の会津若松市は、楢葉町より雪が多い。「遠くに来てしまったなあ」
やはり楢葉町から会津若松市の仮設住宅に避難している主婦、坂本美香子さん(37)は「放射能もあるし、子供の学校もこっちに慣れたから帰れない」と話す。避難区域の指定が解除されたとしても避難を続けるつもりだ。
▼不信の言葉
地元行政側も、これまでの政府の対応に振り回されてきただけに、不信の言葉が出る。
「本当に収束したのか。大気に放射性物質は出ていないのか。余震や津波が来たときの構えはどうなっているのか」。浪江町の馬場有(たもつ)町長は宣言に対して、立て続けに疑問を投げかけた。
町長は、最悪、帰還実現が困難となった場合の対応も考え始めている。町外に住民や企業を集める集積地を確保して、そこで生活をするという。
大熊町の渡辺利綱町長は「放射性物質の放出も抑制されて安定が続いている」と事態が落ち着いてきたことに安堵(あんど)する。その上で「『事故収束』とは、冷温停止のことではなくて、町民が戻って安心して生活できる状態のこと。今回の宣言は一里塚にすぎない。除染、廃炉などこれからが大事だ」と話した。
避難区域の見直しについては「戻るか戻らないかで、町が分断される不安が現実に起きてくる」と新たな課題を指摘した。
福島県の佐藤雄平知事は冷温停止宣言について、「故郷帰還の思いが実現する新たな一歩と期待しているが、事故収束に向けた道のりは長く、険しい。完全収束の道半ば」と厳しい表情。「県民は汚染水などの放射性廃棄物が増え続けることに不安を感じている」とも指摘した。福島県では、今後の具体的な工程の情報開示と、避難区域の設定見直しについての方針を示すよう国に求めた。
CNNからの転載
2011.12.16 Fri posted at: 18:00 JST
(CNN) 日本政府は16日、東京電力福島第一原子力発電所の事故について、事故の収束に向けた工程表ステップ2(冷温停止状態の達成)終了を確認したとして、ステップ2は完了となると発表した。これは原子炉が一定期間、100度以下の温度を保っている状態を示す。
冷温停止の宣言は1つの節目ではあるが、チェルノブイリ以来最悪となった原発事故の事後処理には、恐らく数十年という年月を要すると専門家は予想する。東京電力の西沢俊夫社長はCNNの取材に対し、まだ終わったというには程遠く、これから先も長期にわたる作業が続くと語った。
米国で原発の運営にかかわった専門家のマイケル・フリードランダー氏は「原子炉が現在のような状態にある中で冷温停止を宣言するのは、現状に対して正当とは言えない。現在の状態が6月に比べて安全になったわけではない」と指摘する。
同氏の予想では、来年には燃料棒を取り出す作業に着手できるかもしれないが、原子炉格納容器に到達できるようになるまでは最大で10年はかかる見通しだ。
1979年にメルトダウン事故を起こした米スリーマイル島原発で事故処理に当たったジャック・デバイン氏は福島第1原発について、今後も危険を伴う集中的な作業を要するが、冷温停止によって政府にとっての懸念材料は1つ減ると指摘。原子炉の冷却のためにこれまでのような大量の水を使う必要がなくなれば、汚染された冷却水をめぐる不安も解消されると解説する。ただし「劇的な違いは生じないだろう。ただ徐々に変化が積み重なり、事が容易になっていくだろう」と話している。