「フライデー」2012年11月30日・12月7日号より
M7以上 首都直下型地震で、東京はこうなる
徹底シミュレーション 断層隆起、地割れ、火災旋風、水没、液状化…その時、何が起こるのか
そこかしこで火の手が上がり、黒煙は傾いたスカイツリーのはるか上空まで達する。周囲は水没し、巨大な地割れに海水が滝のように流れ落ちる---。まさに地獄絵図だが、これは絵空事ではない。多くの専門家が「明日にでも起こる」と指摘する、来るべき大地震の〝本当の被害〟を報告する。
首都直下型地震の〝Xデー〟は確実に迫っている
昨年9月、東京大学地震研究所などの研究チームが、M7級の首都圏直下型地震が起きる確率を「30年以内に98%」と発表し、日本中を震撼させた。その後、「30年以内に70%」と修正されたが、リスクが高レベルであることに変わりはない。東海大学地震予知研究センター長の長尾年恭教授が言う。
「貞観地震発生までの50年間ほど、長野県から東北にかけて地震が頻発した。西日本の内陸でも地震が起こり、貞観地震の9年後の878年に、関東で直下型の大地震が起きた。今回も日本海中部や新潟中越などのM7クラスの地震がいくつも起こった後、東日本大震災が起きた。西日本でも阪神淡路大震災以降、地震が増えている。現在の状況が9世紀と似ていることは、複数の研究者が指摘しています。首都圏は、とりわけストレスが溜まっているエリアと言えるでしょう」
ビルが、首都高が倒壊
M7級の首都直下型地震が起こった場合、一体どのような被害状況になるのか。まず、建物の被害。都内で震度5強を観測した東日本大震災では、建物に大きな被害は出なかった。長い周期で揺れを起こす「長周期地震動」だったためで、直下型では条件が全く違う。災害危機管理アドバイザー・和田隆昌氏が言う。
「直下型で震源に近い震度7の『短周期地震動』は、建物に対して非常に大きな衝撃を与えます。耐震性や建築基準は新しくなっていますが、都内にも古い集合住宅や木造住宅がたくさん残っている。例えば赤坂は'81年以前の集合住宅やビル、マンションが半分を占めている。阪神淡路大震災では、木造家屋だけでなく大きなビルも壊滅的な被害を受けましたが、都内でもそういう状況が起こりえます」
「震度6強でまともに歩けない状態になりますが、それでも物が落ちてこないような場所に移動することが重要です。阪神淡路の時は、家の中のものが壁や窓を突き破って飛び出したのです。四方八方から重量の大きい物体が飛んでくるため、多くの圧死者が出るでしょう。新しい耐震基準でつくられた建造物の中であっても決して安全ではない」(和田氏)
東京は〝災害複合体〟によって壊滅する
「火災旋風とは、火災の炎と旋回流が何らかの事情で相互作用して起こる、炎の竜巻のような現象。旋回流というのは、空気が渦を巻くような流れです。ビルが密集している所では気流が起こりやすく、渦が巻きやすい。火災旋風が起こると、燃える速さ、勢いも増します。大きなものは直径数十mになるかもしれない」
「'64年の新潟地震以前に埋め立てた場所は、液状化対策を何も講じていない所が多い。そういう場所が湾内のいたるところにある。長周期地震動で揺れると、タンクの中の貯蔵物が東京湾に流れ出る恐れがある。金属と金属が触れて火花が出て、引火する可能性もある。湾内にある約600基の浮き屋根式タンクから石油製品が流れ出せば、東京湾は閉鎖される」(早稲田大学理工学部教授・濱田政則氏)
警戒すべき3つの活断層
「立川断層が3・11の影響で動きやすくなっている。東京の西部の立川、国立、府中などが大きく揺れる可能性があります。断層をはさんで、北東側がはね上がり隆起する可能性が高い。あと、心配なのは綾瀬川断層。高崎から草加、川口、行徳まで100km以上続く活断層がズレを起こすと、東京の下町や埼玉の住宅地でも、地盤の弱いところが大きく揺れ、被害が集中する。三浦半島の活断層群も3・11の後、動きが活発になったと言われている。この3つが首都圏で要注意です」
「外から来る津波は、南海トラフや相模トラフなどでプレート境界型の地震が起こった後に、富津岬をかすめて東京湾の中に入ってくる。横浜、川崎で4m程度、東京湾奥で2.5~3.0m程度になると考えられる。東京湾北部地震の場合は、津波は1m未満と高くはならないものの、震度が大きいため高潮防波堤が壊れてしまう可能性がある。そうなると、江東区や江戸川区の海抜ゼロメートル地帯は浸水する。今年10月末、ハリケーンに襲われたNYのように都市機能は麻痺します」