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モスクワで「対中警戒感」が広がる理由 尖閣問題を!

こういう見方もしなければ!!

新潮社foresightより転載

http://www.fsight.jp/11882 

モスクワで「対中警戒感」が広がる理由

執筆者:ロシアの部屋

 ロシアのプーチン大統領は今年2月に発表した外交論文で、「中国について語ることはファッショナブルだ」と書いたが、モスクワのロシア人識者の話題も「中国」が最大の関心事だった。尖閣諸島をめぐる日中の領有権争いもロシアでは比較的大きく報道され、関心の強さが分かる。

 9月下旬、日露学術報道専門家会議代表団に参加して1週間モスクワに滞在した際、会見したロシア外務省高官は「尖閣をめぐる展開から目を離せない。日中という隣国が対立を解消し、東アジア情勢の不安定化を招かないよう望む」と述べ、ロシアは中立姿勢を維持することを強調した。ロシアのテレビは中国側映像を多用することから、やや中国寄りの印象を受けたが、ロシア政府はどちらの側にも立たない路線だ。8月にモスクワで開かれた中露安全保障会議で、戴秉国・国務委員(外交担当)が北方領土尖閣での共同歩調を持ち掛けたが、ロシアは回答しなかったという。

 中国専門家のバジャーノフ外交アカデミー所長は、尖閣問題で「日本の文献を読めば、日本の主張は正しいと思うし、中国の文書を読めば、中国の主張が正しいと思ってしまう。研究すればするほど問題は難しくなる」とはぐらかしながら、「中国にとって、日本との貿易経済関係は極めて重要であり、リスクを避けようとするだろう。日中関係は中露関係より、経済、文化、歴史面ではるかに緊密であり、密接な協力が可能だ」とし、いずれ情勢は沈静化に向かうとの見方を示した。

 同所長はまた、「中国の新しい教科書に、『帝政ロシアが極東の中国領土150万平方キロを奪った』とする記述があり、ロシアにとって好ましくない。中国の専門家になぜこんな記述を載せたのかとただした」と語っていた。1970年ごろ、唐突に尖閣の領有権を主張し始めた中国の対応は、ロシアにとって他人事ではないようだ。

 同所長は、「国民レベルでは、東アジアでは日本の人気が圧倒的に高い」としながら、外務省では中国語スクールが出世頭で、デニソフ第一外務次官、アファナシエフ駐日大使、ブヌコフ駐韓大使、ラザロフ駐中国大使ら東アジア主要国大使が中国派で固められていることを指摘。外交官の登竜門である国際関係大学の学生の間でも、中国語人気は英語より高いと話した。

 中国で2年間少林寺拳法を習ったとする新しいタイプの中国専門家、マスロフ高等経済大学教授は、日中の領土紛争でロシアは「センカク」という表現を使用し、暗に日本支持のシグナルを送っていると指摘し「歴史的に見て、中国の立場は支持しにくい」と述べた。

 マスロフ教授によれば、ロシア識者の中国観は分裂しており、①中国はロシア唯一の友人であり、中露は互いに補いながら、共同で発展できるとする対中ロマンチシズム派②中国とロシアの経済力格差はますます拡大し、ロシアは中国経済に飲み込まれる。ロシアは中国より欧米に接近すべきだとする対中嫌悪派③中国の台頭を合理的に抑制しながら、利用すべきとするリアリスト派――の3つのグループがある。

 ロマンチシズム派の代表格は、1960年代の中ソ対立を受けて設置され、中国非難の先頭に立った極東研究所で、同研究所の専門家は中国に招待され、すっかり洗脳されてしまったという。数年前、ウラジオストクを2分割し、半分の開発を中国にゆだねるよう主張したロマンチシズム派の学者もいたという。

 プーチン政権はリアリスト派だが、それでも政権内には中国警戒論が高まっている模様だ。政権に影響力を持つニコノフ下院外交委副委員長は、「プーチン大統領は中国にロシアの戦略的資産を掌握させないよう指示している」ことを明らかにし、「極東開発などで、ロシアは中国より日本企業の進出を希望する。その理由はよく知られているはずだ」と話していた。確かにロシアは、シベリアの石油・ガス田開発で中国企業には権益を与えず、日本企業に与える意向を示している。

 マスロフ教授は「ロシアにいる中国人の数は、非合法滞在が多く、①800万人説②200-300万人説③100万人説――がある。正確な数字は不明だが、極東だけで中国人や北朝鮮労働者が50万人いる。極東の産業の35%は中国資本の管理下に置かれた。中国の進出は、一部の基幹産業においては制限すべきだ」と述べていた。ロシア各都市にチャイナタウンが誕生し、中国人流入の実態すら分からない中で、ロシアの対中警戒感は確実に強まっている印象を受けた。

 中露間では今、歴史的なパワーシフトが進んでおり、昨年の中国の国内総生産(GDP)はロシアの4倍に上った。過去数世紀、中露・中ソ関係ではロシアが常に兄貴分だったが、今では「中国の妹」(タブロフスキー・ルムンバ大学教授)となってしまった。この構図は今後さらに広がり、ロシアが再び兄貴分になることはあり得ない。その焦燥感も対中警戒感の背景にあるような気がした。

(名越健郎)