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今は第2次世界大戦の起点、「1937年」と類似 金融危機後、長期にわたって失望する世界

今は第2次世界大戦の起点、「1937年」と類似
金融危機後、長期にわたって失望する世界

ロバート・J・シラー:米イェール大学経済学部教授
2014年10月4日
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ウクライナ東部のドネツク。内戦による緊張状態は続いている(AP/アフロ)
1929年の株式大暴落が引き金となった大恐慌は、8年でさらに悪化した。第2次世界大戦が計り知れない規模の経済抑圧として機能した揚げ句に、世界経済はやっと回復した。6000万人超が命を奪われ、ヨーロッパとアジアの多くの地域が廃墟と化した。
現在の世界の状況は、これほどの危機に瀕しているわけではないが、類似点もある。とりわけ1937年のときと似ている。現在も当時と同様、多くの人々が長期にわたって失望し続けている。長期的な将来の景気動向をますます懸念しており、厄介な結果を招きかねない。
たとえば、ウクライナ東部での最近の紛争の背景には、2008年の金融危機が、ウクライナとロシアの経済に与えた影響がありそうだ。国際通貨基金 (IMF)によると、両国は2002年から2007年にかけて目覚ましい成長を遂げた。この5年間に、実質1人当たりGDP国内総生産)は、ウクライナ では52%、ロシアでは46%伸びた。しかし昨年度の伸び率は、ウクライナではわずか0.2%、ロシアでは1.3%だった。この失望が人々の不満を生み出 したととらえれば、ウクライナの分離主義者たちの怒りが、ロシア人の不満が、そしてプーチン大統領がクリミアを併合しウクライナの分離主義者を支援しよう とする背景が、よく理解できる。
ニューノーマル」と「secular stagnation」
金融危機後の人々の絶望を言い表すのに、ぴったりの言葉がある。「ニューノーマル」(新たな常態)だ。経済見通しが長期低迷している状況を指す。PIMCO(大手の資産運用会社)の創設者、ビル・グロス氏が言い出して広まった。
1937年以降の人々の絶望も、新たな表現を生み出した。「長期停滞」を意味する「secular stagnation」もその1つだ。「secular」は、「世代」または「世紀」を意味するラテン語に由来する。「stagnation」は「沼地・ 湿地」の意味で、毒性の強い危険を生み出す温床を暗示している。不満の蔓延が、すでにアドルフ・ヒトラーベニート・ムッソリーニの台頭を後押ししていた のだ。
1937年頃に急に使われ出した言葉としては「過少消費」もある。将来に不安を感じる人々は、今後迎える困難な時期のために過剰な貯蓄に走りがち だ。しかも人々が貯蓄する額は、投資できる余地を上回る。結果として総貯蓄額が増大し、新事業を始めることや、ビルを建設・販売することにつながらない。 投資家は既存の資産の価格を競り上げるが、それは、景気を減速させるだけだった。
フリードマンは、経済成長の低迷が不寛容、攻撃的なナショナリズム、そして戦争を引き起こしてきた多くの例を紹介している。そして、「生活水準の引 き上げに価値があるのは、単に生活を向上させるだけでなく、人々の社会的、政治的、そして究極的には道徳的な特性の形成に影響するからだ」と述べている。
私たちは欲張りすぎか
経済成長の重要性を疑問視する人もいる。彼らの多くは、私たちは欲張りすぎだ、余暇を増やしてもっと質の高い暮らしを楽しむべきだ、と言っているのだろう。彼らは正しいのかもしれない。
しかし問題の核心は、人々には自尊心と社会的比較の傾向が見られる点にある。経済成長が平和と寛容を促す、という希望の根底にあるのは、過去の人々と今の自分とを比較する癖だ。
東部ウクライナでのロシアの行動に制裁を科せば、ヨーロッパの内外で景気後退を引き起こしかねないマイナス面がある。景気が後退すれば、ロシア人もウクライナ人も不満を感じるようになる。
国境を越える侵略行為には、何らかの制裁が必要だ。しかし極端な手段や懲罰的な手段を取ることに伴うリスクには、常に留意しなければならない。制裁 を終わらせる合意をまとめ、ロシア(そしてウクライナ)をもっと世界経済に溶け込ませ、そしてこれらのステップを経済拡大政策と結び付けるのが、最も望ま しい。現在の紛争を満足できる形で解決するには、相当の努力が必要だ。