【ヤンゴン春日孝之】ミャンマーやマレーシアなどの洋上を通称ロヒンギャと呼ばれるベンガル系イスラム教徒の乗った密航船が漂流している問題で、ミャンマーの最大野党「国民民主連盟(NLD)」は1日、声明を発表した。この問題で発言を控えるアウンサンスーチー議長に国際的な非難が高まっていた。声明は「人道上の救援を最優先すべきだ」と主張するが、立場を明確にしない玉虫色の内容で、問題の根深さを印象付けている。
一方で声明は、今回の問題が「ラカイン州で3年前に始まった(仏教徒のラカイン族とロヒンギャの宗教・民族)紛争に関係しているのも事実だ」と指摘した。バングラデシュからの大量の密航者とどう関係しているのかを触れないまま、国連や米欧の主張に同調した格好になっている。
スーチー氏は当時からロヒンギャ問題に口を閉ざしてきた。チベット仏教最高指導者でノーベル平和賞受賞者のダライ・ラマ14世は先日、豪州紙に「スーチー氏と過去に2度会った際、この問題に触れたが、彼女は『極めて複雑だ』とだけ答えた。だがノーベル賞受賞者として何かできるはずだ」と語った。
ただ、大量の密航者流出について、バングラデシュのハシナ首相は「幸運を求めて自らの命を危険にさらし、国家のイメージを汚す者たちで、密航仲介業者と同様に罰すべきだ」と厳しい言葉で非難する。ミャンマー国境地帯に居住する数十万のロヒンギャは不法滞在者扱いだ。バングラデシュでロヒンギャが忌避されるのは、自国の人口増問題など多くの要素が絡む。
だが、タイのバンコクで先週開かれたロヒンギャを巡る関係国会議で、国連代表は「問題のすべての責任はミャンマー政府にある。ロヒンギャに市民権を与えるのが最終解決策だ」と発言。ミャンマー代表は「何も分かっていない。不法移民の問題を一国だけに押しつけるべきではない」と反発した。
このため、ミャンマー政府やラカイン州は、ロヒンギャを自国民として認知すれば、バングラデシュなど各国からロヒンギャが殺到し、人口増を招いて分離運動など国家統合に関わる新たな火種を抱えることも懸念している。政治家として活動するスーチー氏もこうした事情を承知しており、人権の側面だけで発言することはできないと判断しているようだ。