チベット亡命政府、中国に「高度の自治」重ねて要求
- 2015/9/1 23:50 日経新聞
【ニューデリー=共同】中国のチベット自治区成立から50年となった1日、インド北部ダラムサラのチベット亡命政府は「独立でなく、全てのチベット人のための自治」を提案しているとする声明を発表、チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世(80)が訴えてきた「高度の自治」を重ねて要求した。
また、ダライ・ラマの死後、中国が自国の意向に沿った人物を後継者として擁立する懸念があることを念頭に、「もし中国が転生者(後継者)選びを進めるなら、チベット人だけでなく、ダライ・ラマの教えを受ける数百万人の仏教徒から抵抗を受けるだろう」と述べ、中国をけん制した。
チベット自治区成立50年 中国、振興強調で不満抑制
- 2015/9/2 1:00
- 日本経済新聞 電子版
【北京=永井央紀】中国のチベット自治区は1日、成立から50年を迎えた。習近平指導部は交通インフラの整備など経済開発の成果を強調することで、宗教的な抑圧への不満を抑える傾向を強めている。中国の経済大国化とともに国際社会の関与が薄まってきたこともあり、チベット族は懸念を強めている。
習指導部は8月24~25日、2012年の政権発足から初めて「中央チベット工作座談会」を開いた。5年ぶりの開催となる座談会はチベットに関する基本方針を協議する場で、習氏は「チベットの経済と社会の発展を全力で推進し、貧困がもたらす重大な問題を着実に解決する」と、チベット経済の振興を続ける考えを表明した。
「『石だらけで人も馬も行けない』といわれたチベットは過去のことだ」「チベット経済は21年連続で2桁成長している」――。国営の新華社は8月中旬から、自治区成立50年に合わせてチベットの開発の成果を訴える記事を立て続けに配信している。ただ、14年の自治区の1人当たり域内総生産(GDP)は中国全体の平均の約6割にとどまる。高地が多い地形的な難しさもあり、発展には限界も見える。
習氏は座談会で「寺院の管理を強化する」とも発言した。7月には共産党に民族政策を担当する中央統一戦線工作指導小組の設置を決めた。チベットは1950年の人民解放軍による進駐以来、共産党政権への反発を抱え、89年や2008年など断続的に暴動が起きている。くすぶる民族問題に対して統制を強めようとの姿勢がうかがえる。
チベット亡命政府の関係者は「自治区内では常に監視され、抜き打ち検査も日常茶飯事だ」と監視の強さに不満を訴える。ラサにつながる青蔵鉄道の開通後、漢民族の人口が急増し、「入植地」のような漢族中心の新たな町もつくられた。チベットの伝統や文化の薄れることへの不満は強い。抗議のため焼身自殺を図るケースも珍しくない。
懸案は80歳になったチベット仏教の最高指導者、ダライ・ラマ14世の後継者問題だ。チベットには自身の死後に生まれ変わりとされる子供を後継者とする輪廻(りんね)転生制度があるが、中国政府には自らが後継者選びに関与したい思惑がある。今後の火種としてくすぶり続けるのは間違いない。
習氏の父・習仲勲元副首相はかつてダライ・ラマ14世と交流があったため、習指導部の政策に期待する声も一部にはある。亡命政府の関係者は「習体制になって締め付けがひどくなった。だがダライ・ラマ14世はまだ(習氏に)期待している」と複雑な表情だ。自治区成立から半世紀を経て、着地点はなお見えていない。