軟弱な地層、市の対応甘く 博多陥没、過去2度同様事故
2016年11月9日03時56分
福岡市の地下鉄工事現場で8日発生した陥没事故で、国土交通省が調査に乗り出した。同じ地下鉄工事で過去にも2度、同様の事故が起きており、市は再発防止を誓っていた。専門家からは、軟弱な地層への対策の甘さを指摘する声があがっている。
■市交通局幹部「万全を尽くしたが…」
トンネルの掘削法には主に、周囲を補強しながら硬い岩盤を掘り進む「ナトム工法」、軟らかい地層に円筒形の掘削機を押し込んで壁面を固めながら掘り進む「シールド工法」、地表から直接掘り進める「開削工法」がある。ナトム工法の費用はシールド工法の半分以下とされる。現場では深さ約25メートルの岩盤層をナトム工法で掘り進んでいた。
市交通局によると、岩盤層の上には粘土層や地下水を含む砂の層があることがわかっており、トンネルの上に岩盤層が厚さ2メートルほど残るようにして掘削する計画だった。
ところが、掘り進めるうちに、岩盤層の上部の「福岡層群」という地層が大きく上下に波打ち、計画通りでは一部で岩盤層が1メートルほどになることが判明。地下水が漏れないよう、トンネルの天井部を1メートル下げるよう今年8月に設計を変更していた。それでも事故は起きた。市交通局幹部は「原因をしっかり究明したい」と話した。
福岡市のJR博多駅前で発生した大規模な陥没事故について、近畿大理工学部の米田昌弘教授(土木工学)は「(延伸工事で)地下水が含まれている層を誤って壊してしまい、一気に水が流れ出た可能性がある」と推測する。地下の工事では、わずかな出水にも細心の注意を払うことが常識で、「こうした事故はたまに起きるが、ここまでの規模は珍しい」と話す。
関西大社会安全学部の小山倫史(ともふみ)准教授(地盤災害論)は「老朽化した水道管から水が漏れるなどして周辺の土砂が流出し、陥没現場の近くに以前から空洞が存在していた可能性がある」とみる。地表のアスファルトにへこみが現れるなどしなければ、空洞に気づかないことも珍しくないといい、「工事により、道路と空洞が保っていた絶妙なバランスが崩れた恐れがある」と指摘する。
米田教授も、今回の事故現場の断面に下水管とみられる数本のパイプが折れていたことに注目。「(漏水により)周辺の地盤が相当柔らかくなっていたのかもしれない」として、「どこでも起こりうる恐れがある事故。早期の確認が必要だ」と警鐘を鳴らした。
水道管や下水管の老朽化が進む大都市という点では、大阪市も福岡市と同じリスクを抱える。
大阪市下水道河川部の担当者は「老朽施設はあるので、漏水などの懸念があるのは事実。通常の維持管理の中で点検を行っていきたい」としている。
その原因とは何か。
http://www.asahicom.jp/images/asahicom/hand.png市営地下鉄七隈線の建設技術専門委員会のメンバーの三谷泰浩・九州大教授(岩盤工学)は、「福岡層群には、触るとぼろぼろになるような軟らかい石炭のような層が含まれる。これが陥没の引き金になった可能性がある」と指摘する。
ナトム工法では、トンネルの周囲に鉄筋のボルトを挿し、壁面にコンクリートを吹き付けて補強しながら岩盤を掘り進む。その作業中に石炭のような層を傷つけ、崩れ始めたのでは、とみる。これが「アリの一穴」のようになり、岩盤の上にある堆積(たいせき)層が順に崩れ、最終的に地表近くの地下水がトンネルまで流れて大規模崩落につながった可能性があるという。
一方、谷本親伯(ちかおさ)・大阪大名誉教授(トンネル工学)は「あれほど大きな陥没をしたということは、ナトム工法が向いていなかったのではないか」と指摘する。一般に軟らかい地盤や地下水の多いところではシールド工法が使われるという。
市交通局によると、陥没現場はナトム工法で掘削する西の端にあたり、その先はシールド工法だった。谷本さんは「地盤の条件がナトム工法に適していたのか、検証がいるのでは」と話した。
■市営地下鉄工事、過去に2件陥没
道路の陥没事故は、全国各地で起きている。
福岡市営地下鉄七隈線の工事では、過去にも陥没事故が2件発生した。2000年6月、福岡市中央区薬院3丁目で道路が幅約5メートル、長さ約10メートル、深さ7~8メートルにわたって陥没し、14年10月には今回の現場から約400メートル西で車道が幅・長さ各約3メートルにわたり、約3メートル陥没した。
各地の現場で、トンネル工事関係者がもっとも神経をとがらせているのが、地下水対策だ。早稲田大学の小泉淳教授(トンネル工学)は、「固い地盤が続いていても、急に地下水が多い層に変わることがある」とトンネル工事の危険性を指摘する。
神奈川県東部。相鉄線とJR、東急東横線をつなぐ「神奈川東部方面線」は計約13キロの大部分がトンネル区間で、独立行政法人鉄道・運輸機構が2022年度の完成に向け建設中だ。駅付近は地上から掘る「開削工法」が採用されている。新横浜駅付近の工事を受託する横浜市交通局によると、長さ35メートル、幅70センチの鋼板を地上から多数打ち込み、工事区間をぐるりと囲んで水や土砂の流入を防いでいる。担当者は「地下工事では水への対応が最も重要。水が入れば一緒に土砂も流れ込んでしまう」と地下水の怖さを強調した。
今回の福岡市の事故について、国土交通省の幹部は「施工側が事前にどの程度地下水の影響を考慮し、工事を進めたのかが今後の調査の焦点になる」としている。
一方、道路陥没の原因は、工事よりも下水道管の老朽化によるものが多い。老朽化や腐食で下水道管に穴が開き、そこから土砂が管に入り込むことで、地中に空洞ができ、道路が陥没するという。
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