これを 『収奪のための
資本投資』 となぜ言わない?
チベット騒乱から10年 中国、経済支配進める 2ケタ成長の陰で
- 2018/3/12 21:00
- 日本経済新聞 電子版
【北京=多部田俊輔、永井央紀】中国のチベット自治区ラサ市で大規模な暴動「チベット騒乱」が発生してから14日で10年が経過する。中国政府は同自治区への手厚いインフラ投資で、域内総生産の成長率を全国2位の10%に引き上げたとアピールする。ただチベット族が経営する地元企業は育たず、政府と共同歩調をとる大手企業の経済支配が強まるばかり。監視の目も厳しく、チベット族は不満を募らせている。
「3千メートルの高低差を抱える最高難度の工事に取り組む」。四川省成都市とラサを結ぶ1800キロに達する鉄道工事が近く大詰めを迎える。総投資額は2500億元(約4兆2千億円)。鉄道と前後して、高速道路や石油パイプラインも建設する大型プロジェクトだ。
同自治区では交通インフラの整備が進む。ラサと青海省西寧市を結ぶ青蔵鉄道が2006年に開通したのを手始めに、10年間で高速道路は5本開通し、地方空港も2カ所に開港した。17年の固定資産投資は10年前のほぼ10倍の2051億元まで拡大。全国平均の増加率が5倍弱だったのに比べ、著しい伸びだ。
交通インフラの整備は観光客を同自治区に呼び込んだ。17年の観光客数は2561万人、観光収入は379億元を記録。客数は10年前の約6倍、収入は約8倍と大きな収入源に育った。モバイル決済やシェア自転車などの最新サービスも、北京などに本社を置く大手企業の進出で受けられる。
インフラ投資をテコに経済は成長したが、「チベット族は豊かになっていない」(ラサに住むチベット族男性)との不満も漏れる。同自治区の都市可処分所得は15年前は全国平均を上回っていたが、現在は8割強の水準まで落ち込む。「観光客が落とす金はチベット族の財布から漢民族の企業に移った」とこぼす。
納税額をもとに算出した同自治区の上位50社をみると、チベット族が経営するのは建設関連の1社だけ。残りは北京市などの大企業の子会社がずらりと並ぶ。いずれも政府の投資拡大に沿って進出した企業だ。観光業も漢民族の企業が多い。