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「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成30年(2018年)8月20日(月曜日)弐
通巻第5798号
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戦後の欧州復興計画は、荒廃したヨーロッパの社会インフラ、経済の立て直しを図ろうとして、米国務長官だったマーシャルが立案し、当時の金額で100億ドルの支援と援助をなした。後半には軍事援助が主体となってNATOへの足がかりとなるのだが、とりわけドイツの復興に力点が置かれた。
マーシャルはこれによりノーベル平和賞を贈られている。
つまりマーシャルプランとは「公共財」の提供によって援助対象国を経済的に豊かにすることが目的だった。
中国のシルクロード(BRI)プロジェクトは公共財の提供ではなく、過剰な在庫処分と大量の失業者の輸出であり、巨額のプロジェクト資金も無償援助ではなく、高利で貸し付け、担保を取るという阿漕な高利貸し。すなわち相手国から収奪するのであり、これを「キンドルバーガーの罠」と呼ぶ。
したがって被援助国の経済的な被害がむしろ肥大化するにつれ、中国の評判は滅法悪くなった。
まさに「世界に孤立する中国、共産党の奥の院で四面楚歌の習近平」という新しい状況を生んだ。
プロジェクトに携わる世界の各地で、たとえばマレーシアの新幹線中断、ニカラグア運河の頓挫など、プロジェクトの頓挫が目立つようになったのである。
中国のBRI(一帯一路)の世界各地における挫折ぶりを、この稿ではラオスとスリランカの現状をみよう。
▲ラオスの新幹線、20%の工事が出来たが全土多難
アジアの内陸国家、最貧国のラオスの現状はどうなっているのか。
ラオスを縦断する新幹線は標語が「造福老中人民鉄路」(「老」は中国語でラオスの意味)と銘打たれ、北部ホーデンから(起点は雲南省昆明)414キロ、途中バンビエン(中世の首都)、世界的に有名な保養地ルアンパルパンを通過し、首都のビエンチャンへといたる。
2018年8月現在、20%の工事が完了し、全線開通は2021年2月2日(ラオス民主共和国成立46周年の記念日)を予定している。
工事を請け負っているのは中国鉄道建設の子会社「中鉄」で、その第二局と第五局が、現地を筆者が取材したとき、工事現場には大看板があり、労働者の宿舎にも、二局、五局の看板がでんとあった。
中鉄の第二局とは四川省成都が拠点。また第五局は、貴州省貴陽が拠点である。因みに第1局は西安、第三は太源、第四は合肥、第六は北京、第七は河南省鄭州にある。
中国が主導するラオス新幹線の北部の拠点はビエンバンに置かれる。
ビエンバン新駅は車庫や操車場も設けるため140ヘクタールの広さの用地が確保された。
ということは村人の移転が強要されたが、保証金は微々たる額でしかなかった。介在した地方政府幹部が懐にいれた分のほうが多かったといわれる。
新幹線プロジェクトに伴い、ラオス全土で立ち退きとなる総面積は3832ヘクタール(1haは一万平方メートル)。強制退去される居住者は4000家族、およそ2万人である。
その一方で、ラオス北部にすでに建設された高層ビル、マンションなど、ラオス政府が秘かに中国と契約し8000人の中国人の居住区となっている。あたりの不動産広告の大看板はすべて中国語、販売価格も人民元表示である。
狭い道路に長距離トラックはひしめき合い、すでにカジノホテルから、デューティー・フリーショップ(免税店)のけばけばしいビルも出来ていた。
開通の暁には旅客用新幹線は時速160キロ。2時間40分で昆明――ビエンチャンを結ぶ。貨物列車は時速120キロである。
このために造成するトンネルが53本、橋梁は167箇所(現在46の橋梁が工事中)。総工費は60億ドルである。
問題はラオスのような小国にとって、この60億ドルの捻出と回収をどうするのか、いかなる計算で元が取れるのか。
正確に言うと工事着手から現在までの建設費用は24億ドルで、中国とラオスが共同事業体を組み、中国が70%を出資し、30%がラオスの負担となった。つまりラオスの出資は7億2000万ドルである。
しかし最貧国のラオスとしては、国家予算から毎年5000万ドルを出費し、五年計画としており、残りの4億2000万ドルを中国輸出入銀行からの融資で補った。
条件は金利が2・3%、35年で返済する約束となっている。工事全体は残り36億ドルで、どのような資金調達をなすのかは不明である。
ところがラオス側は、この鉄道が中国の推進するシルクロードの一環であり、メンツをかけたプロジェクトであることを認識し、中国が追加融資をおこなうと楽観的なのである。また中国人が沿線の土地を買っているため、その所得も当て込んでいる。
ちなみにラオスのGDPは僅か180億ドル、ひとりあたりのGDPは2705ドル、経済成長率は過去十年間平均で5-8%だ。
新幹線への投資が、GDP比でみると、ほかの福祉予算などを食いつぶしていることになりIMFは遅ればせながら警告を発している。
▲現地ラオス人の不満は爆発寸前
ほかに問題が起きた。ラオス新幹線の目論見では現地に夥しい雇用が生まれ、またホテル、レストラン、ガイド、旅行代理店業務などが潤うとされた。
ところが現実には中国から囚人らが労働者として派遣され、およそ三万の建設労働者をやしなう宿舎は中国が建設し、食事はコックを含めて食材も中国から運び込み、ラオス人が経営する沿線各地のレストランは閑古鳥、ホテルもガラガラ、現地人の雇用とはならなかった。
これら少資本のホテル、レストランの経営悪化を聞いて、安値で買いたたいているのが、雲南省からきた華僑と韓国の商人たちだという(アジアタイムズ、8月18日)。
そればかりではなかった。風紀の乱れである。建設現場には売春宿がつきもの「LOVE BAR」とかのピンクのネオンの小屋があちこちに粗製乱造されたが、中国人の安い賃金では女性も買えないこととなった。
また将来の不安として、長距離バスのドル箱であるビエンチャン ー ルアンパルパン路線は新幹線に食われることにならないか。航空路も同様である。しかし現地を視察した専門家によれば、バンビエン新駅は市内から13キロ離れており、ルアンバルパンの新駅も旧市内から8キロも離れている。新幹線需要は、従来線を脅かすことにはならないだろうと見る。
▲ハンバントラを取られたスリランカ、コロンボ沖人工島建設は進捗中
スリランカはどうだろう。
南方のハンバントタ港を借金のカタにとられ中国の軍港と化ける。近くのラジャパスカ空港はついに国際線すべてが乗り入り中止。閑古鳥。
なのに、懲りずにスリランカ政府はコロンボ沖合の人工島プロジェクトを中国に委託している。これも借金のカタである。
スリランカ政府はセリナセ新政権となって、いったんはコロンボ沖合人工島プロジェクトを中止するとした。ところが資材、セメント、ブルドーザ、クレーンはすでに陸揚げされており、契約破棄となると天文学的な違約金を取られることが分かり、渋々工事継続を承諾した経緯がある。しかし中国側も追加融資を飲まざるを得なかったため、資金枯渇という問題が表面化した。
当初の計画では、人工島をオフショア市場とし、国際金融のハブ化させるばかりか、なんと60階建ての高層ビルを三棟、港も整備し、国際貿易の中継基地とする等、薔薇色の未来図だった。
主契約社は中国最大の港湾建設企業として世界的に有名なCHEC(「中国港湾=英語名はチャイナ・ハーバー・エンジニアリング」)だ。同社はパキスタンのグアダール港、マカオの国際空港、カラチの湾内肥料ターミナル、ペナン島の第二橋梁などの建設実績を誇り、シルクロード関連では軒並み入札に顔を出し、最近はアフリカ諸国、とくにエジプトにも進出を果たしている。
新都市は「ニューコロンボ・シティ」と命名される。
ここには中国と敵対するインド企業の誘致も図るように方針転換がなされた。隠れた理由はインドからも投資資金を呼び込もうとするもので、いよいよ資金が底をついた現れである。
269ヘクタールの人工島の89%が海を埋め立てて造成され、ジョイントの主体は中国港湾エンジニア公司を基軸に、スリランカ政府、当該地方政府などが参加した。
もっかのところ、インド、シンガポール、タイ、マレーシアそして日本にも資本参加を呼びかけている。
あたかも三年後に完成予定のマンションを、はやくに販売して頭金をかき集め、ローン契約で銀行から資金を融資して貰い、完成を急ぐデベロッパーの如く、販売チームはアジア諸国を訪問し、まだ完成もしていない未来図をもとに売り込みに必死だ。
工事の現状といえば、埋め立て工事の20%がようやく終わった程度で、この先の懸念は資金が続くか、どうか。人口島の埋立と整備だけで総工費14億ドルである。60階建ての高層ビルは別予算である。
▽◎◇み◎◇☆や▽◎◇ざ☆◇◎き□◇◎
「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成30年(2018年)8月20日(月曜日)弐
通巻第5798号
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マーシャルプランは公共財の提供による欧州の経済復興だった 中国のシルクロードは 過剰在庫処分と 失業者の輸出、 高利の金貸しが実態
*******************************戦後の欧州復興計画は、荒廃したヨーロッパの社会インフラ、経済の立て直しを図ろうとして、米国務長官だったマーシャルが立案し、当時の金額で100億ドルの支援と援助をなした。後半には軍事援助が主体となってNATOへの足がかりとなるのだが、とりわけドイツの復興に力点が置かれた。
マーシャルはこれによりノーベル平和賞を贈られている。
つまりマーシャルプランとは「公共財」の提供によって援助対象国を経済的に豊かにすることが目的だった。
中国のシルクロード(BRI)プロジェクトは公共財の提供ではなく、過剰な在庫処分と大量の失業者の輸出であり、巨額のプロジェクト資金も無償援助ではなく、高利で貸し付け、担保を取るという阿漕な高利貸し。すなわち相手国から収奪するのであり、これを「キンドルバーガーの罠」と呼ぶ。
したがって被援助国の経済的な被害がむしろ肥大化するにつれ、中国の評判は滅法悪くなった。
まさに「世界に孤立する中国、共産党の奥の院で四面楚歌の習近平」という新しい状況を生んだ。
プロジェクトに携わる世界の各地で、たとえばマレーシアの新幹線中断、ニカラグア運河の頓挫など、プロジェクトの頓挫が目立つようになったのである。
中国のBRI(一帯一路)の世界各地における挫折ぶりを、この稿ではラオスとスリランカの現状をみよう。
▲ラオスの新幹線、20%の工事が出来たが全土多難
アジアの内陸国家、最貧国のラオスの現状はどうなっているのか。
ラオスを縦断する新幹線は標語が「造福老中人民鉄路」(「老」は中国語でラオスの意味)と銘打たれ、北部ホーデンから(起点は雲南省昆明)414キロ、途中バンビエン(中世の首都)、世界的に有名な保養地ルアンパルパンを通過し、首都のビエンチャンへといたる。
2018年8月現在、20%の工事が完了し、全線開通は2021年2月2日(ラオス民主共和国成立46周年の記念日)を予定している。
工事を請け負っているのは中国鉄道建設の子会社「中鉄」で、その第二局と第五局が、現地を筆者が取材したとき、工事現場には大看板があり、労働者の宿舎にも、二局、五局の看板がでんとあった。
中鉄の第二局とは四川省成都が拠点。また第五局は、貴州省貴陽が拠点である。因みに第1局は西安、第三は太源、第四は合肥、第六は北京、第七は河南省鄭州にある。
中国が主導するラオス新幹線の北部の拠点はビエンバンに置かれる。
ビエンバン新駅は車庫や操車場も設けるため140ヘクタールの広さの用地が確保された。
ということは村人の移転が強要されたが、保証金は微々たる額でしかなかった。介在した地方政府幹部が懐にいれた分のほうが多かったといわれる。
新幹線プロジェクトに伴い、ラオス全土で立ち退きとなる総面積は3832ヘクタール(1haは一万平方メートル)。強制退去される居住者は4000家族、およそ2万人である。
その一方で、ラオス北部にすでに建設された高層ビル、マンションなど、ラオス政府が秘かに中国と契約し8000人の中国人の居住区となっている。あたりの不動産広告の大看板はすべて中国語、販売価格も人民元表示である。
狭い道路に長距離トラックはひしめき合い、すでにカジノホテルから、デューティー・フリーショップ(免税店)のけばけばしいビルも出来ていた。
開通の暁には旅客用新幹線は時速160キロ。2時間40分で昆明――ビエンチャンを結ぶ。貨物列車は時速120キロである。
このために造成するトンネルが53本、橋梁は167箇所(現在46の橋梁が工事中)。総工費は60億ドルである。
問題はラオスのような小国にとって、この60億ドルの捻出と回収をどうするのか、いかなる計算で元が取れるのか。
正確に言うと工事着手から現在までの建設費用は24億ドルで、中国とラオスが共同事業体を組み、中国が70%を出資し、30%がラオスの負担となった。つまりラオスの出資は7億2000万ドルである。
しかし最貧国のラオスとしては、国家予算から毎年5000万ドルを出費し、五年計画としており、残りの4億2000万ドルを中国輸出入銀行からの融資で補った。
条件は金利が2・3%、35年で返済する約束となっている。工事全体は残り36億ドルで、どのような資金調達をなすのかは不明である。
ところがラオス側は、この鉄道が中国の推進するシルクロードの一環であり、メンツをかけたプロジェクトであることを認識し、中国が追加融資をおこなうと楽観的なのである。また中国人が沿線の土地を買っているため、その所得も当て込んでいる。
ちなみにラオスのGDPは僅か180億ドル、ひとりあたりのGDPは2705ドル、経済成長率は過去十年間平均で5-8%だ。
新幹線への投資が、GDP比でみると、ほかの福祉予算などを食いつぶしていることになりIMFは遅ればせながら警告を発している。
▲現地ラオス人の不満は爆発寸前
ほかに問題が起きた。ラオス新幹線の目論見では現地に夥しい雇用が生まれ、またホテル、レストラン、ガイド、旅行代理店業務などが潤うとされた。
ところが現実には中国から囚人らが労働者として派遣され、およそ三万の建設労働者をやしなう宿舎は中国が建設し、食事はコックを含めて食材も中国から運び込み、ラオス人が経営する沿線各地のレストランは閑古鳥、ホテルもガラガラ、現地人の雇用とはならなかった。
これら少資本のホテル、レストランの経営悪化を聞いて、安値で買いたたいているのが、雲南省からきた華僑と韓国の商人たちだという(アジアタイムズ、8月18日)。
そればかりではなかった。風紀の乱れである。建設現場には売春宿がつきもの「LOVE BAR」とかのピンクのネオンの小屋があちこちに粗製乱造されたが、中国人の安い賃金では女性も買えないこととなった。
また将来の不安として、長距離バスのドル箱であるビエンチャン ー ルアンパルパン路線は新幹線に食われることにならないか。航空路も同様である。しかし現地を視察した専門家によれば、バンビエン新駅は市内から13キロ離れており、ルアンバルパンの新駅も旧市内から8キロも離れている。新幹線需要は、従来線を脅かすことにはならないだろうと見る。
▲ハンバントラを取られたスリランカ、コロンボ沖人工島建設は進捗中
スリランカはどうだろう。
南方のハンバントタ港を借金のカタにとられ中国の軍港と化ける。近くのラジャパスカ空港はついに国際線すべてが乗り入り中止。閑古鳥。
なのに、懲りずにスリランカ政府はコロンボ沖合の人工島プロジェクトを中国に委託している。これも借金のカタである。
スリランカ政府はセリナセ新政権となって、いったんはコロンボ沖合人工島プロジェクトを中止するとした。ところが資材、セメント、ブルドーザ、クレーンはすでに陸揚げされており、契約破棄となると天文学的な違約金を取られることが分かり、渋々工事継続を承諾した経緯がある。しかし中国側も追加融資を飲まざるを得なかったため、資金枯渇という問題が表面化した。
当初の計画では、人工島をオフショア市場とし、国際金融のハブ化させるばかりか、なんと60階建ての高層ビルを三棟、港も整備し、国際貿易の中継基地とする等、薔薇色の未来図だった。
主契約社は中国最大の港湾建設企業として世界的に有名なCHEC(「中国港湾=英語名はチャイナ・ハーバー・エンジニアリング」)だ。同社はパキスタンのグアダール港、マカオの国際空港、カラチの湾内肥料ターミナル、ペナン島の第二橋梁などの建設実績を誇り、シルクロード関連では軒並み入札に顔を出し、最近はアフリカ諸国、とくにエジプトにも進出を果たしている。
新都市は「ニューコロンボ・シティ」と命名される。
ここには中国と敵対するインド企業の誘致も図るように方針転換がなされた。隠れた理由はインドからも投資資金を呼び込もうとするもので、いよいよ資金が底をついた現れである。
269ヘクタールの人工島の89%が海を埋め立てて造成され、ジョイントの主体は中国港湾エンジニア公司を基軸に、スリランカ政府、当該地方政府などが参加した。
もっかのところ、インド、シンガポール、タイ、マレーシアそして日本にも資本参加を呼びかけている。
あたかも三年後に完成予定のマンションを、はやくに販売して頭金をかき集め、ローン契約で銀行から資金を融資して貰い、完成を急ぐデベロッパーの如く、販売チームはアジア諸国を訪問し、まだ完成もしていない未来図をもとに売り込みに必死だ。
工事の現状といえば、埋め立て工事の20%がようやく終わった程度で、この先の懸念は資金が続くか、どうか。人口島の埋立と整備だけで総工費14億ドルである。60階建ての高層ビルは別予算である。
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