パルデンの会

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与謝野馨氏の入閣をめぐる7つの問題点


末期的な日本の状況は 我々自身が
動いて対応しなければならない


山崎元のマルチスコープ
与謝野馨氏の入閣をめぐる7つの問題点
 1月14日に菅政権の改造内閣が発表された。小規模な改造だが、何といっても注目されたのは、たちあがれ日本を単独で離党して経済財政担当大臣になった与謝野馨氏の入閣だった。今回の彼の入閣は、現在の日本の政治状況を象徴する問題点を複数孕んでいる。
 尚、今回の内閣改造は、通常国会での特に予算関連法案の審議のために、参院における問責決議の可決で問題になっていた仙谷元官房長官と馬淵元国交大臣の交代が必要だとの判断で行われたものに見えるが、参院での問責決議が実質的に閣僚を罷免する決定になることが適当なのかどうかが、大きな問題として 残された。
 また、仮に、問責決議が政治的に大きな意味を持つのだとすると、自民党をはじめとする野党がなぜ菅首相や前原外務大臣ではなく、仙谷氏、馬淵氏を問責の対象としたのかが釈然としない。問責決議の大きな理由となった尖閣諸島沖の中国漁船問題の処理は、本来、外相なり首相が対処すべき問題であり、彼らの無能・無策が問われないのはおかしい。野党による与党の追求として不十分といわざるを得ない。仙谷氏、馬淵氏の更迭程度を「成果」として語ってお茶を濁すような腰抜け野党の支持率が高まらないこともまた当然だ。
(1)政治家の有権者への責任
 与謝野氏は、前回の総選挙では、小選挙区(東京一区)で民主党海江田万里氏に敗れて、自民党の候補として比例復活で当選して衆議院議員議席を確保した。
 有権者の投票は、政党・政策と候補者個人の人柄の両方を考慮して行われると考えるのがたぶん現実に近いが、小選挙区当選ではない比例復活の場合、より前者のウェイトが大きいと見るのが妥当だろう。
 この点、そもそも自民党で比例当選していながら、自民党を離党して、たちあがれ日本に参加したことが、有権者の付託に背く行動ではないかという疑義があった。現実に、自民党は与謝野氏を除名処分にした。
 もっとも、彼は離党の際に、「反民主、非自民」との立場を唱え、政策的には、民主党を批判する立場であることを掲げていたので、自民党離党時点では、政策に関する節は守っていたと考えることができた。
 しかしながら、今回、民主党政権に単独で参加するに及んで、彼の政治活動は、果たして彼を当選させる票を投じた有権者の意思を反映しているといえるのか、大いに疑問視されるところとなった。
 与謝野氏の立場を弁護するなら、政治家は自ら正しいと信じる政策を実現するために使える手段を最大限に使うべき職業だということだろうか。『週刊文春』(1月20日号)の記事によると氏は「国会議員が六人しかいないクズ政党に、与党入りの打診が来るなんて今回が最後だ。“弱い菅とは組めない”じゃない。“弱い菅だからこそ”我々に打診が来ているのだということを、平沼たちは分かっていない」と周囲に語ったのだという。
 判断の当否や、ご本人の行動の善し悪しを脇に置くと、与謝野氏の言葉は面白い。元政治家経験のある政治評論家としては故宮沢喜一氏以来の逸材ではないだろうか。氏が議員を引退して評論家の道を選ぶなら、多くの国民が歓迎するにちがいない。
 但し、たとえば、比例で当選した議員が所属政党を変えてもいいのか、さらに、選挙時の反対勢力に与していいのか、といったことに関しては、何らかのルールが必要ではないだろうか。この問題を考える上で、与謝野氏は格好の事例を提供した。
(2)マニフェスト放棄の象徴
 与謝野氏の行動を有権者への背信と見るとしても、これは、議席数にして一議席の問題だが、民主党マニフェストを全面的に放棄するとなると、これは、前回総選挙で民主党が獲得した議席数で考えるとして、三百倍以上の大問題だといえる。
 昨年から頻繁に会っていたとされる菅首相と与謝野氏が政策に関してどのような合意を交わしたのかは分からないが、「民主党が日本経済を破壊する」(文春新書)というタイトルの本の著者を、経済財政担当大臣に任命するというのだから、菅内閣が、従来の方針から大きく離れようとしていることは先ず 間違いない。
 民主党が前回総選挙のマニフェストで示した主な方針に対して、与謝野氏はことごとく辛辣な批判者であった。ムダの削減と予算の組み替えによる財源捻出に対しては「理解しがたい」、税方式による最低保証年金を軸とする民主党の年金改革案に対しては現行の「社会保険料方式で進むことが具体的であり実現性がある」、子ども手当に対しては「ばらまき」「親が子どもための消費に回す保証などない」、事業仕分けには仕分け人を「中国文化大革命の際の紅衛兵」に譬えた。政治的な「売り言葉に、買い言葉」の面はあるとしても、与謝野氏は民主党の政策、特に経済政策をほぼ全面的に否定していた人だ。
 但し、ここでは、大臣の席に座る与謝野氏よりも、彼を大臣に任命する菅首相の方により大きな問題がある、と考えるべきではないだろうか。
 与謝野氏の入閣は、菅政権が総選挙のマニフェストを放棄しようとしていることの象徴だ。有権者は前回総選挙で何を考えて投票したのだったか、それ以上に、日本にあって有権者は投票行動によって政策を選ぶことができるのかということが問われている。
(3)東京一区と民主党の事情
 与謝野馨氏の選挙区は東京一区だ。この選挙区では、与謝野氏と与謝野経済財政担当相の前任者で今回は経産大臣に横滑りした海江田万里氏が毎回激しく争っていた。
 今回の与謝野氏の入閣に関して、海江田氏は「人生は不条理だ」と語ったが、今回の人事は海江田氏だけでなく、東京一区の有権者にとっても、釈然としないものだ。
 海江田氏に投票した有権者は落としたはずのライバル候補が比例で復活するだけでなく重要閣僚として内閣で重用されるのを見るわけだし、与謝野氏に投票した人の多くは民主党への批判者だっただろうから、こちらもその与謝野氏が民主党政権の閣僚であることに納得できないだろう。
 ところで、次回はどうなるのだろうか。一部には、与謝野氏が高齢で病み上がりであることや今回の事情からして次回の衆議院選挙には立候補せずに引退するのではないかとの観測もあるが、政治家の進退に関する約束などあてにできるものではない。
 与謝野氏を比例名簿の上位で遇するという手もあるが、次の選挙が心配な多くの民主党議員から見ると、与謝野氏ばかりをどうしてそんなに優遇する必要があるのか、という不満の声が出て当然だ。
 別の観測として、海江田氏が今年の都知事選挙に出馬するのではないかとの声もある。しかし、前回選挙でやっと議員復帰を果たし、今回閣僚の地位を手にした海江田氏にとって、都知事選出馬はリスクが大き過ぎて算盤に合わない賭だろう。
 それにしても、人事の問題として考えると、仲間を連れてきたわけでもない与謝野氏への異例の厚遇は、民主党の他議員の不満の種であることは間違いない。
(4)政界再編の可能性
 低支持率に悩む菅政権としては、今回の内閣改造は支持を増やすチャンスだったが、与謝野氏の入閣は国民からプラスの評価を受けているようには見えない。朝日新聞社世論調査(1月17日朝刊)でも氏の入閣を「評価しない」との回答が50%あり、「評価する」の31%を大きく上回った。
 加えて、前述のように、ただでさえ党内の結束がままならない民主党にとって、今回の与謝野氏の処遇はネガティブな効果をもたらしているのだとすると、民主党としても、菅首相としても、今回の人事は算盤が合っていないといわざるを得ない。
 ここで一つの可能性として、与謝野氏の存在が他党との連携、あるいは切り崩しに対して、何らかの効果を持つ予定があると考えると、この奇妙で一見損な人事が意思決定としての合理的理由を持つことになる。
 自民党の一部を取り込むことができるのか、あるいは公明党との連携が可能になるのかなど、幾つかの可能性を考えることができるが、今のところ「与謝野氏がいてこその政界再編の道」といったものは見えていない。
 だが、何かを企んでいるのでなければ、与謝野氏の入閣は説明が付かないということは気にとめておく価値がありそうだ。
(5)経済財政担当大臣として機能するか?

 もともと経済財政担当大臣は役割と権限が曖昧な大臣職だ。敢えて言えば、経済問題に関して首相を補佐する大臣だが、財務相経済産業相、金融担当相といった経済閣僚がいるところに加えてさらにこの大臣職があることの明確な意味は見つけにくい。前任の海江田万里氏も大臣就任時に政府見解と少々異なる景気観を披露して話題になったが、予算編成などの具体的政策を通じて存在感を示したとはいいにくい。

 敢えていえば、小泉内閣時代の竹中平蔵元大臣のみが小泉首相の後ろ盾と、経済財政諮問会議を武器とした経済政策における政治主導によって存在感を示したが、その後、経済財政諮問会議が形骸化し、経済財政担当相の活動が目立たなくなっていった。そして、経済財政諮問会議の骨抜きを、安倍内閣時代は官房長官で、福田内閣麻生内閣にあっては当の経財大臣として進めてきた張本人が与謝野氏であったと筆者は記憶している。

 民主党政権になってから、経済財政諮問会議自民党が作った仕掛けとして活用されないままだが、これに代わって経済政策を政治主導で推進する仕組みはまだ作られていないし、従って機能していない。

 また、経済政策の司令塔としてかつての与謝野氏が十分機能していたかどうかについても疑問がある。彼は、サブプライム問題からリーマンショックに至る一連の世界的な金融問題の日本への影響を過小評価していたのではないだろうか。

 政治的な信条として、財政再建を重視する考え方は分かるが、財政再建は経済の状況に応じたものでなければ上手く行かない。与謝野氏が、デフレから脱却できない状況でありながら増税を強行しようとする「日本経済の貧乏神」的な役割を果たしかねないところに、今回の組閣の大きな心配がある。
(6)消費税率引き上げの強行突破?
 今回の組閣人事の目玉は、与謝野氏の経済財政担当相に加えて、枝野幸男官房長官、それに藤井裕久財務大臣官房副長官就任だろう。何れも政治的には一頓挫あった人達で、彼らの早々の再チャレンジは安倍晋三元首相辺りが大いに羨むところではないかと想像するが、経済政策に定見があるとの印象を受けない枝野氏を別とすると、与謝野氏、藤井氏共に強硬な消費税率引き上げ論者だ。
 今回の組閣で菅政権が与謝野氏に期待する役割は、消費税率引き上げの議論の矢面に立って泥をかぶることではないか。
 藤井氏は、さっそく2011年度中に消費税率引き上げのための法的整備もあり得ると言及し始めた。民主党は、前回総選挙で消費税率の将来の引き上げの必要性には言及していたが、4年間の政権担当期間中に財政支出改革を行った上で、次の選挙で民意を問うた上で消費税率を引き上げるとの方針だったはずで、鳩山前首相もそう言っていた。しかし、今回の新内閣の布陣は、その約束をも反故にして、ともかく消費税率引き上げを総選挙抜きで強行突破的に実現しようとしているかのように見える。
 与謝野氏は高齢であり、体調も万全とはお見受けしない。今回の入閣を最後のお勤め的に捉えて、何が何でも消費税率の引き上げに道を開こうと考えているのかも知れない。だとすれば、その政治家としての信念自体は立派であるが、与謝野氏の「男の花道」と日本の経済の状況がタイミング的に合致していないことが国民にとって大きなリスクだ。
(7)官僚支配の現実

 今回の組閣も含めて、政権交代以来の民主党政権の政治を見ると、マニフェストに掲げた政策の実現はその多くが頓挫しており、多くの有権者は、選挙によって国の形を変えることがいかに難しいかを思い知らされた。官僚受けのいい「政策通」である与謝野氏の入閣も、内閣が官僚にすり寄っていることの象徴といえそうだ。

 
 ー続 下 ー