集団的自衛権の行使容認が日本を平和にする根拠
日本を平和にするのか
それとも戦争に巻き込むのか
先週、やっとのことで安保関連法が成立した。
日本を平和にするのか、戦争に巻き込まれるのか、どちらになるかは将来の話なので、思い込みが色濃く出る。安保関連法の反対論者は、戦争に巻き込まれると決めつけている。自衛隊の海外活動が増えるので、戦争リスクは増すという単純な思い込みだ。日米同盟関係の強化によって、戦争を仕掛けられないという「抑止力」を無視している。戦争を仕掛けられないという場合を含めて考えれば、戦争リスクが単純に増えるとは言えない。
過去の歴史を分析することで
平和にするために諸条件を探る
それらを整理すれば、1823年から世界で起こった95の国家間戦争について、のべ337ヵ国が参加したことがわかる。それらの国の中で、最後の戦争から現在まで最も長く平和の期間を過ごしているのが、デンマークである。プロイセン王国とのシュレースヴィヒ=ホルシュタイン戦争が1864年に終戦になってから、今日まで151年間も、平和を維持している。
国際政治・関係論の集大成
「国際平和の5条件」とは
同書では、1886年から1992年までの膨大な戦争データについて、リアリズムとリベラリズムのすべての要素を取り入れて実証分析がなされている。すると、リアリズムの軍事力も、かつて哲学者カントが主張していた「カントの三角形」(民主主義、経済的依存関係、国際的組織加入によって平和になる)も、すべて戦争のリスクを減らすためには重要であるという結論だった。もちろんドイルのいう民主的平和論も含まれている。
軍事力については、(1)同盟関係を持つこと、(2)相対的な軍事力、カントの三角形については、(3)民主主義の程度、(4)経済的依存関係、(5)国際的組織加入という具体的なもので置き換えられ、それぞれ、戦争を起こすリスクに関係があるとされたのだ。これが、国際平和の5条件だ(下の図参照)。
具体的に言えば、きちんとした同盟関係を結ぶことで40%、相対的な軍事力が一定割合(標準偏差分、以下同じ)増すことで36%、民主主義の程度が一定割合増すことで33%、経済的依存関係が一定割合増加することで43%、国際的組織加入が一定割合増加することで24%、それぞれ戦争のリスクを減少させるという(同書171ページ)。
(1)同盟関係については、対外的には抑止力を持つので侵略される可能性が低くなるとともに、対内的にはそもそも同盟関係になれば同盟国同士では戦争しなくなるから、戦争のリスクを減らす。
(2)相対的な軍事力については、差がありすぎると属国化して戦争になりにくいというわけだ。
(3)民主主義については、両方ともに民主主義国だと滅多に戦争しないという意味で、古典的な民主的平和論になる。一方の国が非民主主義だと、戦 争のリスクは高まり、双方ともに非民主主義国なら、戦争のリスクはさらに高まる。アジアにおいて、中国とベトナムで何度も戦争しているが、まさにこの例だ ろう。
(4)経済的依存関係、(5)国際的組織加入については、従来のリアリズムから重要視されていなかったが、実証分析では十分に意味がある。
要するに、国の平和のためには、(1)~(5)までを過不足なく考慮する必要がある。ここで、重要なのは、属国化を望まないのであれば、(1)同 盟関係とカントの三角形(3)~(5)を両方ともに考えなければいけないということだ。カントの三角形だけで、(1)同盟関係の代替はできない。しかも、 非民主主義国が相手の場合には、カントの三角形が崩れているので、(1)同盟関係にかかる比重は、ことさら大きくならざるをえない。
5条件を備えた日本はアジアの例外
日米同盟強化が戦争リスクを減らす
その状況の中で、中国は一貫して民主国家ではなかった。中国の憲法には、まず共産党があって、人々はその指導を受けるとも書かれている。これは立憲主義ではない。さらに、平和憲法条項もなく、中国の軍隊である人民解放軍は共産党の軍隊と明記されている。しかも、国のトップが選挙で選ばれないので、独裁国家そのものである。これがアジアの紛争要因になっているのだ。
なお、日本の憲法学者が安保法を違憲と言うが、彼らはこうした定量的な国際政治・関係論を知らないのだろう。何しろ6割以上の憲法学者は自衛隊を違憲と言うのだから、その活動である集団的自衛権を否定するはずだ。それが戦争リスクを高めることにまったく気がついていないのは滑稽で、国際常識を知らない。国内で立憲主義を主張するより、中国に立憲主義を説いて民主化するように説得した方がいいだろう。