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破綻への秒読み始まる日本のゴルフ場
苦肉の「延命策」は奏功するか
ゴルフ場の経営が、人口減少と若者のゴルフ離れを受け、瀬戸際に立たされている。全国にあるゴルフ場のうち、外資系などを除く約8割が「進むも地獄、撤退も困難」な状況の中で、コースの一部を太陽光発電に変更するなど、あの手この手の対応に追われている。ゴルフ場経営にこの先展望は開けるのだろうか、最新情勢をリポートする。
青木功、尾崎将司、中島常幸のいわゆる「AON(エ―・オー・エヌ)」が活躍した1980~90年代、バブル時期とも重なって、ゴルフ産業は2兆円の規模に膨れ上がり、ゴルフ人口は1500万人に達した。しかし、バブルがはじけ、リーマンショックを経た今では700万人にまで激減し、この間、ゴルフ場の多くが倒産、会社更生法の適用を受け、経営者がコロコロと変わった。それでも約2300ものゴルフ場が残り、世界第2位の規模を誇っている。
メインプレーヤーは年金暮らし、熾烈になる価格競争
ゴルフ人口の減少に加え、外資系が口火を切った価格競争は熾烈を極め、プレー代はこの数年で大幅に下がり続けている。稼働率を重視するゴルフ場で重要なのがウィークデーにいかに集客するかだ。リタイヤしたサラリーマンの多くは年金生活のため、お小遣いも節約志向が強く、割高感があるとリピーターになってくれない。
ウィークデーで関東近辺なら食事付きで1ラウンド回って5000~7000円。土日でも1万円を切るところがあり、値下げ競争が止まらない。かつては温泉につかって1泊してゴルフも楽しむというゆったりした遊び方もあったが、いまでは日帰りコースが中心で、アクセスの不便なコースは敬遠されがちだ。その代わり、2人でもプレーをさせてくれ、一つコースの会員になれば、いくつかのコースを回れる共通会員になれるなど、プレーヤーにも特典を与えている。
芝の管理で手一杯、クラブハウスの雨漏り放置
18ホールのゴルフ場では芝やコースなどの維持管理で、最低でも年間2億円の費用が掛かるとされる。これを節約すると、コースが荒れて途端にゴルフ場の評判を落とすことになるためそれはできない。いま問題なのが、バブル期前後にできた多くのゴルフ場は、そろそろ主要な設備を更新しなければならない時期に来ていることだ。ゴルフ場の表玄関のクラブハウス、各コースに張り巡らされている排水管など、更新するとなるとすぐに数千万円から大掛かりになると億円単位の資金が必要となる。
全国に130コースを有する業界最大手PGMホールディングスの田中耕太郎社長は「ゴルフは装置産業であり、常に新しく設備を更新しないとお客は来ない。団塊の世代がプレーできなくなる向こう5~10年の間に、新たな顧客に合わせて改装を進めないと生き残れない」という。
取材に訪れた北関東のあるゴルフ場ではクラブハウスの天井から雨漏りが発生していた。ゴルフ場の顔とも言えるクラブハウスは本来なら最優先で修理しなければならないところだが、資金難からそこまで手が回らない。土曜日の12時過ぎと言うのに、食堂で食事している客がいないのには驚いた。ベランダの手すりはペンキがはげて錆が出ていた。
フェアウェイに数百基の太陽光パネル
首都圏から電車と無料バスを乗り継いで2時間弱、宇都宮市の北にあるロイヤルカントリークラブ。2009年に機械メーカーの染宮製作所(さいたま市)がTOB(株式公開買い付け)で買収。14年に同ゴルフ場に隣接している練習場に14億円を投じて4㍋ワットの太陽光パネルを設置して発電事業を開始した。これが収益に貢献したことから、全36ホールの半分をつぶして13㍋ワットの太陽光発電の増設を決定した。すでにフェアウェイには数百基のパネルが設置され、早ければ今年12月にも発電がはじまる。
都心から遠いこともあって来場者数が減少、神谷信隆総支配人は「ゴルフ場だけの売り上げではどうにもならない状況の中で、太陽光発電事業をすれば安定した収入になるので、何とかゴルフ場の経営を維持できる」と「2匹目のドジョウ」を狙っている。しかし売電価格が年々下がり続ける中、これから太陽光発電に乗り出し、経営の安定化を図ることは難しくなるだろう。
ゴルフ場にサッカーボール、顧客開拓へ苦肉の策
月刊『ゴルフマネジメント』(一季出版)の久保木佳巳編集長は「人口が減少する中、いまプレーヤーのメインである団塊の世代が70歳を迎える数年後には大幅に減ってしまうので、若い世代にもう少し興味を持ってもらうしかない」と指摘するように、斬新な取り組みも徐々に始まっている。
ロイヤルカントリーから車で30分ほど南に走ったとこにあるケントスゴルフ。オーナーは全国でライブハウスを展開する安本昌弘氏で、05年に買収した。クラブハウス内にはプレスリーなど有名ミュージシャンの写真やLPレコードが飾ってある。来場者の減少に苦慮したケントスは、14年にゴルフコース27ホールのうち2ホールをフットゴルフ用に改造し、家族連れなど新たな顧客の取り込みを始めた。
フットゴルフは、より少ないキック数で直径50㌢のホールにサッカーボールを入れるスポーツで、既に全国3カ所で同様の施設ができている。サッカーウェアに身を包んだ30歳代のプレーヤーは「ゴルフクラブなど道具が要らないので気軽にみんなと楽しめる」とナイスキックに興じていた。
オーナーの反対を押し切ってフットゴルフ導入に踏み切った新井博ケントスゴルフ社長は「来客数は月100人程度で売上的に貢献するまでにはなってないが、若い人が来てくれればゴルフ場としても賑わいが出て来る。フットゴルフがきっかけでゴルフを始める人が1人でも増えれば」と期待している。フットゴルフの評判は口コミで広がり、利用者は少しずつ増えているが、1人当たりの売り上げはゴルフの半分程度にしかならないという。
退くに退けない事情、何割が生き残れるか
撤退できない理由の一つに尾を引く預託金問題がある。預託金は会員権を購入した時に、会員権価格とは別にゴルフ場に預けておいたお金で、ゴルフ場にもよるが数十万円から百万円を超える金額だ。多くは預託金をゴルフ場の建設費や管理費として流用しており、返還に応じられるほど余裕のあるゴルフ場はまれで、大半は会員に対して事情を説明して返還を先延ばししてもらっているのが実態だ。
会員の側も返還を強く迫るとゴルフ場自体が立ち行かなくなり、プレーができなくなるので、それほど強く要求できない。中にはプレーできる会員を増やすことを条件に、返還を先送りし、返還する預託金を大幅減額するケースもある。「近い将来、倒産件数が一気に増える」(帝国データバンク)という。
またゴルフ場は山林などを地主から借りてゴルフ場を造成しているため、ゴルフ場を閉めた場合、元の状態に戻して返還する義務があるという。山を切り崩して作ったゴルフ場を元の状態に戻すのは相当の費用が掛かり、これも簡単にはできない。あるゴルフ場の支配人は「辞めたくても辞められない。苦しい中でも前に進むしかない」と内情を打ち明ける。
見てきたように、構造的に苦しい経営環境の中で、ゴルフビジネスは、対象となるプレーヤーを高齢者から、若者や女性などに抜本的に転換していかない限り展望が開けない。そのためには先行投資の資金が必要となるが、多くの小規模なゴルフ場はその余裕さえない。過去には外資系ゴルフ場が行き詰まったゴルフ場を買収して「受け皿」となってきたが、最近は厳しく選別している。多くのゴルフ場はいわば「ゆでガエル」状態になりつつあり、今後10年間に確実に減少していくだろう。