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「宮崎正弘の国際情勢解題」
令和四年(2022)12月10日(土曜日)
通巻第7546号 <前日発行>
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「死の商人」と米バスケット選手の「囚人交換」という米露の取引
ロシアの武器密輸の手口の一端が浮かび上がった
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話は10年前に遡る。
反政府武装勢力や凶暴なテロリストへの武器密輸で悪名高かったロシア人の裁判が米国で行われ、大きなニュースとなった。
国連制裁で国際手配されていた「死の商人」はヴィクトル・バウトというロシア籍の人物(現在59歳)。米国でのテロを計画した武装組織に「息をのむような兵器を提供する準備ができており、喜んで提供することができた」と発言した。
被告側弁護士アルバート・ダヤンは「バウトに対する訴訟は法外で弁解の余地のない政府の行為の産物」だとし、ダウトは無実と主張した。
バウトは、アメリカ人殺害を企て、対空ミサイルの密輸、物資の提供などの犯罪で米国イリノイ州刑務所に服役していた。
10年後。2022年12月8日、米ロは「囚人交換」を行った。ロシアの武器密売人ヴィクトル・バウトと引き換えにバスケットボールの花形選手、ブリトニー・グリナーを釈放した。ブリトニー・グリナーは長身の黒人女性、リオデジャネイロと東京の五輪で金メダル。世界的に有名な選手だが、同時にスキャンダルでも悪名があった。同性婚なのに妊娠したり、米国でも倫理的問題を問われていた。
麻薬などの不法所持でモスクワの空港で逮捕され、おりからのウクライナ侵攻のタイミングと重なったため、米国世論は「人質」と認識し、バイデン政権も、こうした世論を背景に想定外の囚人交換取引を模索してきた。
「死の商人」=バウトはアフガニスタン、イエメン、コンゴ民主共和国を含む一連の紛争地帯で、反乱軍に武器を提供する一方で、正規軍にも武器を売却した。まったく「死の商人」にモラルを求めることは難しい。
彼はタジキスタンの首都ドゥシャンベ生まれ。ソビエト軍で訓練を受け、また語学の才能があって母国語のロシア語とダリ語(タジキスタンはペルシア系)、その類似語であるペルシア語のほか、アラビア語、エスペラント語を喋った。
武器商人としてバウトは商いの民=ソグド人の末裔かもしれない。安禄山もソグド系だった。12万ドルで中古のアントノフ輸送機を三機購入し、大々的な武器密輸に乗り出した。当時、25歳。軍資金をいかにして調達できたのか。ロシア諜報機関の介在が云々された。
米国CIAが内偵をつづけていたため2008年にバウトはタイで拘束された。インターポールが協力した囮作戦だった。しかし裁判でバウトはロシアの諜報機関との関係を否定した。
2年後に米国へ身柄を引き渡され、25年の懲役刑だった。
▲武器密輸の手口とは?
さてこの問題が明らかにしたことは何か?
まずはロシアの「死の商人」たちの巧妙な手口だろう。政府とは無縁で正規軍とは無関係を装いながら、アントノフ輸送機を間接的に提供し、武器を横流ししてドルを稼いでいたのだ。
ロシア軍のなかに密輸部門があるのか、それとも軍隊内の利権なのか?
バウトが釈放され、モスクワに到着した際、ロシア政府高官たちが笑顔で出迎えたことは何を意味するのか?
筆者が連想をたくましくしたのは中国の武器輸出だ。たとえば、ミャンマーの反政府ゲリラ、少数民族の武装グループへ中国は武器供与を続けながら、一方で中国政府はミャンマー軍事政権へも武器援助を続けている。
矛盾した行為、複雑な経路と、込み入った回路をつなぐという悪智恵は、たぶん日本人は真似が出来ないだろう。
☆□☆◎み□☆☆□や☆□☆□ざ☆□☆□き☆□☆□