[東京 16日 ロイター] - 国際協力銀行(JBIC)の渡辺博史総裁(元財務官)は16日、銅価格の下落を根拠に「中国経済は一般に言われているよりも減速している可能性が大きい」と指摘した。先週末ペルーで開かれ自身も参加した20カ国(G20)財務相・中銀総裁会合では、7─9月の国内総生産(GDP)成長率が従来の7%から大幅に減速する公算が大きいとの見解を示した。記者団との懇談で語った。
渡辺総裁は「G20で中国側当局が10─12月期は若干よくなる感触と説明していた経緯などから、7-9月は大幅に減速するとの受け止めが多かった」と説明した。もっとも一部で報じられているように「3%台まで減速することはない」とコメントした。
<銅が鉄鉱石より下落、中国経済は効率化投資もできない可能性>
また、中国減速で商品価格が軒並み急落するなかで、過去数カ月は鉄鉱石価格よりも銅の価格下落が大きくなっている点に注目。銅は産業効率化に必要なIT投資向け銅線需要を反映するため「生産効率化といった前向きの調整も出来ないほど中国経済が悪くなっている可能性がある」との見解を示した。
人民元について「急激に下落すれば円高要因だが、じわじわ下落する場合は円も下落する」との見通しを示した。
原油価格については、米シェールオイル・ガスの損益分岐点が従来のバレル35ドル程度から25ドル程度まで下がっており、バレル50ドル程度という現在の低価格が「今後1年程度続くとの見方が増えている」と述べた。
リマで開かれたG20財務相・中銀総裁会合は、新興国経済減速の主因である「米国と中国が明確な話をしなかったため議論が拡散した」と総括。その結果、多国籍企業の課税逃れが議題の中心となったと説明した。領土内にタックスヘイブンを抱える英国や米国は消極的であったが「米英も問題意識を共有した」ことから「一定の成果」と評価した。
(竹本能文)
◇7%割れ…6年半ぶり
【北京・井出晋平】中国国家統計局が19日発表した今年7~9月期の国内総生産(GDP)は、物価変動の影響を除いた実質で前年同期比6.9%増となった。前期(今年4~6月期、7.0%増)から減速し、リーマン・ショック後の2009年1~3月期(6.2%増)以来、6年半ぶりに7%を割り込んだ。中国政府は今年の成長率目標を「7%前後」としていた。GDPの7%割れは、成長をけん引してきた投資の伸びが鈍ったことが要因。株価の急落で金融業の収益が悪化したことも響いた可能性がある。中国経済の減速が鮮明となったことで、世界経済への影響も懸念されそうだ。
【「爆買い」にも影響 消費主導へ改革進まず】
今年1~9月期の分野別では、固定資産投資(製造業の設備投資や社会インフラ投資など)は前年同期比10.3%増と、1~6月期(11.4%増)から鈍化した。地方を中心に続く不動産市場の低迷や、政府が無駄な都市開発を抑制していることなどが背景にある。投資の落ち込みを反映して企業の生産活動も伸び悩み、工業生産は6.2%増と1~6月期(6.3%増)から伸びが鈍った。また、欧州や新興国などの景気低迷を受けて頼みの外需も振るわず、1~9月期の輸出は1.9%減と前年を下回った。
消費も力強さを欠いている。消費動向を示す社会消費品小売総額は、1~9月期は10.5%増と1~6月期(10.4%増)から小幅の増加にとどまった。1~9月期の新車販売台数も0.3%増と、14年通年(6.9%増)と比べて勢いを失っている。
中国政府は、今年の成長率目標をこれまで3年間維持してきた7.5%から7%前後に引き下げた。無理な成長を追わずに、成長の質を高めるのが狙いだ。しかし、6月中旬以降の株価急落をきっかけに景気の先行きに不安が高まり、中国人民銀行(中央銀行)は8月、昨年11月以降で5回目となる利下げを実施。政府も9月以降、鉄道や道路建設などのインフラ整備プロジェクトを相次いで認可するなど、景気下支えに動いている。だが、下支え策が効果を表すには時間がかかるとみられ、市場では「今年の成長率は7%を割り込む」(エコノミスト)との見方も広がっている。