中国政府が、南シナ海での中国の権利を否定した常設仲裁裁判所の判決を「無効」と批判するキャンペーンを展開している。裁判官の国籍も問題視し、判決を拒否する正当性を強調。批判の矛先は日本にも向けられている。
 中国政府は13日午前、予定していた貿易統計の会見を延期し、判決への反論会見に差し替えた。会見では中国の立場を説明する「白書」を発表。歴史的経緯から「中国の領土だという基本的事実を変えることはできない」とし、判決を無効と主張した。白書は中国語のほか英語、ロシア語、アラビア語など計9言語で出版された。
 会見で外務省の劉振民次官は「仲裁裁判所が合法的な国際法廷ではないことを説明したい」とし、裁判官5人のうち4人が「欧州出身者だ」と指摘。「国際法廷は世界各種の文化と主要法体系を代表して構成するという、国連海洋法条約の定めに反する。彼らがアジアの文化を理解しているのか」などと批判した。
 さらに、5人の給与にも言及し、「国際司法裁判所国際海洋法裁判所の判事の報酬は国連が支給しているが、5人は金を稼いでいる。フィリピンのカネだ」などと述べた。判事の選定方法や適性も含めて手続きの「違法性」を主張した形で、「国際法史上、悪名高い判例となった」とも断じた。
 また、仲裁裁判の審理の過程で十分な海域調査をしていないとし、技術的な観点からも判決には問題があると強調した。
 http://www.asahicom.jp/images/asahicom/hand.png中国政府は日本にも批判の矛先を向けた。劉氏は会見で、5人の裁判官のうちフィリピンが指名した1人を除く4人は「すべて日本人の国際海洋法裁判所柳井俊二所長(当時)が指名した」と指摘。柳井氏が安倍晋三首相の私的諮問機関安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)の座長だったことに触れ、「裁判手続きの過程で影響を与えた」と述べた。
 中国外務省は12日夜、岸田文雄外相が出した「当事国は今回の判断に従う必要がある」との声明に対する反論コメントで、同様の批判を展開。判決に日本の政治的な意図が関わっていると強調することで、国内世論の不満を日本に向けさせる狙いとみられる。
 中国国内では12日夜から13日にかけて判決のニュースが駆け巡り、反発が強まっている。中国版ツイッター微博(ウェイボー)」では「中国の領土は一点たりとも譲るな」「強軍こそが中華民族が屈辱から抜け出す唯一の道」などと強硬な発言が目立つほか、「外務省には人材がいないのか」「裁判で反論すべきだった」などと政府の対応を批判する声も上がる。
 中国政府の強硬姿勢の背景には、判決を「座視」すれば、批判の矛先が指導部に向かいかねない懸念もあるとみられる。新華社通信は13日、南沙諸島の二つの滑走路で民間機2機が試験飛行に成功したと伝え、中国が今後も実効支配を進める姿勢をアピールした。共産党機関紙・人民日報も1面で「中国は将来、領土主権を守り、海洋権益の侵犯を受けないために必要なあらゆる措置を取る」と強硬な姿勢を示した。(北京=倉重奈苗)