アサンジ逮捕
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「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成31年(2019)4月19日(金曜日)
通巻第6049号 <前日発行>
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(休刊のお知らせ)地方講演旅行のため小誌は4月20日―23日が休刊となります。
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ウィキリークスの創業者、少年時代からの天才的ハッカー、世界の情報漏洩のセンター、婦女暴行常習犯、奇行愛好家、そして自由世界の機密を漏らした裏切り行為の数々。世界にその悪名を轟かせたジュリアン・ポール・アサンジが4月11日にロンドンで逮捕され、起訴された。
米国は国防総省、国家安全保障局などから機密情報を盗み出しウィキリークスに掲載したことを反逆罪と見なしており、いずれ身柄の引き渡しを英国に要求すると見られる。
アサンジは2016年の大統領選挙のおりも民主党本部のコンピュータに忍び込んで機密を盗んだとされ、げんにヒラリー・クリントンは「わたしがトランプに負けたのはアサンジの所為よ」と批判しているくらいだ。
また国防機密は米国内における協力者マニングという共犯者がすでに逮捕され、服役しているため米司法省は主犯格のアサンジを法廷で裁くのは当然としている。
アサンジがロンドンのエクアドル大使館に逃げ込んで亡命を求めたのが2012年6月だった。
爾来7年、寛大なエクアドルは彼を大使館内に住まわせ、その大使館という治外法権を活用したアサンジのスパイ行為を黙認した。アサンジ警護のためにエクアドル政府はおよそ6億五千万円、くわえて食費など大使館七年間滞在中にアサンジに使われた金額はおよそ7億円に達する。エクアドルは貧困な国であり、この出費は納税者の税金でまかなわれる。
エクアドルは赤道直下という意味だが、政治的にも不思議のくに、でもある。太平洋上はるか沖1000キロにはガラパゴスをかかえ、他方でバナナ、カカオ、珈琲など輸出国としても知られるが、法定通貨は米ドルなのである。
首都はグアイキル。人口は1400万人。ひとりあたりのGDPは6000ドル弱。最大都市はキトだ。
これらの輸出に携わる商社、明治時代からの移民があって、ささやかな日系社会もあるが、国民の主力は原住民とスペインの混血である。
アサンジは英国のエクアドル大使館をスパイ活動のセンター化し、施設内では寄行を繰り返し、さんざんな悪態のうえ、エクアドル政府の機密をウィキリークスに漏らしていた。とくにモレノ大統領の私的会話やら、家族の機密を漏らしたため、大統領側も激怒していた。
もともとエクアドル政府が、アサンジ亡命を受け入れたのは、反米という政治イデオロギーからである。
コレア前大統領は反米政治家で、騒ぎを大きくしようと受け入れ指示を出したとされる。その証拠に、現在、事実上ベルギーに亡命しているコレアは「モレノ政権のアサンジ逮捕は自由言論への野蛮な挑戦だ」と反米意識丸出しの非難声明を出している。
世界をかき荒らしたアサンジの直接の犯罪容疑は、2010年にスウェーデンで四件の婦女暴行で訴えられ、裁判となり、保釈が認められたが、2012年に保釈中の身でありながらスイスに亡命を申請し却下されたりした。
そこでロンドンのエクアドル大使館に逃げ込んだが、エクアドルはアサンジに市民権をあたえたばかりか、2017年には国籍も与えた。それほど厚遇だった。今回の逮捕により、市民権剥奪、国籍取り消しも予定している。なおスエーデンは告訴を取り下げている。
▲反米国家なのに通貨は米ドル、急速に親米外交に修正していた
温厚で福祉政策を推進するレーニン・モレノ(エクアドル大統領)を激怒させたのは、限界を超えた悪行で、壁に汚物を塗りたくったり、警備員を殴ったりのやりたい放題を、これ以上放置できなくなったからだとされる。
しかし実際は反米路線から大規模な軌道修正で、エクアドル外交を親米路線に切り替えたことが基本の流れにある。
その前段階にエクアドルは、南米諸国家のALBA(ボリバル同盟)から脱退し、ついでUNASUR(南米諸国連合)からも脱退。米国と急速に関係修復に動き、ペンス副大統領が訪問したあたりから、米国は武器供与を再開した。
そもそもモレアは、コレア政権十年の時代、副大統領であった。また1990代に銃撃を受けて半身不随となり、車いす生活。世界でも珍しい車いす元首として福祉予算を五十倍にするなどノーベル平和賞推薦の動きがあったほどだった。
▲南米で親米路線は難しい選択なのだ
モレアはタイミングを選んだ。
南米諸国の中でエクアドルは孤立を避けたい。なにしろアサンジ保護は反米諸国からは歓迎され、称賛されていたのだから。
しかし、南米諸国の団結は脆かった。
転機はベネズエラだった。原油価格暴落によって経済が立ちゆかなくなったベネズエラは中国に救いを求めたが、ひややかにあしらわれた。インフレ率はついに280万倍、通貨は紙くず化し、国民の350万人がブラジルとコロンビアに批判した。
資金枯渇のベネズエラはニカラグア支援が困難となり、このタイミングを選ぶかのようにトランプ政権はニカラグア、ベネズエラ、キューバの三カ国に対して規制強化と経済制裁を加えるとした。
このタイミングを見逃してはならない。モレアはアサンジ追放を決定した。
他方、アサンジ逮捕に抗議し、言論の自由の弾圧だなどと豪、スペインなどでは極左グループが集会を開催したほか、ハッカーにとってアサンジは英雄。逮捕直後からエクアドル政府にかけられたサイバー攻撃は4000万回を超えた。
◇◎□◇み◎◇◎▽や◇◎▽◇ざ◇◎▽◇き○□◎▽
「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成31年(2019)4月19日(金曜日)
通巻第6049号 <前日発行>
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(休刊のお知らせ)地方講演旅行のため小誌は4月20日―23日が休刊となります。
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一連のドタバタ、アサンジ逮捕の顛末は漫画的でさえある 裏切り者の末路なのに、アサンジ支持の左翼は抗議集会、ウィルス攻撃
**************************ウィキリークスの創業者、少年時代からの天才的ハッカー、世界の情報漏洩のセンター、婦女暴行常習犯、奇行愛好家、そして自由世界の機密を漏らした裏切り行為の数々。世界にその悪名を轟かせたジュリアン・ポール・アサンジが4月11日にロンドンで逮捕され、起訴された。
米国は国防総省、国家安全保障局などから機密情報を盗み出しウィキリークスに掲載したことを反逆罪と見なしており、いずれ身柄の引き渡しを英国に要求すると見られる。
アサンジは2016年の大統領選挙のおりも民主党本部のコンピュータに忍び込んで機密を盗んだとされ、げんにヒラリー・クリントンは「わたしがトランプに負けたのはアサンジの所為よ」と批判しているくらいだ。
また国防機密は米国内における協力者マニングという共犯者がすでに逮捕され、服役しているため米司法省は主犯格のアサンジを法廷で裁くのは当然としている。
アサンジがロンドンのエクアドル大使館に逃げ込んで亡命を求めたのが2012年6月だった。
爾来7年、寛大なエクアドルは彼を大使館内に住まわせ、その大使館という治外法権を活用したアサンジのスパイ行為を黙認した。アサンジ警護のためにエクアドル政府はおよそ6億五千万円、くわえて食費など大使館七年間滞在中にアサンジに使われた金額はおよそ7億円に達する。エクアドルは貧困な国であり、この出費は納税者の税金でまかなわれる。
エクアドルは赤道直下という意味だが、政治的にも不思議のくに、でもある。太平洋上はるか沖1000キロにはガラパゴスをかかえ、他方でバナナ、カカオ、珈琲など輸出国としても知られるが、法定通貨は米ドルなのである。
首都はグアイキル。人口は1400万人。ひとりあたりのGDPは6000ドル弱。最大都市はキトだ。
これらの輸出に携わる商社、明治時代からの移民があって、ささやかな日系社会もあるが、国民の主力は原住民とスペインの混血である。
アサンジは英国のエクアドル大使館をスパイ活動のセンター化し、施設内では寄行を繰り返し、さんざんな悪態のうえ、エクアドル政府の機密をウィキリークスに漏らしていた。とくにモレノ大統領の私的会話やら、家族の機密を漏らしたため、大統領側も激怒していた。
もともとエクアドル政府が、アサンジ亡命を受け入れたのは、反米という政治イデオロギーからである。
コレア前大統領は反米政治家で、騒ぎを大きくしようと受け入れ指示を出したとされる。その証拠に、現在、事実上ベルギーに亡命しているコレアは「モレノ政権のアサンジ逮捕は自由言論への野蛮な挑戦だ」と反米意識丸出しの非難声明を出している。
世界をかき荒らしたアサンジの直接の犯罪容疑は、2010年にスウェーデンで四件の婦女暴行で訴えられ、裁判となり、保釈が認められたが、2012年に保釈中の身でありながらスイスに亡命を申請し却下されたりした。
そこでロンドンのエクアドル大使館に逃げ込んだが、エクアドルはアサンジに市民権をあたえたばかりか、2017年には国籍も与えた。それほど厚遇だった。今回の逮捕により、市民権剥奪、国籍取り消しも予定している。なおスエーデンは告訴を取り下げている。
▲反米国家なのに通貨は米ドル、急速に親米外交に修正していた
温厚で福祉政策を推進するレーニン・モレノ(エクアドル大統領)を激怒させたのは、限界を超えた悪行で、壁に汚物を塗りたくったり、警備員を殴ったりのやりたい放題を、これ以上放置できなくなったからだとされる。
しかし実際は反米路線から大規模な軌道修正で、エクアドル外交を親米路線に切り替えたことが基本の流れにある。
その前段階にエクアドルは、南米諸国家のALBA(ボリバル同盟)から脱退し、ついでUNASUR(南米諸国連合)からも脱退。米国と急速に関係修復に動き、ペンス副大統領が訪問したあたりから、米国は武器供与を再開した。
そもそもモレアは、コレア政権十年の時代、副大統領であった。また1990代に銃撃を受けて半身不随となり、車いす生活。世界でも珍しい車いす元首として福祉予算を五十倍にするなどノーベル平和賞推薦の動きがあったほどだった。
▲南米で親米路線は難しい選択なのだ
モレアはタイミングを選んだ。
南米諸国の中でエクアドルは孤立を避けたい。なにしろアサンジ保護は反米諸国からは歓迎され、称賛されていたのだから。
しかし、南米諸国の団結は脆かった。
転機はベネズエラだった。原油価格暴落によって経済が立ちゆかなくなったベネズエラは中国に救いを求めたが、ひややかにあしらわれた。インフレ率はついに280万倍、通貨は紙くず化し、国民の350万人がブラジルとコロンビアに批判した。
資金枯渇のベネズエラはニカラグア支援が困難となり、このタイミングを選ぶかのようにトランプ政権はニカラグア、ベネズエラ、キューバの三カ国に対して規制強化と経済制裁を加えるとした。
このタイミングを見逃してはならない。モレアはアサンジ追放を決定した。
他方、アサンジ逮捕に抗議し、言論の自由の弾圧だなどと豪、スペインなどでは極左グループが集会を開催したほか、ハッカーにとってアサンジは英雄。逮捕直後からエクアドル政府にかけられたサイバー攻撃は4000万回を超えた。
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読み比べてください、
東京新聞より転載