スイス食品大手のネスレは8月28日、中国本土の飲料水事業をビール大手の青島啤酒集団(青島ビール)に売却すると発表した。なお、売却金額については公表していない。
今回売却するのは飲料水のグローバル・ブランド「ネスレ・ピュアライフ」の中国本土での独占使用権、中国市場向けブランド「大山」と「雲南山泉」の所有権、および上海市、天津市、雲南省昆明市にある3つの生産子会社の全株式だ。これは、一部の高級ミネラルウォーターの輸入販売を除いてネスレが中国本土の飲料水事業から全面撤退することを意味する。
青島ビールによれば、買収は同社側から提案し、ネスレがそれを受け入れた。近年、青島ビールは炭酸水、ミネラルウォーター、健康飲料などヘルシーさを前面に出したノンアルコール飲料の展開に力を入れており、ネスレの飲料水事業の買収を通じて同分野のさらなる発展を目指すという。
飲料水事業のグローバルな再編の一環
国際的な食品コングロマリットであるネスレの事業分野で、飲料水事業はここ数年停滞が目立っていた。同社の2019年のグローバル売上高は3年前に比べて3.5%増加したが、飲料水事業の売上高は同じ期間に0.3%減少。また、2019年の飲料水事業の売上高はグループ売上高の8.0%を占めたが、売上高総利益では全体の4.9%にとどまっていた。
そんななか、ネスレは全世界の飲料水事業の再編に着手。今年6月11日には、グローバル・ブランドを除いたアメリカとカナダの事業を売却すると発表した。中国本土からの撤退はそれに続く動きだ。ネスレの説明によれば、今後は高級ミネラルウォーターのブランド強化に注力するとともに、機能性飲料など健康志向のドリンク製品への投資を増やす。
なお、中国本土では飲料水以外の事業に関しても、缶詰や飲料が主力の子会社である銀鷺食品の事業売却を検討している。ネスレは今年4月に発表した1~3月期の決算報告書で、銀鷺食品のピーナッツミルクと八宝粥の事業について売却の可能性を含めた再評価を行っていると明かした。ただし、銀鷺食品が手がけるネスレ・ブランドの缶および樹脂ボトル入りのコーヒー事業は継続する方針だ。
(財新記者:劉沛林、沈欣悦)
※原文の配信は8月29日
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中国から日本企業は撤退せよ
中国企業も中国から逃げ出している。 それでも進出する日本企業に次々と仕掛けられる罠――。 中国一辺倒の時代は終わった!
内容
中国経済は依然として過熱気味の投資ブームが続き、高度成長の最中。
しかし、驚いたことに、その中国から中国企業が逃げ出している。
進出した日本企業からも悲鳴が聞こえ始めた。
繁栄の裏にひそむ陥穽とは!?
目次
プロローグ 中国企業も中国から逃げ出している
コスト高、不平等、治安の悪化/世界分割投資の時代に
[第一部]中国一辺倒の時代は終わった
第一章 中国進出企業の惨状を点検する
進出した日本企業の現場から悲鳴が聞こえ始めた/日本の拙速外交が失敗の原点/「特許」に振り回される日本企業/ヤオハンの倒産も教訓にならず/「ゴウベン」に仕組まれていた罠/これから起きるのは経営者の“人質化”だ/天安門事件以後もカモにされる日本と台湾/進出理由が中国国内市場にシフト/オーバー・キャパシティという新難題/約束を守らない中国に泣かされる日本の損保/ 問題山積の中国のビジネス・マナー
第二章 外資に仕掛けられるドラゴン・トラップ
摩訶不思議な「中国銀行」の上場/邦銀は過去の火傷が響いている/ついに北京オリンピックをめぐるスキャンダルが発生/カナダから吹く別のスキャンダル事件/それでも楽天的な外国人投資家たち/不良債権率の怪/次々に仕掛けられる外資への罠
[第二部]中国進出が無駄になる、これだけの理由
第一章 繁栄の裏にひそむ現実を見よ
中国企業だって失敗はあるさ/ロシアはまるで“プーチン株式会社”/軍偏重の権力機構/恣意的でデタラメな経済統計/世界最大の経済格差/空前の上場ブームにひそむ罠/一党独裁が続く限り、中国に明日はない/ 繁栄は幻影、実態は張り子の虎
第二章 公害輸出大国への道
やがて中国には人が住めなくなる?/鳥インフルエンザで1億5000万人が死ぬ/ 情報隠匿がなぜ悪い/報道されないAIDSと奇病の数々
第三章 中国の宗教模様
キリスト教の秘密信者が7000万人/教会人事をめぐり対立するバチカンと共産党/宗教復活は擬勢/売僧・官僧が支配する仏教界/チベット族の村々で/教典も共産党的に改竄 /臓器売買にみる倫理観の欠如/海外華僑のキリスト教改宗
第四章 「反日」とその後の政治状況
80年前の「南京事件」の教訓/燃え上がる「反日感情」の渦のなかへ/反日記念館には何が展示されているのか?/観光地化した反日記念館御三家/中国人に歴史的客観性を求めるのはナンセンス/ 愛国は偽物という中国知識人らの声/“反日”から“反中”へ
第五章 北朝鮮を植民地化?
北朝鮮をめぐる“三派鼎立”の宿命的構造/胡錦濤の北朝鮮礼賛演説/ならば韓国経済は本当に薔薇色か?/ 北朝鮮と中国国境地帯の大変化/いまごろ投資を復活する日本企業
[第三部] 中国がダメなら次はどこだ?
第一章 アジアの巨象、インド
ドラゴンからエレファントの国へ/インドに大きな夢と可能性が/政治テロが大きな障害に
第二章 人気のベトナム、穴場のラオス
米国がベトナム経済に乗り出した/ラオスは驚くほどの親日派/敬虔な仏教徒とビジネスとの相克
第三章 今が進出のチャンス、ミャンマー
仏教原理で動く国民の精神性/ミャンマーにも晩婚、少子化の波/バンコクの繁栄、カンボジアの静謐
第四章 南アジアの国々
南アジアの最貧国、バングラデシュ/貧しくとも心豊かな国民性/日本企業はパキスタンを敬遠/経済展望ゼロのアフガニスタン
第五章 資源の宝庫、中央アジア
米軍基地排除が争点/政治的貧困をさらしたキルギス/強権独裁のカザフスタンは石油の宝庫/独裁国家ウズベキスタンは観光の名所/ペルシアの末裔タジキスタン
第六章 モンゴル経済は離陸できるか?
ロシアの残骸がモンゴル文化に残る/中国のえげつない進出/独立の姿勢をようやく発信
エピローグ 「海賊版」と金融犯罪は消えず
蒸発した幹部らと500億ドルの行方は?/される方が馬鹿なのだ/戊戌の変の舞台裏の現場で
著者
宮崎正弘 (みやざき・まさひろ)
1946年金沢市に生まれる。早稲田大学中退。82年に『もうひとつの資源戦争』(講談社)で論壇へ。以降、『日米先端特許戦争』『拉致』など問題作を矢継ぎ早に発表。中国ウォッチャーとしても中国全33省を踏破。主な著書は『中国大分裂』(文藝春秋)、『迷走中国の天国と地獄』(清流出版)、『中国人を黙らせる50の方法』(徳間書店)、『中国財閥の正体』(扶桑社)、『中国のいま、3年後、5年後、10年後』(並木書房)、『瀕死の中国』『中国瓦解』(阪急コミュニケーションズ)など。
●装丁/倉田明典